❄35:圧倒的に足りないもの。
過去の新聞をいくつか読んで資料棚に戻していると、『コニング家』と書かれたファイルを見つけてしまいました。
見てもいいと言われていても、本当に見ていいのか。
見たいはずなのに、見たくないと思うのはなぜなのか。
そこでふとフリーナ様や友人から言われたことを思い出しました。
――――私たちは、圧倒的に会話が足りない。
一人でもやもやと考えていないで、ランヴェルト様と直接お話して、考えや想いをすり合わせることが大切なのでは?
確かに情報収集は大切です。が、資料から得るよりも、ランヴェルト様から直接お伺いしたい。
少し取り出しかけていた『コニング家』のファイルを資料棚にゆっくりと戻します。
私は、ランヴェルト様の帰りを待つという選択肢を選ぶことに決めました。
「もうよろしいので?」
「ええ」
執務室を出ると、執事と侍女が扉の横で待っていました。
きっと、ランヴェルト様の指示ですね。中に入らないようにしてくれていたのでしょう。
「ありがとう。ランヴェルト様の帰りを待つわ」
二人にそう告げると、深々と頭を下げられました。この二人は長く勤務しているらしいので、きっといろいろなことを知っているのでしょう。
ランヴェルト様が帰られて、先ずは食事。
そして、決意したからには有言実行しようと思います。
「てっ……て、定例会議は問題なく終わられましたか?」
「……………………ぇ」
意を決して声を出したわりに小さく、微妙に噛むし、ひっくり返りはするで、少し恥ずかしいです。
しかも、ランヴェルト様はきょとんとしています。もしや聞こえていなかったのかも?
「っ、なんでもありま――――」
「てっい例くゎぃ議はっ! 滞りなく終わった!」
前のめりになったランヴェルト様が、お腹の底から叫ぶような勢いで言われました。
「「…………」」
二人とも無言になってしまいました。
ジッとお互いの赤い顔を見つめ合っていると、なぜか笑いが込み上げて来ます。
「……プフッ」
「っ、はははっ」
どちらともなく小さく吹き出し、徐々に笑い声へと変わっていきました。
「ふははっ。ん、定例会議は、各人の愚痴と陛下の世間話がほとんどだった」
「愚痴と世間話、ですか」
「ん。今年はあそこの茶葉の出来がいいらしいとかな。あそこのワインが値上がりするぞとかな」
会議といっても、議題がなければその程度のことしか話さないそうです。
「ということは、概ね平和ということで?」
「ふふっ。そうなるな」
「それは素晴らしいことですね」
「ん」
お互いが微笑みながらの弾む会話。
決意した途端、こんなにもスムーズな会話ができるものなのでしょうか?
こんなにも簡単なことだったのでしょうか?
なぜ、今まで実行しなかったのかしら?
後悔先に立たずとは言いますが、これはまだどうにかなる。だから、今からでも遅くないのですよね。
もっともっと、ランヴェルト様とお話したいです。





