2-48.ナカヨシの砂
理事長室の テーブルの上に置かれた ガラス容器。
詰められた 白い砂。
ナカヨシの砂 と呼ばれる 魔法鉱物だ。
私立 格闘家 学院の、理事室長を務める優秀な文官。
彼の名は、プレパラツィオネ・ファカデレ・トラポラ。
その夜、トラポラは、理事長の 指示を受けて立案した計画について、説明を行っていた。
「これが、ミジカイ・ナカヨシ教授の砂ですか。」
理事長の目が、彼の用意した砂を凝視する。
ミジカイ・ナカヨシ・アンターナッハ。
フルーク王国の偉大な化学者。
王立 飛翔師 学院 の 筆頭教授である。
「使い捨てと、なりますが・・・。
この量で、魔力を12時間、ため込むことが出来ます。」
トラポラの答えに理事長は、驚く。
「12時間っ。
そのように持続可能なものは、聞いたことがありません。
本当なのですか?」
「私も、確認できておりません。
あまりに高価で、貴重すぎるのです。
実験するには、砂が全く足りませんでした。」
「と、なると・・・。
テスト無しで、仕掛けるということですか。」
「申し訳ありません。
時間と、費用がございませんでした。
ただし、朝、闘技場の状態を見ることはできます。
うまくいったかどうかは、一目でわかります。」
「なるほど、失敗していれば、分かるのですね。
それならば、よろしい。
もちろん、証拠は、残らないのですね。」
「もともとが、砂でございますので・・・。」
「なるほど、残っても、分からないということですか。
よろしい、そのまま計画をすすめなさい。」
理事長は、ニヤリと笑い、トラポラに頷いた。
[美容師の娘] 【 2-48.ローキック~下段蹴り 】
格闘家学院の応援団から、カラフルな紙風船が、飛ばされる。
やや厚手の紙で作られた 紙風船。
風船は、フワリフワリと舞い、闘技場の砂地の上に ポトリ。
この砂地が、選手たちのリングだ。
「しかし、派手ですわね。」
オリンピュアスから見ても、派手なんだね。
「1回戦の時と比べて、紙風船の数が多い。」
そういえば、多いな。
ライリューンって、そういう観察眼があるのよね。
私、気づかなかったもん。
「ウロジーは、格闘家学院の学生だからね。
ボクは、見たことないけど、そこそこ強いらしいよ。」
格闘家学院の、ウロジー・ソード・カッシーニ。
彼こそが、今日、エウリュアが対戦する相手だ。
「エウリュア様なら、勝てますよね?」
「正直、分からないんだよね。
ボクが、見たこと無いのもあるんだけど・・・。
それ以上に、向こうが無傷で、勝ち上がってきてるから。」
エウリュアのここまでのダメージは、意外に大きい。
ウロジーが、ダメージを受けていないのであれば、そこに、差が出来てしまう。
それでも エウリュアなら 何とかしそうな気がする。
うん。
なんだかんだ言って、勝ってるんだよね。
エウリュアって。
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今日の対戦相手には、気を付けなければならない。
格闘家学院の学生。
つまりは、専門が、パンクラチオンなのだ。
左手を前に構え、ウロジーが、ファイティングポーズをとる。
エウリュアは、スススっと、すり足で左に回り込んだ。
シュッ
ウロジーの右足が、顔面に向かって飛んでくる。
上段蹴りだ。
上体をそらし、上半身を後ろに倒す。
しかし、目だけは、逸らさない。
それほど、鋭い蹴りではない。
すくなくとも、スピードスター・シーアより遅い。
私のパンチを受けてみろ。
顔を狙うキックは、その動作から、大きなスキを生む。
足を動かさず、上体だけで避けたのは、このためだ。
近づいてきた 距離を 離さない。
そのまま 反撃っ。
ウロジーの左足をかわし、放った私のこぶし。
右ストレートが、ガードしようとする ウロジーの腕をとらえた。
そのまま、体重を 乗せる。
ガードなど、どうでもよい。
吹き飛ばして しまえば よいのだ。
砂地に 散らばる 紙風船と共に、ウロジーは、吹き飛び 転がった。
油断してはならない。
すり足で、ソロリソロリと近づく。
ウロジーが、パっと後ろに飛ぶ。
あまり ダメージを 受けていないか?
