❄2:氷の貴公子様と庭園で。
氷の貴公子様と、我が伯爵家の庭園を歩きました。無言で。
氷の貴公子様のエスコートはとても歩きやすく、場慣れされているのだろうなと感じました。
ただ、ずっと無言ですが。
噂では、美しい見た目に引き寄せられて近寄った令嬢たちは、彼の冷ややかな態度にもれなく泣き崩れる。だから、『氷の貴公子』なのだとか。
王弟殿下の御子息で、結婚適齢期である二五歳の氷の貴公子様。
ちらりとお顔を見た限り、美丈夫というよりは、『冷やかな美人』なんですよね。これはご令嬢たちが放ってはおかないだろうな、というお顔と地位。
それがなんでまた我が家と契約結婚することになったのやら。謎ですね。
まあ、向こうとこちらの条件が合ったからではあるのでしょうが。
「…………」
「……」
「…………君は、無表情だな」
「はい?」
まさか無表情な氷の貴公子に言われるとは思ってもいませんでした。
いえ、たしかに私は基本的に無表情ではありますが。友人たちから、『鉄仮面』と揶揄されるくらいには無表情ではありますがっ、氷の貴公子様には言われたくないというか、なんだか地味に不服です。
「微笑んでいたほうがよろしいのでしたら、そうしますが?」
そのおかげで、態度にも声にも棘が顕になってしまいました。
「……いや…………別に求めてはいないが」
「では、このままで」
氷の貴公子様は、なんとなく納得していないような声でしたが、それ以上は何も話されませんでした。
別に求めてないのなら、なんでまたそんなことを言うのよ? などと聞きたくなりましたが、それを聞いたところで特に何かが変わるような気もしなかったので、頷くのみにとどめました。
氷の貴公子様にエスコートされながら、我が家の庭園をゆっくりと散策し終えました。
お父様には案内しろと言われましたが、そもそも案内するほどの場所などありませんので、単発で「あそこが池です」、「あそこがガゼボです」の二言で終わりです。
氷の貴公子様も特に話されませんし、二人きりになる意味はあったのでしょうか?
他人が居ようが居まいが、私たち双方が『親睦』たるものを深める気が全くないので、本気で無意味な時間に感じてしまいました。
これ以上案内する場所も、そもそも話すことも特にないので、もう良いだろうと玄関ポーチに向かいました。
氷の貴公子様を見送っていると、馬車に乗り込むのをやめて、急にくるりとこちらを振り向かれました。
白銀の髪がキラキラと太陽光を反射して、眩しいです。
この人は眼球への攻撃力が高いなぁ、とか失礼なことを考えていた時でした。
「来週、また来る」
――――え? また来るの?
氷の貴公子様、『お前を愛することはない』とか言い放ちませんでしたかね?
そのくせ、また来るんですか?
…………何をしに?