❄12:黒髪の少女からの手紙。
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王城から戻ると、テレシア嬢の家の使いが家に手紙を持ってきた、と報告があった。
淡い桃色の封筒を受け取り、足早に執務室へ向かった。
「ランヴェルト様! お食事は?」
「後で良い」
多少空腹ではあるが、今はそれどころではない。
テレシア嬢が手紙を寄越すのは初めてのことだ。つまりは、一大事の可能性がある。
執務室に座り、レターナイフでゆっくりとシーリングスタンプを剥がした。
カサリと中から手紙を取り出し、ゆっくりと開く。
『ランヴェルト様
先日は失礼な態度を取ってしまい、大変申し訳ございませんでした』
一文目を読んで、ほっとした。
季節の挨拶など一切なしなのが、なぜか彼女らしいと思えた。
『通い慣れた場所が今までと違う雰囲気になったせいか、少し気が立ってしまっていたようです』
なるほど、私がいたから妙に騒がしく感じたのだろう。たしかに、聞いていた雰囲気と違うなとは思ったが、私の周りはいつも何かと煩いから気にしないようにしていたが。
『あのような小さな変化で心を乱すなど、淑女教育を受けておきながらお恥ずかしい限りです』
いやいや、きっと私の感覚が変なのだ。良くも悪くも注目され慣れているせいか、ただの雑音として処理してしまう。もしかしたら、聞きたくない言葉など混ざっていたのかもしれない。
『公爵家に相応しくないとの判断でしたら、すぐにでも婚約破棄をしてください。慎んで受け入れます』
っ、て! なぜそうなる!?
まてまてまて、急いで返事を書かねば。
大慌てでレターセットを探すが、公爵家の家紋入りの妙に圧力を感じるものしかない。
テレシア嬢が選んでくれたような、可愛らしいものなど持っているはずもなく。
大慌てで馬車に乗り込み、ダンメルス伯爵家へと向かった。
「連絡なしでこんな夜更けに訪問してすまない。テレシア嬢と少し話したいのだが可能だろうか。無理であれば、伝言だけでも――――」
「では、こちらに」
伯爵家の屋敷内は暗く、既に寝る準備に入っていたのだろう伯爵が応対してくれた。流石に断られるかと思ったのだが、伯爵の執務室に通された。
ものの五分もしないうちにテレシア嬢が、現れたのだが…………。
「なっ!?」
「え……………………なぜ氷の……」
執務室に入ってきたのは、寝間着の上からガウンを羽織ったテレシア嬢だった。
慌てて彼女に背中を向けたものの、ガウンの隙間からちらりと見えた鎖骨や、片方に寄せた黒髪から覗く項、顕になった足首。
しっかりと目の奥に残ってしまっている。
人のことを言えたものではないが、伯爵は何を考えているんだ!?
なんと言って、テレシア嬢を呼び出したんだ!