❄10:氷の貴公子様とカフェ。
氷の貴公子様がまた迎えに来られました。いつものように白銀の髪を煌々となびかせながら。
「…………」
「……」
手を差し伸べられ、手を重ねる。
いつものように無言で。
「……どうかしたか?」
お顔をジッと見つめていましたら、訝しまれてしまいました。
「いえ、何でもありません。本日はどのような予定で?」
「君のお父上に、君は本が好きだと聞いたが、間違いないか?」
「ええ」
「ん。いま書店とカフェが一緒になっているという場所が人気らしい。そこはどうだろうか?」
「構いませんわ」
婚約前は頻繁に足を運んでいた、とても落ち着いていて大好きな空間です。
いつも通り無言での馬車移動を終え、カフェに到着しました。
「おや? ダンメルスお嬢様、ご婚約されたそうで。おめでとうございます」
「久しぶりね、マスター。ありがとう」
店内に入ると、老齢のマスターが恭しく迎え入れてくれました。
「ご挨拶が遅れました、オーステルベーク様。初めてのご来店ですな? ありがとうございます」
「ん。オーステルベークは大量にいる。名前でいい」
「承知いたしました。お席はどうされますか? お嬢様がいつも使われている場所にいたしますか? 個室もございますが」
マスターがそう聞いてきた瞬間、重ねていた氷の貴公子様の手がビクッと動きました。
私、手汗でもかいているのでしょうか?
「…………いつもの場所、というのが見たい」
「かしこまりました」
私は個室のほうがいい気がしているのですが。それは、氷の貴公子様と会話したいからとかではなく、たぶん周りにいる皆さまが本に集中できなくなりそうですから。
案の定、私がいつも使っている本棚の直ぐ側のテーブルにつくと、周りからヒソヒソとした小さな囁きが起こりました。
そして、氷の貴公子様が髪を耳にかけたり、メニューを開くような仕草をされるだけで、黄色い声も上がります。
――――ちょっと、騒がしいですね。
「君はここの常連だったのか」
「……………………」
「……テレシア嬢?」
「え? あ、何か仰いました?」
「…………いや。いつもは何を頼んでいる?」
「ええと――――」
メニューにある、クリームたっぷりの紅茶のシフォンケーキとオレンジジュースを指しました。
少し子供っぽいのですが、この組み合わせが好きなのです。
「ふむ。では私も同じものを」
「えっ……」
「かしこまりました」
同じものを、食べるのですか?
そして、オレンジジュースを飲むのですか? 氷の貴公子様が?
イメージ的に、大丈夫なのでしょうか?





