2-53.ディオクシパの革靴シュート
拳格闘~パンクラチオン 学生の部 決勝。
異例の事件による延期が、人々の拳格闘への関心を高めた。
タダでさえ手に入りにくかったチケットは、プラチナ化。
その価格は、高騰した。
っていっても、私たちには、関係ないけどね。
普通に貴賓室が用意されてるから。
「オリンピュアス大祭だもんね。
さすがに、エペイロ家に、席がないってことはあり得ない。
だよね、オリンピュアス。」
「まぁ、そうですわね。」
「いい部屋でしょ?
ピクシノビッチさん。」
「アリーのおかげで、観戦できるわ。
ありがとうね。」
「ちがーう。
オリンピュアスが用意してくれたお部屋だよ。」
「あぁ、ごめんなさい。
ありがとうね。オリンピュアスさん。」
「いえ、大したことではございませんわ。」
今朝、寮を出る前に出会った懐かしい人。
王都にピクシノビッチさんが来ていたのだ。
対抗戦、ホゥスボール東ハルサ代表選手。
今回は、オリンピュアス大祭のホゥスボール東ハルサ代表監督としての王都訪問だ。
「代表監督に就任したんだね。」
「そう、アリーが王都に居るって聞いたから、来たんだけどね。
まさか、ホゥスボールに出ないとは、思わなかったわ。
私たちに勝ったメンバーが、代表じゃないなんてね。」
まぁ、ミラドールの神の 息吹で、勝ったんだけどね。
さすがに、試合会場で、魔法を使っちゃダメってなると、私が出るわけにはいかない。
王都でのホゥスボールは、魔マーモグラフィー という 装置で、グラウンド 全体を 監視し、魔法 感知 している。
監視に、引っかかっちゃうのよね。
ダダもれ、じゃなくて、ちょっと魔力があふれてるから。
「本当に、ホゥスボールの代表でしたのね。」
「ボクも、名前だけの代表だと思ってた。」
フィリップス王子が名前だけの代表だったらしいね。
「私、出場しないし、
今回は、ピクシノビッチさんを応援するから。」
「私、監督だからプレーしないけどね。」
あっ・・・監督だったね。ピクシノビッチさん。
[美容師の娘] 【 2-53.拳格闘 学生の部 決勝 】
決勝の闘技場。白い眼帯が、目をひく。
今日の対戦相手、格闘家学院の代表、ウロジー・ソード・カッシーニだ。
順延は、ウロジーの目の負傷のためという話だが、本当だったようだ。
彼は、ディオクシパ・ブランド。
東部騎士団学校の首席。狡猾な野心家。
高い知性とカリスマ性。
極度の負けず嫌いで上昇志向が強く、勝ちにこだわる。
しかし、慎重で、反則を行っても証拠を残さない。
優勝候補筆頭だ。
眉目秀麗、白い肌、浮く青い血管。
口を開けた時に目立つ鋭い犬歯から、彼は、吸血鬼と呼ばれる。
ディオが、トレードマークである石の仮面を外し、後ろへ投げる。
決勝の開始だ。
私の右手刀を受けてみろっ。
「紫の茨っ」
ディオクシパの右手刀が、ウロジーを襲う。
紫の茨と呼ばれる、ディオの得意技だ。
軽く叩くだけで、相手を壊す手刀。
ウロジーは、顔をスッと後ろに逸らすだけで、避ける。
無駄な動きをしない、ウロジーの高等防御テクニックだ。
顔を逸らせただけで、全く体勢を崩さないまま放たれる蹴り。
ウロジーの右足が、ディオクシパの金的を狙う。
ツーっと、後ろに滑るように、かわす。
しかし、これはフェイント。
本命は、両腕を広げ、挟み込むように顔を叩く掌底。
「阿修羅掌波っ」
ウロジーの掌底が、ディオクシパを襲う。
「くっ。」
後ろに飛ぶことで、かろうじて攻撃を避ける。
さらに追撃。ウロジーの右上段蹴りっ。
避けることが出来ずにブロックする。
弾き飛ばされた、ディオクシパは、倒れ、膝をついた。
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「このディオに、膝をつかせるとはな。
いいだろう。本気を見せてやろう。」
すぅっと、闘技場の温度が下がる。
血管まで凍り付きそうな寒気。
ウロジー・ソード・カッシーニは、半歩後ずさった。
押しているのは、自分のはず。
そう思うが、足が動かない。
ふっと、ディオクシパの姿が消えた。
すぐに体を反転させる。
右目の負傷が、大きなハンデになっている。
しかし、相手の動きは、読むことが出来る。
見えなくなった場合は、死角っ。
居たっ。ディオクシパだ。
しかし、すぐに姿が消える。
またも、ディオクシパが、死角に移動したのだ。
落ち着いて対応すればよい。
体を反転させる。
見えなくなったら、死角。
この動きが出来ている限り、大きなキズは、負わないはず。
何度目だろう、死角へ消えたディオクシパ。
体を反転する。
え? 居ない???
