❄4:氷の貴公子様と薔薇園。
氷の貴公子様と薔薇園を歩きました。
無言で。
三十分ほど歩いていると、真っ白に輝くガゼボがいくつも現れました。白亜の柱に蔦薔薇が巻き付いており、美しい色彩の空間です。
そこでは数組の男女がそれぞれ楽しそうに談笑しながら休憩されていました。
どうやらカフェになっているようで、それぞれのガゼボが個室扱いのようです。
色んな意味で目に染みる空間ね、と思いつつ通り過ぎようとしていましたら、氷の貴公子様がエスコートの手をそちらの方向に軽く動かしました。
どうやらガゼボに立ち寄るようです。
「お待ちしておりました」
執事服を着た従業員に、リザーブの札が置いてあるテーブルに案内されました。
――――予約していたのね。
案内された席に着くと、メニューブックを渡されました。
「これがおすすめだそうだ」
「では、それで」
どうやら氷の貴公子様も同じものを頼まれるようで、特にメニューを見ることもなく注文を終わらせていました。
そうして届いたものは、イヴピアッチェという濃いピンクの薔薇ジャムを使ったケーキと、フレーバーティーでした。
「こちらの紅茶は、ドライされた白桃と苺、そして薔薇が使われております」
「ありがとう」
まずは紅茶から。
カップを傾けて少し口に含むと、甘酸っぱい桃と苺がほのかに甘い紅茶と混ざり、なんとも言えない瑞々しい味になっていました。そして、ふわりと鼻から抜ける薔薇の芳醇な香り。
「――――美味しい」
「ん」
口からポロリと零れ落ちた呟きは、氷の貴公子様に届いていたようで、彼が小さな返事をしました。
ちらりと視線を向けると緩やかに微笑まれていて、氷でも綻ぶ時もあるのね? なにかいいことでもあったのかしら? 紅茶が美味しかったし、それかしらね? なんて考えていました。
紅茶とケーキを堪能することに忙しかったので、この時は気付いていませんでしたが、どうやら周りのガゼボにいた方々がとてつもなくザワついていたと、屋敷に戻ったときに侍女が興奮気味に話していました。
ちなみに、ガゼボで休憩後は、薔薇園をまた無言で散策しました。
別に無言だから気まずいとかはありませんが、このデートって、意味はあるんですかね?
まぁ、流石に今の状況でご本人には聞けませんし……結婚後にでもチャンスを見つけて聞いてみましょう。