❄29:今日はこうして二人で。
お互いに抱き締めあったまま、ソファに倒れ込んで少し経ったころ。ランヴェルト様がぽつりぽつりと話し始められました。
「あの女は、精神を病んでいた」
ランヴェルト様の事件が起こる数年前に、婚約者だったとある騎士と未婚で純潔を散らし、怒り狂ったコニング総裁がその騎士を秘密裏に処分したそう。
「処分、ですか?」
「ん。僻地への左遷ならまだ良かったんだがな」
近隣国で起こっていた災害の支援という形で、一個中隊を送った。そして、アーデルヘイト嬢の婚約者のみが不慮の事故により死亡したとのことでした。
戻った遺体は見るも無惨なもので、大量の獣に襲われたかのようだったそう。
不審に思った宰相閣下が調査をさせたそうなのですが、同行していた他の騎士たちは固く口を噤んでいたそう。やっと開いたかと思えば、全員が「不慮の事故」としか言わなかったそうです。
当時、不審ではあるものの、たった一人の騎士の事故死にそこまで手を割くことが出来ず、結局は闇に葬り去られていたそうです。
「そして、あの女は……私がその男の生まれ変わりなのだと妄信していた」
「ふぇ?」
「はははっ。ん、そんな声が出るだろうな」
ランヴェルト様が軽く笑いながらソファからムクリと起き上がられました。
そして私を横抱きにして持ち上げると、ベッドに向かって歩を進められました。
「きゃっ!?」
「暴れないで。落としたくない」
「っ、はい」
まさか抱き上げられるなんて思ってもいなかったので、身動ぎしてしまいました。
ランヴェルト様にこんな力があったなんてと驚いていると、それが彼に伝わってしまったようで、ムッとした表情になられていました。
「君と私はお互いのことを知らなさ過ぎるな」
「そう……でしょうか?」
「私は男なんだよ」
「はい、知っていますが?」
「君を持ち上げられる程には、体力も腕力もある」
ちょっとだけ口を尖らせたようにして言ったその言葉は、途轍もない破壊力を秘めていました。
――――イジけてる!?
驚きすぎて、ランヴェルト様の顔をジッと見つめているうちに移動が終わり、ベッドにそっと降ろされました。
「あ……手紙を読みたいんだったな」
「ふふっ。はい。でも、明日でいいです。今日は抱きしめ合ってゆっくりと眠りましょう?」
「ん、ありがとう」
ランヴェルト様がふんわりと微笑んだあと、ゆっくりと顔を近付けてこられました。
するりと頬をなでてくる白銀の髪の毛がくすぐったくて身を捩ると、ランヴェルト様が私の頬を固定しました。
そして柔らかく触れる唇。
――――甘い。
なぜか、そう感じました。





