❄27:アーデルヘイト・コニングという女。
父に止められ、耐え続けること二時間。
気付けば私の周りはアーデルヘイト・コニングの指示で動く騎士たちで溢れていた。
令嬢たちの順番整理係のようなことをしている王城騎士たち。彼らにプライドはないのだろうか?
コニング家の当主が軍部の総裁だから、騎士たちは当たり前のように彼女に従っているのだろうか?
軍部を私物のように使うコニング家、それを気にしない騎士たち、それを見て見ぬふりをする父。
この時の私は、何が起こっているのか理解できていなかった。
伯父上――国王陛下はクリーンな治世を望んでいたはずだ。なのに、なぜ?
十歳の子供だとしても、帝王学を履修過程にある自分が違和感を抱かないはずがないのに。
「ランヴェルトさま」
「失礼だが、君に名前で呼んでいいと許可した覚えは――――」
「ランヴェルト様、恋する乙女の心を踏みにじってはいけませんわ」
頬を染めた幼い令嬢と、深い微笑みで私を注意するアーデルヘイト・コニング。
――――なんなんだ、この茶番は。
父が動くなと言うから、動かない。
私は父を信頼しているから。
だが、腸は煮えくり返そうだった。
アーデルヘイト・コニングが気持ち悪くて仕方なかった。
最終的に、茶番のような庭園茶会は、閉会するまであの女の独壇場だった。
そして、茶会の翌日から本当の地獄が始まるとは、この時の私は想像もしていなかった――――。
朝一番に手紙が届いた。
アーデルヘイト・コニングからの。
内容は、私にふさわしい令嬢のリストを作ったことと、釣書を同封していること。そして、どれだけ私を愛しているか。
それは枚数にして十枚もあった。
私が朝起きたときにする行動。
訓練の際の癖。
苦手な科目。
友人と会話する時の表情。
それらのどこがどれだけ可愛く、どれだけ格好良く、どれだけ尊いのか。
私が生まれたことに対する、神への感謝。
到底理解できる内容ではなかった。
直ぐに父に報告をすると、しばらくのあいだ我慢して欲しいと言われた。
コニング家の裏を掴みたい。
そのためにはあの女の暴走が必要なのだとか。
今はまだ、アーデルヘイト・コニングが親の権力を使って暴走しているだけにしか見えない。だが、コニング総裁が許さない限り、騎士たちを私物化はできない。
コニング総裁から連なる者たちを、芋づる式に捕らえたいのだと。
――――耐えるしかないのか。





