❄33:焦るランヴェルト。
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テレシアが真顔で言い放った言葉に、心臓が止まりかけた。
『ランヴェルト様は、状況によって女性を蹴ることができる、と』
焦りに焦って変な声を漏らしてしまった。
テレシアがきょとんとしている顔は可愛いが、今はそれどころではない。
「違うのです。ただ、情に絆されることなく、ご自身の安全と最適解を瞬時に判断できるのだなと」
なぜこのタイミングでしっとりと笑うんだろうか。
深い笑みが逆に怖い。
追求したかったが、執事に時間切れを告げられた。今すぐ出発しなければ遅刻する可能性が大きいと。
今日は定例会議があるので遅刻だけは不味い。が、夫婦の危機かもしれないのに、伯父上――国王陛下の長話など聞いてられないというのが本音ではある。
「いってらっしゃいませ」
真顔でササッと手を振るテレシア。
――――それは素なのか? 素、なのか!?
テレシアの方を振り返ったまま歩いていたら、またもや「いってらっしゃいませ」と言われた。しかも真顔で。
本気で夫婦仲になにか亀裂的なものが入ったのではないかと、心底不安になった。
「――――ということがありました」
定例会議のあと、伯父上に近況を聞かれたので報告すると「ケッ」と変な声を出された。
「誰が惚気話をしろといった」
「してませんが?」
「天然か」
「意味がわかりません」
本気で意味がわからなかったのだが、またもや「ケッ」と言われたので、この話はこれで終わりのようだ。
「しかし、コニングの話をしたか。お前にしては進歩じゃないか」
「そうでしょうか?」
もし聞かれなければ、一生黙っていた気はする。良くも悪くも情報操作が得意な両家だったから、ほとんどが表にバレずに済んでいた。
おかげでアーデルヘイト・コニングの信者たちからあの女を解放するよう求める嘆願書までもが我が家に届くようになった。それに混じって気持ちの悪い恋文も。
それら全て名前と封筒を確認してから処分している。中身は一切読む気にはならないので、破り捨てていた。
どうやら、その行動が余計にテレシアに不信感を抱かせてしまったらしい。
「元侯爵夫人の希望で命は助けたが。どうする?」
元侯爵夫人――アーデルヘイト・コニングの母親は、隣国の第四王女。妾腹ではあるものの、隣国の王女の嘆願は受け入れざるを得なかった。
「コニングのせいで、どれだけ我が国に損害があったか。全くもって、生きていても死んでも煩わしい男だな」
「ええ」
先代国王からの取り立てで軍部を駆け上がっていたコニング総裁。付き纏う怪しい噂に、伯父上は頭を悩まされ続けていた。
予期せぬ終わりを迎えたものの、死後何年も経つのにまだまだ問題が残っているのかと、伯父上も私も深いため息が漏れ出た。





