❄18:氷の貴公子様の独白。
馬車での出来事のあとに氷の貴公子様とお逢いできたのは、結婚式の打ち合わせのみでした。しかも無表情で、必要最低限の会話のみ。
ドレスのフィッティング等は私のみでフリーナ様のもとを訪れていました。
そうしているうちに、気が付けば結婚式の前夜です。
両家での顔合わせの食事会が氷の貴公子様のお屋敷で行われました。
今日から私もこのお屋敷に住まうことになっていたので、午前中は引っ越しなどの作業に追われており氷の貴公子様とご挨拶さえも出来ていませんでした。
氷の貴公子様は食事会には出席してくださいましたが、お顔がいつもに増して無表情というか不機嫌そうです。
氷の貴公子様と王弟殿下のご挨拶の後に、食事となったのですが、彼と全くと言っていいほど、視線が合いませんでした。
食事を終え、お父様たちはサロンでお酒を飲みつつ歓談するそうです。私は明日の準備があるので、早めに休むことにしました。
「っ――――テレシア嬢!」
後ろから声をかけられ振り返ると、そこには少し焦った様子の氷の貴公子様がいました。
「はい?」
「君は…………本当に私と結婚していいのか?」
「えっと、はい。そういう契約ですし」
「……………………だが。私は、君とは……」
「結婚したくない、ということでしょうか?」
あまりにも彼と視線が合わないうえに、妙に口ごもられるので、てっきり後ろめたい気持ちがあるのかと思いました。そして、そんな後ろ向きな結論にたどり着いてしまったので、つい聞いてしまいました。
肯定の言葉を聞いてしまえば、苦しむのはわかりきっていたのに。
認めたくありませんでしたが、私は氷の貴公子様のことが好きになりかけています。
だから、知りたかった。
真実を受け止めて諦めてしまいたい気持ちが半分、嘘でもいいから否定して欲しい気持ちが半分でした。
氷の貴公子様が驚いたような表情になったあと、悲しそうに笑われました。
「信じてはもらえないかもしれないが……私は、君に恋をした」
――――え?
「君となら、私は穏やかに日々を過ごせる気がしている。だが、君は? 好きでもない男とずっと共にいても平気なのか?」
「えっと…………?」
意味が良くわからず、なんと答えていいものか考えあぐねていると、氷の貴公子様が目の前まで歩を進めて来られました。
「ここ最近、私の行動のせいで君に不信感を…………いや、初対面の時から不信感しかなかっただろうが。ここ最近は特に酷かったと思う。すまなかった」
「へっ?」
氷の貴公子様がゆっくりとした動作で、私の左手を取りました。
そして、薬指の付け根に柔らかなキスを落とされました。
「私は、君と結婚したい。君と共にいたい。君を愛したい。君に愛されたい。だから、真実を知るのが怖かった。今日まで引き伸ばして、君に逃げられない状況を作りたかった」
「……なるほど」
「いざ今日になって、食事会での君の顔を見て、後悔の念に押し潰されそうになった」
氷の貴公子様のお顔がくしゃりと歪みました。それはまるで、小さな男の子が泣き出しそうな表情。
「一方的な関係は嫌だ」
「え?」
「私は、夜に君を求めるだろう。一方的なそれは、君を傷つける行為でしかない」
「っ!?」
――――夜? 夜って、そういう夜っ!?