❄24:感情を知り、綻ぶ氷たち。
二人して無言で見つめ合うこと五分。
なんとも言えない空気が流れ続けています。
「…………今のは、忘れてください」
「無理だというか、嫌だ。一生忘れない」
「いっ、しょう!?」
まさかの、「一生忘れる気はない」と再度真顔で言われてしまいました。
――――なぜそこまで!?
「テレシアからの強い愛を感じた。凄く、嬉しいんだ」
氷の貴公子と呼ばれているランヴェルト様が、氷が溶けそうなほど柔らかい微笑みを零しました。
それは春の陽射しのように暖かく、眩しいものでした。
心臓が甘く締め付けられます。
これがときめきというものなのでしょう。苦しいのにとても心地よく感じます。
本で……文字でしか知りませんでしたが、本当に書いてあるとおりの感覚なのですね。
「テレシア」
「はい」
ランヴェルト様が微笑まれました。ですが、今度は少し苦しそうな、泣きそうな表情です。
「見て気持ちいいものではないと思う。こうなった経緯も話したいが、とてもとても長くなる」
「はい」
「先に食事にしてもいいだろうか?」
そう言われて、ランヴェルト様は王城でお仕事をされて、疲れて帰って来られたのに、私のわがままに付き合わせてしまっていたことに思い至りました。
「申し訳ございませんでした」
「ん?」
不思議そうなお顔でコテンと首を傾げられました。ちょっと可愛いです。
理由をお話しすると、ランヴェルト様がベチンと勢い良くご自身のお顔を両手で覆いました。凄い音がしましたが、痛くなかったのでしょうか?
「…………なるほど、尊いとはこういうことか。真に理解した」
「とうとい?」
文字では知っていますが、よくわからない感情のひとつです。先ほど知った『ときめき』と同じように。
ランヴェルト様も、恋愛方面の感情は知らないものが多いようです。何となく、おそろいのようで嬉しいです。
「とりあえず、食堂に向かおうか?」
ランヴェルト様が空色の瞳を細めながら微笑み、スッと右手を差し出して来られました。
そこに左手を添えると、心がまたほんわりと温かくなります。
好きな人とは、手を繋ぐだけでこんなにも幸せを感じられるものなのですね。
「はい」
なんとなく、いつもより強く手を握り合い。
なんとなく、いつもより半歩近付いて歩き。
なんとなく、いつもよりゆっくりと歩いて食堂に向かいました。
いまある幸せを噛みしめるように。





