2-49.ノックダウン
オリンピュアス大祭。
ボランティアスタッフのコズネード・マカーは、その日、パンクラチオン・学生部門の運営サポートに派遣されていた。。
「氷を入れる袋は、どちらに置いておけば、よいですか?」
看護用の服を着た 美しい女性に たずねる。
「外です。
革袋を積んでおりますので、そちらに置いてください。」
既に 氷が水になってしまった革袋を、闘技場 医務室の前に積む。
パンクラチオン・学生の部。
今大会は、医療提供体制が、優れている。
仲でも秀逸なのが、氷の提供だ。
氷室と呼ばれる、小さな氷の保管庫まで用意され、万全を期されている。
これには、エペイロ伯爵家の令嬢、オリンピュアス様の後援があったという。
まだ、10代というが、栴檀は双葉より芳し。
優秀な人間は、若年から、その片鱗を示すものなのであろう。
私は、革袋を、丁寧に積み直していった。
[美容師の娘] 【 2-49.沈む砂 】
ウロジー・ソード・カッシーニは、闘技場の壁際に居た。
ウロジーの目の前には、白い砂。
そして、そこに立つ 対戦相手 エウリュア。 強敵だ。
やっと、ここまで誘い込んだ。
誰も、足を踏み入れていない闘技場の隅。
きれいに整った、砂地。
来いっ。
ふっと息を吐いた瞬間、エウリュアが 踏み込んできた。
彼の左足が踏み込まれ、右足が、振り下ろされる。
・・・私に向かって。
にやりっ。
自分の顔が、笑いに ゆがむのを 感じる。
ボッと いう音とともに、エウリュアの体が沈んだ。
落とし穴だ。
足は、ふくらはぎまで 埋まり、もはや 蹴りなど 出せる体勢では ない。
バランスを崩した エウリュアが 膝をつく。
彼の顔面が、私の ヒザの前に 差し出される。
ゴッと いう音とともに、右ヒザをアゴに打ち込んだ。
エウリュアの表情をうかがう。
うつろで、左右に揺れるの黒目を 確認する。
うん、意識を失っているな。
ならば、証拠隠滅だ。
足が、砂に埋もれたままでは、あとで 疑惑を招く。
彼は、運悪く、やわらかい砂地に 足を取られただけ でなければ ならない。
少し持ち上がった 彼のアゴを さらに持ち上げるように 足の裏で 蹴り上げる。
勢い良く蹴り上げた、私の足裏は、体ごとエウリュアを 持ち上げた。
そこに、掌底。
手の平に、気を集め、相手の胸に打ち込む。
手首を立て、手の平の部分を 少し上に向けるのが、ポイントだ。
ダメージを与えるなら、下に向ければ良い。
しかし、今回は、落とし穴から 少しでも 距離を取ることが、目的だ。
掌底で、エウリュアを 吹き飛ばす。
前に倒れそうになる 相手の体を 支えるように、もう一発。
簡単に、倒れて もらっては 困る。
せめて、闘技場の 中央に 戻って もらわないとね。
もう、相手の意識は ない。
顔面に、こぶしを叩き込む。
そして、上段蹴りっ。
きれいに後頭部に入る。 終了だ。
ドサリという音とともに、エウリュアが倒れた。
まぁ、ここまで 勝ち上がってきただけのことは あったな。
なかなかの腕だったよ。
******************************
「エウリュア様っ。」
ウロジーの 右膝が、エウリュアの アゴを 打ち抜いた。
オリンピュアスが、叫び声をあげる。
「やられたね。
うまく追い込んだと 思ったけどねぇ。」
「エウリュア、なんか、おかしくなかった?
ライレーン?」
「一瞬、砂に 足を取られたみたいに 見えた。
勝ちを 焦ったんじゃないかな?」
エウリュアは、勝ちを焦るあまり、躓いて逆転されたみたいだ。
最初のヒザ蹴りで、エウリュアを無防備な状態にした、ウロジーは、連続攻撃を仕掛ける。
掌底、蹴り、そして、顔面へのパンチ。
ボロボロになっていくエウリュア。
「ライレーン。エウリュア様に声を届けましょう。
アリー、窓に穴を開けて。」
「ちょっと無理。
もう、意識無いよ。エウリュアの。
むしろ、試合を止めてもらわないと、命が危ないレベルかも。」
うん。素人の私から見ても、危険な状態であることが分かる。
そして、後頭部に上段蹴り。
前のめりに、エウリュアが倒れる。
「予想以上に強かったね。ウロジーが。」
ライレーンの予想を 超えてきた ウロジーが、すごかったのだろう。
「ちょっと引っかかるけどね。
エウリュアの 躓き方が 変だったから。
あそこ、何か された ん じゃないかな?」
「ボクには、見えなかったけどね。そういうの。」
ライリューンは、違和感を覚えたと言う。
私は、気づかないし、ライレーンも分からなかったみたい。
ライリューンって、そういう観察眼があるのよね。
「3人とも、しゃべってないで、医務室に参りますわよ。
エウリュア様が心配です。」
オリンピュアスは、私たちの言葉を待たずに、貴賓室を飛び出した。
******************************
「コズネードっ。選手をそのまま寝かせて。」
意識不明で運ばれてきた 巨体の選手を ベッドに運ぶ。
顔は、ボコボコと腫れ、原型は無い。
左腕は、変な方向に曲がっている。
「氷を取って。」
慌てて、氷の革袋を渡す。
「ダメね。
馬車の準備が出来次第、教会前 診療所へ運ばないと。
コズネード、運び出す準備をしておいて。」
ドアを開放し、選手を運び出す用意をする。
「エウリュア様っ。」
飛び込んできたのは、4人の女性。
「アリー。治癒魔法など無いのですかっ。」
「そんなの聞いたことないって。」
「ナカヨシ教授に 聞いたとか あるでしょ。」
「そんな都合のいい魔法があったら、前の時に使ってるって。」
私を押しのけて、4人の女性が、意識不明の選手を囲む。
邪魔だな。
4人を 追い出そうとしたとき、一人の女性がつぶやいた。
「オリンピュアス。
闘技場の砂地を、見ることはできるかな?
