❄22:対峙する氷たち。
フリーナ様を玄関で見送ったあと、私室で読書をしていました。ランヴェルト様が乗った馬車が戻られたと老齢の執事が伝えに来たのですが、妙に気まずそうな顔をしています。
先ほどのフリーナ様との会話を聞いていましたし、もしかして――――?
「また、届いた?」
「ええ」
「…………そう」
今日の今日でということは、今日中に解決しろという思し召しなのでしょう。
「……」
「ただいま」
ランヴェルト様が頬にキスをしてこられましたが、このあとどう切り出すかを考えていたため、もの凄く無視した形になりました。
「テレシア?」
「…………あ、はい」
「どうかしたのか?」
「少し、お話したいので執務室に向かいましょう」
「ん? うん…………?」
きょとんとしたランヴェルト様とともに歩き、執務室へと向かいました。
中に入り、執務机の前に立つと、ランヴェルト様が隣に立たれました。
「どうぞ執務机へ」
そうお伝えすると、ランヴェルト様の眉間に深い深い皺が刻まれました。
「君を怒らせたのはわかった――が、隣りにいることさえ許せないほどに?」
「っ! 申し訳ございません」
気が急いてしまっていて、ランヴェルト様への気遣いを全て置き去りにしていました。
執事から本日届いた封筒を受け取り、二人きりにしてほしいと頼むと、執事は恭しく礼をしながら退室してくれました。
ランヴェルト様は、私が受け取った封筒をジッと見つめています。
「応接用ソファに座ってお話ししたいです」
「ん」
執務室には、執務机の他に応接用のローテーブルと二人掛けのソファが二台あります。
そのソファにテーブルを挟んで向かい合って座りました。そして、テーブルの上に受け取っていた封筒を丁寧に並べ、見やすいようにしました。
「っ…………」
並べられた封筒を見たランヴェルト様が、ふるりと目を泳がせました。それは、とても後ろめたそうな反応のように感じました。
しばらくの間、並べられた封筒をお互いに無言で見つめていたのですが、話を進めるのは私の役割りだったと思い出しました。
「ランヴェルト様」
「っ、ん?」
お声を掛けると、ガバリと頭を上げて視線をこちらに向けてくださいました。ですが、直ぐに視線を逸らされてしまいます。
「この中に、いつも破り捨てられるものがございますよね?」
ひゅっ、こくり――――。
微かに息を飲む音が聞こえました。
「中身が見とうございます」
「いっ、嫌だ」
「…………見とうございます」
「これは、ゴミだ。だから、見る必要はない」
苦しそうな表情のランヴェルト様が、封筒に手を伸ばします。このままだとまた破り捨てられてしまう気がして、焦ってしまいました。
だから、つい……。
言ってしまったのです。
「やはり、私は愛されていない、お飾りの妻だったのですか」
そんなことは、一切思っていなかったのに。





