つちのこうやのラブコメ (それぞれ別々にお読みいただけます)
バレンタインにチョコを一つももらえなかったのでホワイトデーが超お気楽な僕、クラスのお嬢様美少女から呼び出されてしまう。「も、もしかしてなにももらってなくても何か差し上げた方が……」「……なんで?」
ホワイトデーにあげるプレゼントに困っている友人が、買い物に付き合ってくれと言ってきた。
意味がわからないので、断っておいた。
ふんだ。バレンタイン0個の人を誘うとは、なんともデリカシーのない友人である。
そんなこんなで忙しい友人と僕は完全に別行動。
とてもお気楽なホワイトデー前日だった。
なにも用事がない僕は、家に帰ってごろごろ。
そしてそのまま寝落ちして朝。
こうして僕は、とてもゆったりとしたホワイトデーを迎えた。
ホワイトデーというのは、完璧なる証明でもって説明できるほどのリア充向けのイベントであり、まあバレンタインみたいに変に敏感になっている集団はいない。
やっぱりお返しのイベントっていう感じが強いからだろうか。
少なくとも僕の高校……渚ヶ丘学園ではそうだった。
朝。
1時間目が始まる前。
僕はスマホで野球のゲームをして、暇をつぶしていた。
今日は期末テストの返しとその解説が二科目あるだけで、そのあとはもう放課後である。
11時の時点で放課後とは、なかなか素晴らしきことだ。
僕はスマホでフォークを決めて空振りをとりながら、一人でニヤニヤしていた。
が、しかし。
スマホの上部にメッセージの通知が表示された。
着物のアイコン。
これはあいつか。
僕はちらりと教室の前方を見た。
とても可愛らしく座っているお嬢様系美少女、麗崎智春がこちらを見ていた。
なんとも夢のような、クラスの美少女とこっそりする、メッセージのやりとりである。
なんてな。
いやそうであることは事実なのだが、単に僕はたまに利用されているだけだ。
はあ。それにしても今日ホワイトデーなのに大丈夫なのか? 智春って誰かにチョコあげたりしてそうだしね。
あ、僕はもらってません。
悲しい。
☆ ◯ ☆
放課後。と言っても先ほど述べた通り11時。
僕は部室棟に向かっていた。
今日呼び出されるとは思ってなかった。
けど仕方ない。
僕は扉を開けた。
どこの扉かといえば、数学研究会の部室の扉。
「遅いっ。いやそんな遅くないか」
「そんな遅くないでしょ。僕結構まっすぐ来たよ」
「ほいほい」
ほいほいって言うお嬢様っているんだね。
ゴキブリホイホイのお城で、捕まったゴキブリを見下ろして笑ってるお嬢様かな。
とかよくわかんないことを考えていたら、お嬢様……智春が僕をにらんでいる。
「も、もしかして、なにももらってなくても何か差し上げた方が……」
「……なんで?」
「いや、今日何の日か知ってる?」
「もちろん。ホワイトデーでしょ。でも私誰にもあげてないし。それよりもホワイトデーってのは3月14日。そう。円周率の日でもあるわ!」
ドヤ顔の智春お嬢様。円周率知ってるアピールをする高校二年生って多分、泳げるマウントをとってるサバみたいな感じなんだろう。
しかも知ってるだけで、使いこなすだけの実力はない。
それは僕がよく知っている。
なぜなら……
「というわけで、円周率の日ってことですごい数学っぽい日だわね。だから今日は私に数学を教えるのにとてもふさわしい日よ!」
そう。僕は智春に、数学を教えさせられているのである。
☆ ◯ ☆
なぜこんな関係になったかは簡単である。
智春お嬢様のお父さんはなんかすごい数学者。お母さんはなんかすごい物理学者である。
二人とも国際的に著名なゆえ多忙で、智春はお手伝いさんと暮らしている。
しかし教育にはとても口うるさい両親で、しかもプライドも高いらしい。
一際、理系科目に関しては苦手であることを許さない。
数学のテストが悪いと当然怒られる。
だから数学研究会の部室でお昼寝をするのが大得意で、数学がそこそこ得意な僕を利用しているのだ。
智春が言うには、友達とか保護者とかのうわさで「数学が苦手だから友達に教えてもらってる」っていうのが広がると、まずいらしい。
プライドが高い智春のご両親はそういうのを許さないのである。
そこで友達が少なくて交友関係が狭い僕に教えてもらうことで、そのリスクを回避している。
数学研究会に所属して僕から数学を教わる形にすれば、完璧なわけだ。
リスク回避については、障害物をよけながら獲物を狙うカジキ並みに上手な智春である。
「はい今日もわからない問題たくさん!」
そして安定のサバのドヤ顔。
カジキとサバが混ざり合った奇跡の美少女は、ノートを僕に押し付けた。
これが1ヶ月前でチョコだったらどんなによかっただろうか。
そう考えつつ、僕は仕方なく、智春のノートに目を通した。
17時。
全ての問題を智春に解説し終わった。
実際、そこまでいやじゃない。
いやじゃない理由は二つあって、一つは他人に数学を解説することで自分の数学力の向上も期待できるということ。
そしてもう一つは……。
「はー全部よくわかったわ。今日もありがとう。またよろしく頼むわね」
単純に、智春が可愛いからである。
サバとかカジキとか偉そうな例えをしてしまっていたけど、頑張って考えたり計算したり解けて喜んだりしている智春は、普通に素敵な女の子だった。
「まあまた、わからなくなったら連絡してな」
「……あのさ」
「おお」
「数学の問題追加でだすね」
「まだわかんないのあるの?」
「違うよ。私が考えた問題」
「おお」
「今送る……じゃ、私迎え来るからばいばい」
すごい勢いで走っていった、迎えのくるお嬢様。カジキに例えたのはある意味正解だったかもしれない。
でまあ、なんかひっかけ問題か何かなのだろう。で、間違えたら煽られるわけだ。
僕はスマホを見る。
……問題じゃない。
『好きです』
僕は驚いたけど、すぐに回答を送った。
こんなの、三秒で答えられる。
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