2-45.つかまえた。 この手を 絶対 離さない。
さすがに、見えない敵は、倒せない。
しかし、足が 見えたのなら 別だ。
うつ伏せの状態から、顔を 右に 傾けると、シーアの 細い 両足が 見える。
エウリュアは、全身に 力を 込めた。
両腕を 胸の前につく。
体と 地面の 間に できた 少しの空間。
両腕に 力を 込めた。
ここを支点に、クルリと 全身を 回す。
体操競技の あん馬の 旋回の ように。
開脚し、旋回させた 右足が、シーアに届いた。
ボグッ
シーアの 左足首を 刈るように なぎ払う。
ひゃうっ
奇妙な 甲高い 悲鳴を上げて、シーアが、転ぶ。
チャンスっ
私は、飛び起きて、倒れた シーアの 足を 掴もうとした。
シーアの 右足に 手が かかる。
掴めるっ。
そう思った瞬間・・・。声がした。
エウリュア様っ
げ・・幻聴?
エウリュア様、がんばって くださいませー。
あっ・・・
幻聴に 気を取られた その瞬間、手の内に入ったと思った、シーアの 足が スルリと 私の 手から 逃げ出した。
[美容師の娘] 【 2-45.風属性っ! 音響魔法 】
「ボクの声、聞こえた みたいだね。
でも、コレって、どうやって 届けてるの?」
割れた 窓の 切り口で、手や口を 切らないよう 気を付けながら、ライレーンが、窓から 顔を離す。
「風魔法だね。
風の波を 圧縮して エウリュアの方向にだけ 流したの。」
「波?」
「指向性というか・・・。
声ってね、口から 放射状に 広がるのは 分かる?
これだと、まっすぐ 伝わらないから・・・
こうするの・・・」
音波は、発生源から 放射状に 広がる 波の性質を 持つ。
これだと、音は、円状というか、球状に 広がる。
特定の人に 選択的に まっすぐ 音を 流すためには、音波に 指向性を 持たせる 必要が ある。
このために、必要なのが、空気の圧縮だ。
空気は、圧縮される ときよりも、圧縮から 元の空気に戻るほうが 時間がかかる。
凍らせるよりも、解凍に 時間が かかる イメージ。
圧縮されて 戻りきらない 空気に、後から来た 空気を 衝突させると、その方向にだけ、聞こえる音を 作ることが出来る。
私は、説明をしながら、ライレーンだけに、声を届ける。
「ライリューンは、聞こえないでしょ?」
「うん、ぜんぜん聞こえない。」
ライリューンが、答える。
「これを応用するの。
圧縮した空気に 音を 乗せる。
音っていうのは、ライレーンの声ね。
そして、エウリュアの方向に 風を 送って ぶつける。
その方向にだけ、聞こえる 音を 作ることができれば 成功。」
「あぁ、それで こんな 遠くから、ボクの 声が届いたんだ。」
「アリー、よく こんな 魔法 知ってたね。」
ライレーンも、ライリューンも、驚いた 顔を している。
「ナカヨシが 教えてくれたから。」
「ナカヨシって、ナカヨシ教授?」
「そだよ。
あの人、教授だけあって、いろんなこと知ってるね。」
「それで、私の声も、届きますの?」
オリンピュアスが、待ちきれないような仕草で、聞く。
「うん。
その、ガラスの穴から 声を 出してくれたら、届けるよ。」
「あぁ、ダメっ。」
窓ガラスの 穴に 口をつけようとした オリンピュアスを ライリューンが あわてて 止める。
「穴に 直接 頬をつけて しゃべっちゃ ダメ。
切り口で、顔を切っちゃう。」
やわらかい布を 使い、顔が 直接 切り口に 当たらないように する。
「アリー、この状態で、しゃべれば よろしいの ですの?」
「うん。もう 話して いいよ。
ちゃんと 向こうに 届けるから。」
「エウリュア様っ
エウリュア様、がんばって くださいませー。」
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しまった。
シーアの 右足に うまく 逃げられた。
しかし、シーアを、立ち上がらせては ならない。
座った状態で、後ずさる シーアを 追う。
立った 状態での スピードで、自分が劣っていることは、自覚している。
低い姿勢で、タックルするように、足を狙う。
くるりっ。
転がるって よける シーア。
しかし、それは、想定内だ。
私の 左手は、転がる シーアの 左足に 届いている。
足首に 手が かかる。
今度こそっ。
グイっと 足首を 掴む。
捕まえた。この手を 絶対 離さない。
シーアの 左足首を、引き寄せる。
力任せに。
軽いっ。
ふわり と 浮いた、シーアの 全身が 私の 体に 飛び込んできた。
シーアを抱えたまま 体を 反転させ、押さえこむ。
右腕を、相手の首にかけ、左手は、腰にかける。
体を 起こそうとする シーアを 抑え込むため アゴで 胸を 押さえる。
ふにゃり とした 感触が、顔を包んだ。
え・・・?
