1-9.風魔法と労働基準法
母ウェンディは、器用だ。
彼女の ハサミが 躍ると、髪が サクサクと散り
お客様は ニコニコと、鏡を のぞき込む。
5歳になった私は、
明るく 美人で 人に好かれる 母と、
翳のある、かっこいい 父と3人で 暮らしている。
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野バラ石鹸で、バタバタとしていた 美容院ボエロも、完全予約制 となったことで、落ち着いた。
美容院の ブランド価値も 上がったみたい。
「イアン、ドライヤーを お願い」
ウェンディの声に こたえ イアンが 両手をかざす。・・・のではなく、私の出番だ。
「イアン、抱っこして♪」
イアンに、持ち上げられた私は、マダムの髪を 包むように 手を広げる。
小さい手の平から 淡い水の泡が ふわりと飛び出す。
イオンミストが、髪と頭皮を包み 潤いを与える。 水魔法だ。
そのまま、火魔法を マイナス方向に コントロールする。 頭皮を冷やすのだ。
「あぁ コレ気持ちいいわね。」
熱を持った 頭皮を冷やすのは、気持ちいい だけではない。
実は、強く加温して乾かすと、毛髪内部の タンパク質が 部分的に変性して、髪の中に空洞が できてしまう。
うん。熱すぎると、スカッスカッ、パサッパサッの髪になってしまうってことだね。
サッと 冷やすことで、水魔法で 与えた 潤い を 髪に閉じ込め、外側から タンパク質 と 脂質 の キューテクル で 閉じ込める。
同時に 表層を整え、頭皮の 生まれ変わり周期を 正常にする。
健康な 頭皮を保つよう、丁寧に、丁寧に。
最後に、やさしい温風で 髪をふんわりと仕上げながら セット完了。
これが、ウェンディ式の、水・火・風の魔法を使った 美容ケアだ。
「お嬢ちゃん、ありがとう」
逆立った髪から、上品なマダムへ 変身を遂げた お客様は、ニコニコと席をたった。
私が作業をしているのに なんでウェンディは、 イアンに お願いしたかって?
それはね、この世界にも 労働基準法があるのだ。
実際には、法律が施行されている のでは ないんだけどね。
この世界には、ホームカンシ教 という 宗教がある。
家庭内を 道徳的に チェックする教団だ。
『子供には 教育を受ける権利や 経済的搾取を含む
あらゆる 搾取や暴力・虐待から
保護される 権利がある』
うんうん。ご立派な ご意見ですね。
12歳未満の 子供に 働かせると、聖職者が 取締まりに 来るのである。
それでは 美容院が 潰れてしまう。
建前上、イアンがやる 作業を「かわいい」私が お手伝いしてるのだ。
「次から アリーが 担当してね」
と言われたのは、この野バラ石鹸を 開発した 去年のこと。
え?労働基準法は? ママ?ちょっと大丈夫?
「取締まりの人が来たら 潰れちゃうけどね」
うん。ソーデスヨー。大変ですよー。
「だけど イアンがやると、お客様、来なくなっちゃうから」
そ・・・そうね。
冒険者を していた イアンは、魔物を 倒すため 魔法の威力は 高いが、手加減 できないらしい。
「教会は、なんとか するから」
なんとですか。お母さま。
聖職者を 抑えることが できるとですか。
その日からイアンのお仕事は、切り散らばった髪のお掃除 と 私の抱っこ になった。
あっ ヤバ・・・。イアンが、イジケてる。
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ダッコ サレルト ウシロ ミエナイケド イジケテル たぶん・・・。
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クリスマスケーキ の イチゴだけ すでに おいしく食べ終わっている人は、
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ホームカンシ教団の初登場は、9話だったんですね。もう少し後だったと思ったのですが・・・。
先に、ホームカンシの名前が出来て、そのあとに、教義の「家庭内を 道徳的に チェックする教団だ。」を無理やり押し込んだ記憶があります。あとの話で、アリーの親友になる人たちの名前に関係してくる部分ですね。