❄23:テレシアは自覚する。
口をついて出たのは、思っていなかったはずの言葉。
それを言ってしまった瞬間、喉の奥がギュッと締り、口の中が苦いもので満たされたような感覚に陥りました。
そして、それはランヴェルト様も同じようで、とても苦々しい表情になられていました。
封筒に伸ばしかけていた手を引き、膝の上で固く握り締め、視線を足元に落されました。
手の甲には血管と筋が浮き出ており、とても強い力が入っているように見えます。
「そんな風に……感じさせていたのなら、すまない」
ランヴェルト様が視線を足元に落としたまま、そう言われました。
目を見て話してくださらない、ということに不安が膨れてゆきます。
「見せてはくださらないのですね……」
また口から碌でもないことを発してしまいそうで、立ち上がりました。この場から逃げたくて。
自分でこういった状況にしたくせに。
「失礼いたします」
「待つんだ!」
一歩踏み出した瞬間、ランヴェルト様が慌てて立ち上がり、私の手首をガシッと掴んで来られました。
それは、怒りで力任せなどではなかったのですが、とても焦っておりつい力が入ってしまったような感じでした。でも、ランヴェルト様は意図せず暴力を振るってしまったかのように真っ青なお顔です。
そして、直ぐに手を離されました。
「っ、すまない! 怪我は!?」
「していませんよ」
「…………ん。すまない」
なぜ、そうも謝られるのでしょうか?
なぜ、そんなにも恐怖に慄いたような表情なのでしょうか?
何を隠されているのでしょうか?
「信頼を、得たいです」
――――あぁ、そうなんだわ。
自分の口から意図せず零れ出た言葉が、じんわりと自身の心に沁み入ります。
私が欲しかったのは、ランヴェルト様からの信頼。
既に夫婦ではありますが、私たちはまだまだお互いのことをよく知りません。
徐々にでいいから信頼しあい、ともに笑い合いたい。
何でも話せる間柄になりたい。
それが今の私の望みなのでしょう。
だから、あの封筒を見ると、とても苦しくなるのです。
夫婦だから全てを知りたい! 秘密はあってはいけない! とかではないのだと伝えたいです。
でも、それならばなぜ、こんなにも封筒の中身を見たいのか言わなければいけなくて――――。
「っ…………その……嫉妬、なんです」
良くも悪くも、他の女性がランヴェルト様の心を乱すのが、嫌。
――――恥ずかしい!
あまりにも恥ずかしくて、全身が熱いです。
ちらりとランヴェルト様を見ると、彼は右手の甲で口を押さえていました。
耳が赤く見えるのは、気のせいでしょうか?