ちょっと気になるから。」
「出来ますわ。ライリューン。
でも、私は、エウリュア様に付き添いますわよ。」
「じゃ、アリー、私と一緒に来てくれる?
身分的に、アリーが居たら大丈夫だよね?」
身分・・・。危なかった。
追い出すなど、とんでもない。
かなり地位の高い貴族だったようだ。
私は、気づかれぬように そっと 4人の女性から 離れた。
******************************
プレパラツィオネ・ファカデレ・トラポラは、会場の隅で ぐるりと首を回した。
うまく、罠の位置に誘導できたようだ。
ウロジーの手際が 良かった。
腕に1発。顔に1発。
もらったダメージも少ない。
念のため、医務室に向かったウロジーに 付き添った方が よいだろう。
カードを手の平でクルクルともてあそぶ。
格闘家 学院が用意した 関係者用カードだ。
そして、手すりに手をかけ、階段を下りようとした。
おっと、危ない。
向かいから駆け上がって来た 少女 2人と ぶつかりかけた。
学生と思われる少女たちは、彼に謝ろうともせず、闘技場へと向かっていった。
ちっ。舌打ちをして、階段を降りる。
=== ===== === ===== ===
トラポラは、後ろを振り返らなかった。
「砂に細工してたんじゃないかと思うんだよね。」
そして、ライリューンの声が、トラポラに届くことは無かった。
=== ===== === ===== ===
「笑福亭笑瓶」顔が分かる人は、高評価を押して次の話へ⇒
蛇足1.
掌底~しょうてい
そこに、掌底。
手の平に、気を集め、相手の胸に打ち込む。
手首を立て、手の平の部分を 少し上に向けるのが、ポイントだ。
ダメージを与えるなら、下に向ければ良い。
「ビックフライ、オータニサーン。」
大谷選手がホームランを打つたびに、アナウンサーが叫ぶ言葉です。
海の向こうでの大谷翔平選手の活躍が連日報道されています。
掌底と、書いたときに、大谷翔平選手と、もう一人のショウヘイを思い浮かべました。
そう、笑福亭笑瓶さんです。
そういえば、最近テレビであんまり見ないなって思ったのですが、
調べてみたら、2015年の冬に、大動脈解離で倒れていたとか。
血管、大動脈の壁の内膜が破れて、壁の中間層から剥がれる病気です。
全く知りませんでした。
有名人では、大杉漣さん、大瀧詠一さん、阿藤快さんなどがこの病気で倒れたそうです。
あら?男の人ばっかりですね。
女性より男性が、3倍も多いとされています。
そういう病気なんですね。
大瀧さんは、夕食後のデザートにリンゴを食べている時に倒れ、「林檎を食べていてのどに詰まらせた」と家族に思われたそうです。
少し、シンデレラを思い出しました。
病院にたどり着く前に20%の人が亡くなると言われているみたいですので、助かった笑福亭笑瓶さんは、処置が良かったんでしょうね。
蛇足2.
プレパラツィオネ・ファカデレ・トラポラは、会場の隅で ぐるりと首を回した。
preparazione 準備
Far cadere 落とす
TRAPPOLA 罠
落とし穴の準備をさせてみました。
そういえば、ジョバンニ・トラパットーニさんって人がいましたね。
サッカー監督で、口に指を当てて、独特の音色を出す指笛で選手を呼ぶことで有名な人みたいです。
あぁ、トラポラに指笛で、罠を作動させる合図をさればよかったと思いました。
蛇足3.
そして、上段蹴りっ。
きれいに後頭部に入る。 終了だ。
ドサリという音とともに、エウリュアが倒れた。
「ちょっと無理。
もう、意識無いよ。エウリュアの。
むしろ、試合を止めてもらわないと、命が危ないレベルかも。」
5月23日。
栃木SCvs松本山雅FC 明治安田生命J2リーグ 第15節
前半19:38
栃木FC、左からのフリーキック。
松本FC、鈴木選手がヘディングで跳ね返す。
こぼれたボールを栃木FCが蹴りこみ、松本FCが跳ね返す中で、
栃木FC阪野選手が、左足でミスキック。
ボールは、コロコロ転がって、ゴールキーパーの前へ。
飛び出す松本FC村山選手と、飛び込む栃木FC山本選手。
山本は、右足を振り抜き村山の頭部を蹴り上げる。
頭を押さえ、のたうち転がるゴールキーパー村山選手。
映像を見たんですが、キーパーがボールを取って、ボールの位置がズレた所、元のボールの位置を蹴りに行っているので、頭を狙った感じではなさそうですですが。
でも、下手したら、命が危ないレベルかも。って思いました。