❄20:ランヴェルトの惚気。
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――――勢いで言ってしまった。
口から飛び出して相手に伝わってしまったことは、どんなに後悔しても取り消せはしない。
学ぶには遅すぎた。
「――でも、そのおかげで氷の貴公子様にちょっとだけ興味が湧きましたけどね」
ゆっくりと朝食後の紅茶を飲みながら妻――テレシアが真顔でそう言う。
傍から見ると、私たち夫婦は『仮面夫婦』らしい。お互いにいつも真顔なせいで、そう見えるのだとか。
また、髪色のせいで『光と影』なんて呼び方もされているらしい。
私にとっては、テレシアこそが光なのだが……まぁ、口には出せていない。
「ランヴェルト様は、眩しいですからね」
「それは物理的な方でだろう?」
「はい」
「…………」
「……」
基本的に、こういった会話で甘い空気になることはない。そもそも、言葉のキャッチボールが行われることが稀なのだが、それは結婚前も後も変わらなかった。
「仕事に出る」
「はい」
そう伝えれば、テレシアは玄関まで見送りに来てくれる。会話は続かないし、笑顔もなかなか見せてはくれないが、優しい。
頬にキスをすると、少しだけ照れてくれるが、一瞬過ぎるので見逃しそうになる。
王城に到着し、宰相閣下の執務室に向かう途中で伯父上――国王陛下にばったりと会った。
「休暇からもう戻っていたか」
「もうと言われましても。一週間休みましたが?」
「夫人はもっと一緒にいたかったろうに」
「…………」
「何だその真顔は」
「いえ――――」
仕事の調整をしまくり、結婚式の後に一週間の休みを作った。が、テレシアとはただともに同じ空間にいただけで、ほぼ無言で過ごしていた。
四日目の朝には「今日もいらっしゃるのですね」と、真顔でボソリと呟かれた。
いままで、令嬢たちと交流を取ろうとしたこともなければ、自ら進んで話しかけたこともなかったので、こういったときに何と声を掛けたらいいのかが分からない。
「――――落ち着いた娘だと思っていたが。お前に似合いだな」
「ええ」
「即答するか。ふはは、これは面白い」
陛下はなぜか楽しそうに笑いながら立ち去って行った。
「おかえりなさいませ」
「ん」
ゴドフ…………フリーナから、仕事に行く前と、帰りは頬にキスするのが決まりだとか言われて、私もテレシアも真面目にそれを守っている。
今日もテレシアは、一瞬だけ照れつつ受け入れてくれている。
本当はそんな決まりがないのは知っているのだが、照れるテレシア見たさに、本当のことを言えずにいる。
もし知られてしまったら…………テレシアに嫌われてしまうのだろうか?
そんな話をちらりと執事にすると、ほほほほほと妙な笑い声を出しながら、「まさか惚気話まで出来るようになるとは。なかなかに感慨深いものですな」とかにやにやされた。
私の周りには、相談相手がいないなとため息が漏れた。





