❄14:氷の貴公子様の居ぬ間に。
氷の貴公子様が夜に訪問された日の三日後でした。
薄い水色の封筒をお父様から渡されました。
「ランヴェルト殿からだ」
「まぁ。珍しい……というか、初めてですね」
契約に問題が出そうな内容だったら教えるように、とお父様に言われ、頷きつつ部屋に戻りました。
封を開けると、中から可愛らしい便箋が出てきました。
文面をぐるりと囲むように青い小花が描かれており、ところどころに黄緑色の小鳥が飛んでいます。
「まぁ! 素敵な便箋ですわね」
「そうね」
「中身は、愛の告白とかでしょうか!?」
「…………貴女、楽しそうね」
「それはもう!」
人の気も知らないで、この侍女はまったく……、なんて考えつつ、文面に目を通しました。
「…………あら、まぁ」
「テレシア様?」
「氷の貴公子様ね、宰相様の国内視察について行くそうよ」
おおよそ半月、不在になられるとのこと。
その間に予定を入れていたドレスの仮縫いの確認などは、申し訳ないが私一人で行って欲しい、と書かれていました。
「お嬢様?」
「ん? なぁに?」
「なんでちょっと嬉しそうなお顔なんですか……」
「あら、バレたわね」
このところ、ずっと氷の貴公子様とばかりお逢いしていたので、友人たちとの時間がなかなか取れていませんでした。
それにこの前、ブックカフェで失礼をしてしまいましたし、謝罪にも行きたかったのです。
「丁度良い機会だと思ったのよ」
家の馬車に乗り込み、ブックカフェに向かいました。
「先日はごめんなさいね」
「とんでもございません。ご来店ありがとうございます」
「今日は友人と待ち合わせしているから、個室をお願いするわね」
「かしこまりました」
マスターに個室に通してもらい、いつものメニューを頼みました。
運ばれてきたシフォンケーキとオレンジジュースを軽く食べていると、友人が到着しました。
金色の緩やかな巻き髪を揺らしながら、颯爽と歩く姿は見た目とのギャップが凄いです。
ぱっと見は大人しめお嬢様なのですが、中身はサバサバとして男らしいアレイダ。
「ごきげんよう」
「もう食べてたの? 好きねぇ、ソレ」
「ええ、美味しいもの」
「で、本題だけど――――」
私もアレイダも、季節の挨拶などは基本的にしない派。向かい側にアレイダが座ったので、おしゃべり開始です。
「氷の貴公子が下位貴族の令嬢に落ちたって噂で持ちきりよ?」
「ないわよ」
「でもずっとデートしてるんでしょ?」
「対外向けのためじゃない?」
アレイダがうーんと唸りながら、メニューを見てササッと注文しました。
季節のタルトを頼んでいました。今日の果物しだいでは、私も注文しましょう。
「甘いもの、好きよねぇ」
「ええ。幸せの味がするじゃない」
そう答えると、くすくすと笑いながら「真顔じゃなければ可愛いのよね」と言われました。
いまいち意味がわかりません。