❄3:無言の氷たち。
氷の貴公子様との顔合わせから一週間後、またもや我が家のサロンで冷やかな美人である彼と向き合っています。
無言で。
ゆっくりとティーカップを傾け、これまたゆっくりと紅茶を飲んで、時間稼ぎ中です。
だって、話すことも、話したいこともありませんから。
「……」
「…………」
「……」
飲み終わってしまいました。
おかわりはもう入りません。そもそも、これ以上飲むと、お花摘み案件になってしまいます。
そろそろ帰ってくださらないのでしょうか?
「…………」
「――――だな」
「……………………え? 何かおっしゃいました?」
「…………なんでもない」
何でもないと言うわりには、何か言いたげなほどに眉間に皺が寄っています。何か大切かもしれない言葉を聞きそびれたのかもしれません。
かも、ばかりですねぇ。気になるようで、気にならないようで…………いえ、気になりませんね。
そもそも、言いたいなら言えばいいだけですし。
「そうですか」
氷の貴公子様からスッと視線を逸らし、窓の外へと向けました。
そろそろ本当に、帰ってほしいです。
「お食事は、こちらで取られますか?」
「……………………いや、そろそろ帰る」
暗に『帰れ』と言ってみましたら、素直に帰っていただけました。結局、何しに来られたのでしょうね?
それからまた数日後、氷の貴公子様が我が家に来られました。
今日は、貴族街にあるカフェに行くそうです。
「…………」
「……」
「…………美味いな」
「……ですわね」
瑞々しいオレンジのタルトと、柔らかな甘味のある紅茶をいただきました。
氷の貴公子様もタルトなど甘味を食べられるのですね。予想外でした。
そして、この日の会話はこれだけでした。
家に戻ると、お父様の執務室に呼び出されました。
氷の貴公子様とのデートはどうだったかと聞かれ、そこであれがデートだったのだと知りました。
「普通です」
「普通か」
「はい」
「まあいい」
手を払う仕草をされたので用件は終わりのようです。
いちいち呼び出しておいて、それだけかとは思いましたが、そういえば基本的にいつもその程度の会話しかしていませんでしたね。
ここ最近は婚約の件があったせいで、会話が生まれていただけでした。
自室に戻り、まとめ上げていた黒髪を侍女に解いてもらいつつ、今回のことについて考えました。
氷の貴公子様の感情がよく見えません。
この婚約についてどう思われているのか聞いてみたくもありますが、逆に聞かれてしまうとどう答えていいものか悩みはするので、踏み込む気が起きません。
そういったとき、素の私が発する言葉はかなり心を抉るのだと、友人たちから定評がありますから。
――――さて、どうしたものでしょうね。
「……」
「…………迎えに来た」
「ありがとう存じます……?」
またもや氷の貴公子様が我が家に来られました。
今日は、王都の外れにある最近営業を始めた薔薇園に向かうのだとか。
無言で手を差し伸べられ、無言で手を重ね、無言で馬車に乗り込みました。
――――これ、デートよね?





