序
遙か昔。
幾百、幾千もの年月の時間の彼方。
この六道世界で、二つの世界を中心に大きな戦が起こった。
一つは、天界と呼ばれる世界。
天帝帝釈天が治める、六道世界の中でも善神と呼ばれる神々が住まう世界。
もう一つは、修羅界と呼ばれた世界。
戦いの世界として認識されてはいるが、統治者であった難陀龍王によって平穏がもたらされていた世界。
二つの世界は闘いが起こるまで、互いの世界に強く干渉することなどは一切無く、それどころかお互いの世界の行き来を容認するほどに近しい世界であり、平和とさえいえる時間が流れていた。
だが、それは呆気ないほど簡単に崩れ去ってしまった。
争いの切っ掛けは、三千大世界を揺るがす事象が起きたことにある。
それは、天界が、修羅界が、共に自分達の考えを貫き通すには、余りにも十分すぎる事柄といって良かっただろう。
二つの世界の戦いは、永き時間を渡り熾烈を極めた。
多くの血が流れ、数多の生命が散り……。
そして大戦の終結は、天界の勝利により幕を下ろした。
多くの屍をその大地にさらし、草木一つはえぬ荒涼とした大地へと変貌した修羅界は、誰一人として顧みられる事のない世界へと変貌してしまった。
全てを失い、世界としても滅亡した修羅界。
けれど、そこに住んでいた修羅人達は、たった一つの希望を持ちながら死んでいった。
それは、天界の神達に知られる事のない希望。
託された者達は、その願いに応えるよう人の世で産声を上げた。それは、滅びから何百年という時間の後のことではあったが……。