❄13:頬を赤く染めた氷の貴公子様。
◇◇◇◇◇
もう寝ようとベッドに入ったところで、侍女からお父様が執務室に来るように言っている、と伝えられました。
こんな夜更けにどうしたのかと思いましたが、お父様の性格は、気になったことはその時に解決したいタイプなので、何か事情聴取でもされるのだろうと思いました。もしかしたら、氷の貴公子様に出した手紙のお返事が来たのかもしれませんね。
――――やはり、婚約破棄かしら?
ガウンを羽織り、お父様の執務室に入りました。
てっきりお父様が執務机に着いて、何か書類でも記入しているのだろうと思っていたのですが、執務室にお父様はいませんでした。
その代わりに、執務机の前にこちらを向いた氷の貴公子様が立っていました。
「なっ!?」
驚いた顔と声。
そこで、私が人前に出てはいけない格好だったと思い出しました。
どうせお父様相手ですし……と、ちょっと気が緩んでいました。
氷の貴公子様が背を向けてくださったので、ガウンの襟を正し、腰紐をしっかりと締め直しました。
足首はどうしようもありませんから、諦めでいいでしょう。
「見苦しい格好をお見せして申し訳ございません」
氷の貴公子様の背中にそっとお声を掛けると、彼が恐る恐るといった雰囲気でこちらを振り向かれました。
「っ! さっきと何も変わってない!」
氷の貴公子様が慌てた様子で、右手でご自身の両目を覆いました。べチン!と勢いの良い音が聞こえたのですが、大丈夫でしょうか?
「襟元は正しました」
「っ! このまま話す!」
「はぁ……」
どうせ数カ月後には夫婦になりますし、多少肌を見るくらいは気にしなくても良いのでは? とは思いましたが、それを言ってしまうと、なんとなく怒られそうな気がして口を噤みました。
「手紙を読んだ」
「はい」
「なぜあんな方向になる」
「え……? だって、不適格でしょう?」
「……………………婚約は継続するっ! いいな!?」
氷の貴公子様が怒鳴りつつ、継続の命令を出されました。
「はぁ、承知しました」
「っ! 帰る。ちゃんと暖かくして寝なさい!」
「はぁ、かしこまりました」
足早に立ち去る氷の貴公子様は、氷とは思えないほどに、頬も耳も真っ赤でした。
そこまで怒っているのに、婚約関係は継続なのですね。我が家との契約はそんなに公爵家に利点があったのでしょうか? よくわかりません。
「おやすみなさいませ、良い夢を」
「っ――――ん、君も。良い夢を」
執務室を出たところで、氷の貴公子様の後ろ姿に声を掛けましたら、ピタリと立ち止まり、真っ赤なお顔のままで、返事をしてくださいました。
――――優しい方ですね。