2-37.神に捧げる 儀式とともに 舞う紙風船
学生の体育教練といえば、スタディオン走、幅跳び、円盤投げ、やり投げ、砲丸投げ。
高学年になると、5種目のほかに、もう2種目、加わる。
格闘だ。
拳闘~ボクシングと、拳格闘~パンクラチオン。
この2つの種目。
騎士団学校におけるパンクラチオンの代表が、エウリュアなのだ。
「エペイロの祭神、テウスに祈りを。」
「テウスに祈りを。」
並んだ選手たちは、祈りを捧げ、一人一人クジを 引いていく。
「エウリュア様の 相手は?」
え?オリンピュアス、いつから「様」付けになった?
ライレーンと、ライリューンも、ツッコミを 入れたそうな顔で ニヤニヤしてる。
「4番、第四試合ね。」
「ウーク・ゴンソ相手だと、ちょっと 厳しいかもね。」
へぇ、エウリュアと同じ 4番のクジを引いたウーク・ゴンソって有名なんだ。
「エウリュア様の 応援を しましょう。
先ほど 申しました通り、彼に、白金貨10枚です。」
「じゃ、私も、白金貨10枚。」
オリンピュアスに 合わせておこう。
「「私たちは、ウーク・ゴンソに 金貨5枚。」」
おーい。幼馴染なんでしょ。
ライレーンと、ライリューンは、シビアだねぇ。
「あら?キレイ。」
格闘家学院の応援団から、カラフルな紙風船が、飛ばされた。
ちょっと、厚手の紙で作られた 紙風船。
風船は、フワリフワリと舞い、闘技場の砂地の上に 落ちた。
この砂地で、選手たちは、戦うのだ。
「キレイだね。
拳格闘は、開始前に、紙風船を 飛ばすの?」
「格闘家学院だけ じゃないかしら?」
「そうですね、今までは、見たことがございませんわ。」
ふーん。キレイだし、結構センスいいね。
野球の試合で、7回裏の開始前に ジェット風船を 飛ばすけれど、それの オシャレバージョンみたい。
[美容師の娘] 【 2-37.拳格闘~パンクレチオン 】
試合は、アノゥパンクラチオン ポジション=立ち姿勢 から 始まる。
バキッ!
うわっ。 痛そう。
ウークの 右こぶしが、エウリュアの左頬に 入ったのだ。
ウークは、そのまま 右こぶしで エウリュアの 顔面を狙う。
両腕を上げて、顔面を 守ろうとする エウリュア。
しかし、ウークの 右こぶしは、フェイントだった。
ガッ!ベキッ!
左の こぶしが、右頬を 打つ。
返す こぶしで、左の 顔面が 打たれる。
「エウリュア様・・・。」
オリンピュアスが、顔を 覆った。
「違う。上っ。」
「そこは 後ろに。
あぁ、もっと、近づいて。」
後ろ? 前? どっちよ。
ライレーンと、ライリューンは、ウークに 賭けたのに、エウリュアを 応援してる。
だんだん、エウリュアの顔が、腫れてきた。
「途中の休みとかは 無いの?」
ボクシングとか、3分ごとに 休みあるもんね。
「ありませんわ。
決着しなければ、日没まで 続きますの。」
死ぬって・・・。
アノゥパンクラチオン ポジション(立ち姿勢)での目的は、ノックダウンだ。
アゴ、こめかみ、のど、みぞおち、心臓、肝臓、脾臓など、人間の急所の どこかに 打撃を与え、地面に倒すことが 目的になる。
「あぁ。」
ウークの右こぶしが、エウリュアの腕に 絡まって、止まった。
膠着状態。
私は、パクリと、おにぎりを食べた。
いやぁ、息をつく間がなくて、食べられなかったのよね。
ゴクリと お茶を飲む。
突然、ウークが、エウリュアから 離れた。
左の手で、右のこぶしを 押さえながら。
「何が 起こりましたの?」
「指折りね。 たぶん、親指を 折ったと思う。」
拳格闘では、噛みつくこと、目潰し、この2点の反則を しなければ、ルール上、何でも 許される。
エウリュアが、前に出る。
両手を 伸ばした。
パンッ!
