❄43:氷たちの前哨戦。
アーデルヘイト嬢との裁判初日です。
二人で馬車に乗り、王城へと向かいました。
当国の貴族同士の裁判は、王城の議事堂にて国王陛下の立ち会いの下で行われます。
国王陛下がご無理な場合は宰相様が立ち会われます。
議長以外の議会員たちは自由参加ではあるのですが、今回はほぼ全員が参加しているようです。
罪状確定は、国王陛下がされます。
「さて、始めるとするか。被告人の氏名と告発の内容を述べよ」
「はっ」
国王陛下の重厚なお声が議事堂内に響き渡りました。それだけで、出席者たちの身体に僅かながら緊張が走るのが見て取れます。
ランヴェルト様が『アーデルヘイト・コニング』嬢の名前を挙げ、数年に渡るつきまとい行為とコニング家での殺人事件についての告発だと宣言されました。
「ふむ。では、被告人を入廷させろ」
静まり返った議事堂内に、扉を開く音が響きます。
そして次いで聞こえたのは、小さなカツカツといったヒールを床に打ち付ける音と、ドレスが衣擦れする音と、人々が息を呑む音。
美しい金色のストレートヘアを腰まで伸ばした華奢なご令嬢が薄い桃色のプリンセスドレスで入廷して来ました。
透明感のある白い肌と、ぷるんとした桃色の唇。零れ落ちそうなペリドットのような瞳は少し垂れ下がり、幼い少女のよう。
両脇を騎士に固められているのに怯える様子もなく、甘ったるげな微笑みをたたえながら堂々と歩いていました。まるで、王女かの如く。
「ごきげんよう、皆さま」
被告人席に座る直前、こてんと首を傾げつつ鈴の鳴るような声でそう言うと、お手本のようなカーテシーをしたのち、優雅に着席しました。
「――――では、告発状を読み上げます」
基本的に細々した進行などは議長が行われます。
議長が読み上げている間も、アーデルヘイト嬢は朗らかに微笑んだままでした。
裁判はどんどんと進んでゆき、アーデルヘイト嬢へ『秘権の告知』がされました。いわゆる、答えたくなければ答えなくてもいいというような黙秘権ですね。
次いで、罪状の認否確認。
これはアーデルヘイト嬢に告発されたことについてどう感じているのか、認めるのか、認めないのか、そのような確認です。
全員が固唾を呑む中、アーデルヘイト嬢がゆっくりと立ち上がりました。
彼女が認めるのか、認めないのかによっても今後の流れが大きく変わります。
そもそもそういったことについての判断や認識ができるのかも、不明でした。
彼女の後見人や精神病院の主治医などを証人として呼んでいますが、全員が「どう反応するか、分からない」と口を揃えて言っていたのです。
「国王陛下におかれましては――――」
「よい。省け」
正しくはあるのです。正しくは。
陛下にご挨拶も必要でしょう。普通の会議や夜会などであれば。
ですが、今は違います。
「あら? 承知しました」
くすくす。
なぜか楽しそうにアーデルヘイト嬢が笑われます。それだけなのに、なぜか背筋がゾワリとする感覚がありました。