少なくとも、まだ、相手の足は動くようだ。
追撃っ。
ウロジーのような、顔を狙うような蹴りは、放たない。
低く構えるウロジーに、振り下ろすように、ローキックを放つ。
正確に 狙う必要は ない。
体のどこかに 当てればよいのだ。
ローキックは、頭や胴への攻撃に比べ即効性に欠けるが、有効だ。
モーションが小さいため避けにくく、隙が少ない。
そして、そのダメージの蓄積により、相手の動きを止めることが出来る。
下段蹴り、下段蹴り、下段蹴り。
しつこく追撃し、追い詰める。
ウロジーは、その度に、ゴロリと転がり、立ち上がり、そして、低く構える。
なるほど、うまく避けるものだ。
しかし、気づいていないようだな。
もちろん、相手が受ければ、ダメージを与えることが出来る。
しかし、避けられても よいのだ。
左、右とリズムを刻むようなローキックは、単調で、かわしやすい。
が、これを ゴロゴロと 大きく 避けるのは、悪手だ。
ウロジーが、ふっと後ろを見た。
気づいたようだな。
私は、ただ闇雲に、キックを放っていたわけではない。
スピードスター・シーアとの試合で、学んだのだ。
相手との 間合いを 維持することで、試合を 優位にコントロールすることの 重要性を。
追い詰めた。壁際に。
誰も、足を踏み入れていない闘技場の隅。
きれいに整った、砂地が、私が踏み込んでくるを待っている。
肩で息をする、ウロジー。
よけるだけでも、体力は 消耗する。
ここで、大きなモーションは、必要ない。
逆転の目を、作る必要は ないのだ。
小さくフェイントを入れ、相手の動きを けん制する。
相手が、息を吐く瞬間が、勝負の時だ。
呼吸を見る。
ここだっ。
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私は、右足を前に踏み込んだ。
ローキック。
ボッと いう音とともに、私は、蹴りを放った。
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紙風船で、サッカーをしたことがある人は、高評価を押して次の話へ⇒
日本サッカー協会(JFA)が5月13日に発表した、ヘディングが子どもの脳に悪影響を与える恐れの話と、ルー・ゲーリッグ・デーの話。
蛇足1.
カラフルな風船
格闘家学院の応援団から、カラフルな紙風船が、飛ばされる。
やや厚手の紙で作られた 紙風船。
風船は、フワリフワリと舞い、闘技場の砂地の上に ポトリ。
この砂地が、選手たちのリングだ。
ということで、
「育成年代でのヘディング習得のためのガイドライン.2021年4月30日JFA」において、
「風船や新聞ボールなどの軽量のボールを額に当ててみたり、額にボールを乗せてみたりといった課題が、空間把握や距離感の向上のためにも欠かせない要素」とあったので、
一昨日、風船で、ヘディングを、試してみました。
紙風船ではなく、ゴム風船です。
頭に乗せ、フラフラとしておりますと、なんとなく、空間把握や、距離感が向上したような気が・・・しませんでした。
ただし、少し、ふらつきまして、転びそうになりました。
とっさに、右手を、壁につきました。
はい。突き指です。
と、いうことで、1日休ませていただきました。
まだ、痛いのです。
文章を書くのに、時間が、かかるんですよね。
蛇足2.
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動神経が障害され、体を動かすのに必要な筋肉がやせて力がなくなっていく病気です。
アメリカのプロ野球選手ルー・ゲーリック病が罹患したことからルー・ゲーリック病とも呼ばれます。
1941年6月2日に、ルーゲーリックさんが無くなったことから、6月2日は、ルー・ゲーリッグ・デーとなりました。
ヘディングの練習が子どもの脳に悪影響というのも、同じ関連ですね。
プロサッカー選手は一般人より神経変性疾患で死亡するリスクが3倍以上も高い
[Mackay, D. et al. 2019]
1960年代以降にプレーしたサッカー選手の死因、通常よりも高い確率でALSに罹患。
アメフト選手、ラグビー選手、野球選手、サッカー選手。
ここらへんのスポーツは、神経変性疾患と相関性があると言われます。
アメフト、ラグビーが高リスクで、サッカーや、バスケットボールでは、男性も、もちろんリスクがありますが、女性の方が高リスクだそうです。
タックル、ヘッドスライディング、ヘディング。
うん、関連性がありそうです。
そうすると、相撲なんかも関係ありそうです。
スコットランド、イングランドなどのサッカー協会は、若年代でのヘディングの禁止と段階的なヘディングの導入のガイドラインを作っていますし、アメリカでも子どものスポーツ中の脳振盪についての問題意識が高いと言われます。
男子大学生のサッカー選手では、ヘディングをした後、
頭痛を感じたことがある人が 48%
脳が揺れる気がしたことがある人が 39%
フラフラするようなめまいを感じたことがある人が 30%
首が痛いと感じる人が 17%
ぼやけて見えることがあった人が 9%
その時のことを思い出せないことがあった人が 2%
この結果を見ると、小さな子に、禁止令が出て、風船などで練習するるのは、仕方ないのかな?と思いました。
風船は、右手の人差し指の、突き指のリスクはありますけどね!!!