2-50.膨らむ紙風船
準決勝が終わり、観客が去った闘技場に、2人の少女が駆け込んだ。
管理人 カヤーア・ラハノスの 横を 駆け抜ける 2人。
「君たち、ここは立ち入り禁止だ。」
「ごめんなさい。
私は、ヘドファン家の者です。」
見せられた紋章を見ても、だれか全く分からない。
もう一人の少女が言う。
「オリンピュアスに頼まれて 闘技場の調査を行います。
許しが出るまで、砂地には 足を踏み入れないでください。」
このような少女が、調査?
闘技場の 管理人として、これを許すかどうか。
対応を 間違うと 面倒だ。
私は、ひとまず、彼女たちを見守り、おかしなことをしないか 見守ることにした。
[美容師の娘] 【 2-50.ガラスの破片 】
「ライリューン、ここだよね? 倒れたところ。」
「足が、おかしかったのよね。
掘ってみよう。あっ、魔法 使わないでね。」
手で、砂をより分けるように掘る。
「んー、紙風船しか 出てこない。」
「何か 仕掛けられていた としたら、この場所なんだけどね。」
大きく穴を掘ったが、出てきたのは、試合前に飛ばされた 紙風船だけ。
潰れた風船をつまんで、ポイポイと、横に投げる。
「アリー、何かした?」
「え?何が?」
紙風船を 指差す ライリューン。
そこには、先ほどまで潰れていた、紙風船が 膨らんで 転がっていた。
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「じゃ、私の実験室のほうに、置いてね。」
実験室に、持ち込まれた箱一杯の砂と、紙風船。
ライリューンが触れても、紙風船は、膨らまない。
両手で叩くように クシャリと 紙風船を潰す ライリューン。
そして、私の手の上へ。
不思議なことに、私の手に触れると、またも 紙風船が膨らんだ。
「これ、なんだろうね。
不思議な現象。」
「結論だけ言うと、紙風船が潰れて、穴になったんだと思う。
だけど、事前に埋めておいたら、朝には、潰れてるよね。
いったい、どうやって、機能したのかしら?
この不思議な現象も、関係してると思うんだけど。」
「ナカヨシが、居たら良かったのに。」
「たしかに。ナカヨシ教授が、お休みなのが痛いね。
証拠として出すには、ちょっと弱いから。
せめて、試合前から埋められていたことを証明できればねぇ。」
ライリューンが、予想する仕掛けは、こうだ。
試合開始前に、何者かが、紙風船を埋める。
試合前の会場整備でも、潰れないような細工を 紙風船に仕込んだ状態で。
ウロジーは、紙風船が埋められた場所に、エウリュアを誘う。
エウリュアが踏み込んだ時は、紙風船が潰れる。
「これ、エウリュアが踏んだら、潰れなければ ダメなのよね。
ウロジーが乗った時は、潰れちゃダメだけど。」
「紙風船の厚みは、普通のものより厚いよね。」
「うん。でも、手で潰せば、普通に潰れるでしょ?
それだと、ウロジーが乗った時に潰れなきゃダメなんだよ。」
「風船の中にも、細工なんて無いね。」
「砂の中にも、おかしなものは、入ってないし。」
「ナカヨシ教授は、明日は来るの?」
「知らない。
オリンピュアス大祭が始まってから、来てなかったから。」
「教授に、紙風船を見てもらいたいけど・・・。」
オリンピュアス大祭の間は、講義がない。
教授が、いつ来るかは、予想がつかない。
「じゃ、明日は、マーガレットに、待機してもらうよ。
ナカヨシが来たら、連絡してもらう。」
「うん。これは、このまま、置いておくのでいいね。」
私たちは、箱一杯の闘技場の砂と、紙風船を置いて、教会前 診療所へ向かった。
オリンピュアスと、ライレーンは、そちらに居るはずだ。
運ばれたエウリュアと共に。
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「何?これ・・・。」
教会前 診療所。
大きな容器に、あふれんばかりの液体。
「表面張力って言うんだよね。」
「オリンピュアス、やり過ぎ。」
エウリュアの傷を消毒するアルコールが、足りない。
そう聞いたオリンピュアスが、エトリーヌ・チャト・ウィック教授の講義で習った 消毒用のアルコールを 作り出したのだ。
大量に・・・。
「ほ・・・他の人の消毒にも、使えますわ。」
うーん。声が震えてるよ。
「で、ライレーン、肝心のエウリュアは?」
