❄16:黒髪の少女の自覚。
金髪縦ロールでムキムキナイスバディなフリーナ様のお店を訪れました。
今日は仮縫い後の細かな修正などをする日です。
氷の貴公子様が視察で王都不在なので、私一人で訪れました。
「いらっしゃい! こっちに来てちょうだい」
「はい」
フリーナ様は今日は真っ赤なマーメイドドレスでした。妖艶という言葉が似合いますね。
ドレスを着付けられ、修正する箇所をお針子さんたちと話し合われているのをボーッと聞いていました。
「ランヴェルトの好みなんて知ったこっちゃないんだけど、胸元は少し隠されていたほうがいいのは、同意なのよねぇ。テレシアは?」
「…………胸元?」
胸元――――少し前に見られてしまいましたね?
「見苦しいのでしょうか?」
もしかしてあの時、背を向けてくださったのは優しさではなく、見たくなかったから?
「なんでそうなるのよ!?」
フリーナ様が驚いた様子で聞いてこられたので、事の顛末をお話しました。
「ふぅん? で、テレシアはどう感じたの?」
「どう?」
「恥ずかしいとか、ドキドキするとか、もっと見て欲しいとか……気持ち悪いとか、見られたくないとかもあるかしらね?」
気持ち悪いとかは一切なくて。
ただ、もし見たくなくて背中を向けられたのであれば、少しだけ淋しいような気がします。
「それはなんで?」
なんで?
これから夫婦になりますし、子供も儲けることになるでしょう。異性として魅力がないとなると、行為自体が難しいのでは?
「ははぁん」
フリーナ様がニタリと笑われました。
そして、人によるが行為は無理ではないので気にしなくていいと断言されました。
その瞬間、なぜが心臓がズキンズキンとした痛みを感じました。
「どうしたのかしら?」
胸の上に手を置いていると、フリーナ様が柔らかな微笑みを向けて来られました。
心臓が痛いから医者に行こうか迷っていると言うと、なぜか抱きしめられてしまいました。
厚い胸板に押しつぶされ、グエッと令嬢らしからぬ声が漏れ出ましたが、聞こえなかったことにしてほしいです。
「あぁ、もう! 可愛いわねっ。貴女に必要なのは、医者じゃなくてランヴェルトよ」
「氷の貴公子様?」
「そう。あと、そのイタい渾名じゃなくて、名前で呼んであげなさいよ」
「……………………名前」
やはり皆さま、『氷の貴公子』はイタいと思っているのですね。
お名前は、どうしてか呼ぶ気にならなくて、ずっと氷の貴公子様と呼んでいました。
「え? 本人にもそう呼びかけていたの?」
「いえ。そもそも名前をお呼びするほど会話していませんし」
「…………貴方たちに先ず必要なのは、会話ね」
まさか、アレイダと同じようなことを言われるとは思ってもいませんでした。
「どう考えてもみんなそう言うわよ。貴方たちはね、自分の気持ちに疎すぎるわ」
――――自分の気持ち。