え? 猫だまし?
エウリュアは、相手の 目の前で「パンッ」と、手を 叩いた。
刹那の静寂が、場内を包む。
わぁぁぁぁぁぁああああああ。
そして、歓声。
ウークが、倒れたのだ。
「なにっ? 何が あったのですの?」
「金的ね。」
え・・・?
それは、男の人の 大事な場所のこと でしょうか・・・?
ライレーンは、全く表情を 変えない。
あっ、オリンピュアスは、真っ赤になってる。
意外と、ウブね。
エウリュアは、両手を伸ばし、相手の目の前で、手を叩いた。
と、同時に、右足で 股間を 蹴り上げたらしい。
私も、オリンピュアスも、そして会場の ほとんどの人たちが、その両手に 目を取られている 隙に。
「ライレーンは、見えたの?ライリューンも?」
「「あんなの、見えないよ。」」
「ただね、そうとしか 考えられないって 言うだけ。」
ライリューンが、答える。
「ウークも、両手しか 見えなかっただろうね。
指を 折られた 直後だから、混乱してただろうし。」
ライレーンが、解説する。
会場では、砂の上で、ウークは、完全に意識を失っていた。
しばらくして、審判により エウリュアの勝利が アナウンスされた。
両手を 上げて 場内の観客に 手を振る エウリュア。
「エウリュアさまぁ。」
オリンピュアスが、甲高い声をあげて、窓から花束を 投げた。
もはや、私たちに、隠す気は 無いらしい。
「でも、顔面は、腫れあがってるし、次の試合 大変じゃない?」
「みんな、そうだね。
むしろ、ダメージは、少ない方かも しれないね。
顔しか 殴られてなかったし。」
「ダメージなんて、ほとんど 無いよ。
後半は、ほとんど ガード 出来ていたもん。
思ってたより、強くなってたね。エウリュア。」
「少なくとも、ボクたちよりは、よっぽど 強いね。」
おぉ、ライレーン、ライリューンの評価が、急上昇。
これは、オリンピュアスと 恋のバトルが・・・
「「起こらないっ。」」
あっ、声が 揃った。
「それでも、エウリュアは ないね。」
「うん。」
あらぁ、恋の 三角か 四角か 分かんない関係に なりそうだったのに。
「それよりも、問題は、アレよね。」
ん?なに?
ライレーンの 視線を 追う。
貴賓席の 入口に、3人の おじさん。
3つの頭が 地面に・・・そう、土下座。
この賭けを 取り仕切っている アタリヤ商会。
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「魔道具で、分割で、お願いしますっ」
あっ、はい・・・。
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ごめんなさい。
昨日、投稿直前に、矛盾点を見つけて、
書き直すため、1日飛ばしました。
今日の文章を読んで、どこが、矛盾になっていたか分かった人は、
高評価を押して次の話へ⇒
蛇足1.
紀元前600年代より、古代オリンピックの種目となったパンクレチオン。
ただし、紀元前200年ころには、男児のための種目ともなり、激しさが薄れます。
そして、男児パンクラチオンも、オリンピックに登場。
ということで、今回のパンクラチオンは、男児のためのパンクラチオンで、かつ激しいルール無用のものです。
蛇足2.
パンクラチオンには、2つのポジションが存在しました。
アノゥパンクラチオン ポジション(立ち姿勢)と、
カノゥパンクラチオン ポジション(伏せ姿勢)です。
現在の格闘技では、スタンディングと、グランドと表記されるのではないでしょうか?
そういう意味では、現在の総合格闘技のルーツは、コレとも言えますね。
まぁ、総合格闘技って、年末のテレビくらいでしか目にしませんけど。