「医者は、大丈夫だって、言うんだけどね。
まだ、意識が戻ってない。
あと、左腕は、折れてるね。」
「エウリュア様・・・。」
医者が大丈夫って言うなら、大丈夫なんだろう。
オリンピュアスは、心配そうにしてるけど。
「で、闘技場の方はどうだったの?」
「それがね・・・」
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「ははは、少し腹が減ったよ。」
「あぁ、医務室で治療したら、飯を用意する。」
プレパラツィオネ・ファカデレ・トラポラは、ウロジーに付き添って 闘技場 医務室に向かった。
「誰もいないのか?」
「申し訳ありません。
重傷者の搬送に付き添っており、私しか残っていないのです。」
この大会は、医療提供体制が、ひどいな。
「氷を頂きたい。」
2発殴られただけとはいえ、ウロジーも、ダメージを受けている。
患部を、冷やすだけでも、しておきたい。
「今、担当者が出ておりまして・・・。
お急ぎでしたら、外に積んである革袋があります。
氷は 多少 溶けておりますが、まだ使えると思います。」
医務室の外には、小さな革袋が積まれていた。
指で押さえると、なるほど・・・溶けている。
温度も、まるで1日置いていたかのように、ぬるい。
これではだめだ。
1個ずつ革袋をさわって選ぶ。
ん?これは溶けていなさそうだ。
「ウロジー、とりあえず、これを顔に当てておけ。
腫れも、少しは引くだろう。」
一番上に積まれていた氷袋は、溶けていないようであった。
ポイと、ウロジーに、革袋を投げる。
明日の、決勝までには、腫れもひくだろう。
「つぅッ」
突然、ウロジーが 革袋を落とし、目のあたりを押さえた。
ウロジーの 顔面から 血が流れる。
な・・・何が起こった?
顔を押さえたままの ウロジーの足。
ふらふらと、転がった革袋を 小さく蹴る。
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革袋の口が開いた。
床には、小さなガラスの破片が、こぼれ落ちていた。
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メタノールを飲んだことがある人は、
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蛇足1.
エウリュアの傷を消毒するアルコールが、足りない。
そう聞いたオリンピュアスが、エトリーヌ・チャト・ウィック教授の講義で習った 消毒用のアルコールを 作り出したのだ。
精米・磨き → 洗い・水に漬け浸漬 → 蒸米 → 麹造り →
→ 酒母造り → もろみ造り → 搾り → ろ過 →
→ 火入れ → 熟成 → 割水 → ろ過 →
→ 火入れ → 瓶詰め 完成
良く知りませんが、日本酒作りの行程のイメージです。
1月くらいに、洗いを行い、9月くらいまで熟成って感じですよね。
一方、工業用アルコールは、石油や天然ガスから得られるエチレンを水和させて作ります。
いま、ワクチンで、騒いでいますが、私にとって、いままでの不活化ワクチンが日本酒のイメージです。
新しいmRNAワクチンが、工業用アルコールのイメージです。
確保したお米の収穫量とか、麹とか、発酵とかそういうのを考えなくていいという意味で。
mRNAワクチンって、原料と、工場さえあれば、比較的早く作れるイメージなんですよね。
かなり余るような気がするんです。もう少し時間がたったら。
足りない。少ない。急いで。
ふぁいざーさん、供給が足りない感を出して、うまく商売されてる気がしなくもありません。
来年の春くらいに、今のそういう需要供給状況を、さかのぼって分析してみてほしいですね。
あっ、メタノールは飲んだら失明します。
蛇足2.
「ははは、少し腹が減ったよ。」
「あぁ、医務室で治療したら、飯を用意する。」
プレパラツィオネ・ファカデレ・トラポラは、ウロジーに付き添って 闘技場 医務室に向かった。
ちっぽけな あおむしは おなかが ぺっこぺこ。
げつようびには りんごを ひとつ、
かようびには なしを ふたつ。
青虫って梨を食べるんですね。
絵本作家エリック・カールさんが、5月23日に亡くなったそうです。
絵本「はらぺこあおむし」。
まだ、本棚のどこかに置いてあると思うので探してみたいです。