❄19:ランヴェルト様の覚醒。
完全に予想外です。
氷の貴公子様からのちょっと艶めかしい独白に、全身がカッと熱くなりました。
「真っ赤だ」
氷の貴公子様が柔らかな微笑みを零しながら、両手で私の頬を包むように手を添えてこられました。
「っ! だって……そのっ…………」
まさか、そこまでの感情というか愛欲というかを秘められていたなんて、全然気付いていなくて。
「フフッ。ん、大丈夫そうだな」
何がどう大丈夫か分かりませんでしたが、氷の貴公子様の満面の笑みは、それはそれは美しく、物凄い破壊力でした。
奥底に閉じ込めていた、自身の恋心を顕にされるくらいに――――。
「あの日、勢いに任せて君を愛することはないと言ったが、私の間違いだった。君が、愛しい。私と結婚するのは決定事項だから…………そうだな、君を愛し続けさせてくれないか?」
「っ、は……はひっ」
「ん。唇は、本番に取っておこう」
白銀の髪をシャラリと滑らせて、氷の貴公子様が顔を近づけて来られました。
――――ちゆ。
頬に、温かい感触。
少しだけ離れはしたものの、氷の貴公子様の眩しいお顔がまだまだ近すぎます。
そのせいなのか、なんなのか。
全身が燃えるように熱く、心臓が爆発しそうな勢いで鼓動を刻み続けています。
「そうだ、テレシア……ひとつ気になっていたんだが、君は私を『氷の貴公子様』と呼んでいるよな?」
「っ、はい」
「その渾名は嫌だ。名前で呼んでくれないか?」
「な……まえ?」
「そう、名前だ」
未だに両頬を包まれたままで、じっと見つめられています。
「ねぇ、呼んで?」
「っ…………ラ……ランヴェ…………ルト、さま?」
「ん! ふふっ」
氷の貴公子――ランヴェルト様が、満面の笑みになったあと、クスクスと楽しそうに声を上げて笑い出されました。
なぜか、ちょっとモヤッとします。
◇◆◇◆◇
家同士の契約結婚で、「お前を愛することはない」と言われたので「そうなの? 私もよ」と言い返したので、愛のない契約結婚になると思っていたのですが…………なぜか結婚式の前日に溺愛宣言されてしまいました。
こんな結婚の形も、ありなのでしょうか?
「ん? ありだろう」
「そう……なんですかねぇ?」
結婚式の夜、夫婦の寝室のベッドでランヴェルト様に後ろ抱きにされ、後頭部に柔らかなキスを落とされました。
「さぁ、続きをしようか」
「ヒエッ……」
ランヴェルト様、ちょっと急に覚醒し過ぎじゃありませんかね?
私はこれから訪れるであろう、新婚生活のあれやこれに戦々恐々としています。