❄36:ランヴェルト様の涙。
初めてと言っていいほどに沢山の会話をしました。
ランヴェルト様の普段のお仕事から、結婚前に行かれたような視察についても。
初めてお聞きすることが多く、目から鱗を落としてばかりいました。
「――――では、宰相様は来月には?」
「ああ。ずいぶんと年だからね。まぁ、それを本人に言うと走って追いかけて来るくらいには元気なんだが……」
「っ、ふふっ。あの宰相様が?」
「あぁ! あの爺さんはね、凄いんだ――――」
ランヴェルト様が、身振り手振りで宰相様の恐ろしさをお話してくださいます。
こんなにも饒舌なランヴェルト様は初めてで、驚きはもちろんなのですが、なぜかドキドキとした動悸を感じます。
もっと見たい。
もっと知りたい。
この感情に名前をつけるのなら、何になるのでしょうか?
「覚悟はいい?」
「…………はい」
ランヴェルト様の執務室のソファに二人並んで座り、ゆっくりと開く手紙。
アーデルヘイト嬢の信者と思しきご令嬢からのラブレターの一通目。
ランヴェルト様の見た目がどれだけ素晴らしいか。
どれだけ神秘的か。
自分と結婚したのなら、どれだけ綺麗な子供が産まれるか。
どれだけ優秀な遺伝子なのか。
知能の高い子供しか産まれないという謎めいた宣言。
「凄い、ですね」
「ん。読む価値はないだろう」
「…………明言は避けます」
そして二通目。
それは嘆願書…………のふりをしたラブレター。
アーデルヘイト嬢は無実だという訴え。
彼女は、両親に虐げられていたせいで、精神を病んでしまっただけだから、二人が側にいない今はもう大丈夫だという主張。
自分が彼女の後見人になること。
一見すると、アーデルヘイト嬢のことを心配しているかのような文面ですが、ところどころに『ランヴェルト様と密に連絡を取る必要がある』という主張。
それは、アーデルヘイト嬢のことが心配だろうから、気になるだろうから……と親身なふりをした文面。
「なるほど、これは……」
「破り捨てたくなるだろう」
「……明言は避けます」
「む? またか。なぜだ?」
なぜと言われても。
「ちょっと、汚い言葉になりそうなので……」
「ブッ! ふはっ! んはははは!」
ランヴェルト様が勢いよく吹き出したかと思うと、お腹を抱えて笑いだしてしまいました。
晴れ渡るような空色の瞳が潤んでいます。
――――そこまで!?
目尻に涙を溜めるほどに可笑しかったのでしょうか?
いったい、何が?
ランヴェルト様の瞳が涙で潤んでいる様子は綺麗なのですが、妙にモヤッとしました。