その瞬間、わき腹に強い痛みを感じた。
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「このお米、ひとめぼれっていうのね。」
「うん、おいしいでしょ?
そっか、納豆もあったんだね。
気づいてなかったよ。」
おにぎりばかり食べていて、気付かなかった。
サイドメニューに納豆があったことを。
ピクシノビッチさんが、見つけて大喜び。
2人で注文して、おいしく頂いているのだ。
「王都のお米も美味しいんだね。
絶対、味が落ちると思ってた。」
「納豆も、小粒でおいしい。
でも、あんまり見ないんだよね。
お米も、納豆も。」
「あっ、これ決まったかも。」
ふいに、ライレーンが声を上げた。
ディオクシパの渾身の蹴りが、ウロジーのわき腹に突き刺さったのだ。
「思ったより、早かったね。
ボク、もっと力が拮抗してると思ったよ。」
「せっかく、貴賓席を用意してもらったのに、見逃しちゃった。
ディオクシパの攻撃。」
「そなの?下にもぐって、蹴り上げたんだけど。
あれ、革靴の先だから、余計に痛いだろうね。」
「アリーは、よく食べながら、見れますわね。」
「このお米、おいしいからねぇ」
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その瞬間、闘技場内が大きな歓声に包まれた。
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蛇足1.
「今回は、ピクシノビッチさんを応援するからね。」
「私、監督だからプレーしないけどね。」
あっ・・・監督だったね。今回。
6月4日、17時15分着の航空機、サッカーセルビア代表が来日しました。
キリンチャレンジカップで、6月11日に日本と対戦します。
ピクシーこと、ドラガン・ストイコビッチ監督が率いるチームです。
彼の、趣味は盆栽。
好きな食べ物は、納豆、うどん、鮎の塩焼き、大きくてやわらかい梅干し。
2月6日の、1-32. 馬上の戦い ⑥ 蛇足で、
https://ncode.syosetu.com/n6487gq/32/
1月に、ストイコビッチさんという方が、
セルビアという国の サッカーの代表監督に なったそうです。
と書きましたが、半年もせずに日本代表と、対戦することになるとは。
嬉しいですし、楽しみです。
蛇足2.
対するは、ディオクシパ・ブランド。
東部騎士団学校の首席。
アレキサンダー大王は、強きものを好みました。
もちろん、拳格闘~パンクラチオンの強者も、大好きです。
ディオクシパ・ブランドのモデルは、ディオキシプス。
紀元前336年の、古代オリンピック パンクラチオン金メダリストです。
彼は、強者を好む、アレキサンダー大王の客人として招かれました。
しかし、マケドニア軍で、嫉妬を買います。
宴会の最中、マケドニア戦士に侮辱され、決闘を申し込まれるのです。
ギリシャ人はディオキシプスを応援し、マケドニア人は、マケドニア戦士を応援します。
ディオキシプスは、武器で、相手の武器を粉砕。
慌てて、サイドソードを抜いて対抗しようとするマケドニア戦士をパンクラチオンの技術で圧倒します。
ダブルアンダーフックと呼ばれる組み技で、ボディロックし、戦士を地面に押し倒し首を押さえたのです。
ギリシャ人は喝采を送り、マケドニア人は、意気消沈したと言われます。
今度のオリンピックでもこのような光景が見られるのでしょうか?
というか、オリンピックやるのかな?