「ストップ。エウリュア。」
驚いて、顔を上げたところで、審判に シーアから、引きはがされた。
見ると、シーアが 左手を 上げている。
降参。
パンクラチオンの 降参の 意思は、片手を 上げることで 示される。
頬を赤らめ、胸を おさえる シーアに 近づく。
「お・・おんな。女性だったのか。」
「秘密にして おいて くれるかな。」
男性にしては、高い声。
軽い体重、軽いこぶし。
なるほど、シーアが 女性であったならば、納得が いく。
私は、座ったままの シーアを 抱えて 立ち上がらせて 言った。
「あなたは、私を 追い詰め 苦しめた 尊敬すべき 戦士だ。
性別は 関係ない。
秘密に したい というならば、黙っていよう。」
「ありがとう。エウリュア。」
観客に 大きく 手を振って 退場する シーア。
満場の拍手。大きな声援。
こうして、大会屈指の スピードスターは、闘技場を 去った。
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「アリー、まだ そちらの 床が 濡れておりますわよ。」
「コレ、雑巾が 足りない こと ない?」
「バケツって、コレ しかないの?
どこかで もらって くるわけにも いかないし。」
「窓の穴は、このままでも バレないよね?」
水浸しの床、窓に開いた穴。
エウリュアの 勝利の 余韻に 浸ることもできずに、私たちは、後片付けに 奔走していた。
早く 片づけないと、アタリヤ商会が、配当を 持ってくる。
助言であれ、何であれ、手助けをしたのが バレたら、大変っ。
だって、賭けが、成立しているんだもの。
イカサマだ。
床拭きが、終わらないっ。
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こんなことなら、マーガレットを 連れてきて おけば よかった。
ヘルプ・ミー!
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蛇足1.
ここを支点に、クルリと 全身を 回す。
体操競技の あん馬の 旋回の ように。
5月16日、日曜日。体操のNHK杯男子がありました。
すごかったですね。
何が すごかったって、NHKアナウンサーです。
難度を 落としたか どうか など、瞬間で把握して 実況していました。
とくに、最後 着地の 技の 難度の判定ですね。
EからDに落としたなど、技をきちんと把握していないと出てこない言葉に驚きました。
もちろん、素人でも、分かる部分も あるんですよ。
例を挙げるなら、優勝した、橋本大輝選手の 跳馬での、
「ロペスにしました。
ここは、確実な演技を選択してきました。
ヨネクラではありませんでした。」
っていう実況。
ロペスは、伸身カサマツ2回ひねりで、着地したとき、後ろを向いています。
ヨネクラは、伸身カサマツ2回半ひねりなので、前を向いています。
着地しているときの、体の向きで、なんとか、判別はつくんですよ。
ただ、全ての種目で、技を理解して、その違いを把握して、即、実況。
これがすごい。
フィギュアスケートだと、アナウンサーじゃなくて、解説の人が言いますよね。
体操は、解説じゃなくて、実況が言及する。
NHKのアナウンサーのスゴさを感じました。
あっ、私は、体操競技について、ほとんど分かってないです。
蛇足2.
15日に、ちょっと触れた、イスラエルとパレスチナ武装勢力との衝突。
アメリカのバイデン大統領が15日に、イスラエルのネタニヤフ首相、パレスチナ自治政府のアッバス議長と相次いで電話会談して働きかけをしたそうです。
でも、イスラエルは16日にパレスチナのハマス幹部を標的として、空爆。
逆に、ハマスはテルアビブなどに120発超のロケット弾を発射。
なんか ギリギリの綱渡りを しているような 怖さを感じます。
蛇足3.
その、電話会談の、バイデン大統領。
就任99日目の 4月28日に 施政方針演説を したのですが、
中国の習氏を 専制主義者として、名指ししていました。
専制(autocracy)って、ルーズベルト大統領の第2次世界大戦での対ドイツ&日本参戦演説ですら使われていないキツい言葉らしいんですね。
ここまで言ってしまったアメリカも、言われた中国も、後に引けなさそう。
日本って、外交的に、よっぽど気を付けて動かないとダメなんじゃないかと・・・。
蛇足2.みたいな衝突状態までは、行かないにしても、怖さを感じます。