2-28.勇敢な冒険者の娘 ライリューン
ホームカンシ教。
家庭内を 道徳的に チェック、監視する教団だ。
私は、勇敢な冒険者の娘 ライリューン。平民出身である。
しかし、飛翔師 学院では、貴族と同様に扱われる。
それは、ホームカンシ教の教祖の長男キョニンの下妻であるから。
教会の 高位の司祭に なると、2種類の 妻を 持つのが 普通だ。
ひとつは、貴族の血を引く 妻で、天界の妻、 天妻と呼ばれ 正妻となる。
もうひとつが、下妻。
下界の妻という意味で、通常は平民から選ばれ、いわゆる、側室だ。
平民に 生まれてきた者に とって、下妻に 選ばれることは、名誉なことで、周りからも 羨望の目で 見られる。
しかし、エペイロ伯爵家の娘にとっては、そうではないらしい。
キョニン様のためにも、教会と、貴族の権威の差を、見せつけて おかねばならない。
[美容師の娘] 【 2-28. 下妻ライリューン 】
「オリンピュアス様は、位階順と申されておりますが・・・。
学院内では、差はつけぬということになっております。」
「それでも、エペイロ家に不敬でありましょう。
平民が貴族と同等などと言うことは、ございませんわ。」
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新たな実習は、水魔法を扱える者のみが行うものだ。
エトリーヌ・チャト・ウィックの公衆衛生学。
今日は、消毒用のアルコールを作り出す課題をこなす。
水魔法を使える者が、それほど多くないことから、この授業は、1学年から3学年までの合同。
居るんだろうなぁとは思っていたけれど、居た。
オリンピュアス様。離れておこう。
ん?なんだろ?言い争いをしてる。
近くで聞きたい。でも、巻き込まれたくない。近寄りたくない。
と、言うことで見なかったことに・・・。
あっ・・・オリンピュアス様と、目が合った。
相変わらず、目つきが悪い。美人だけど。
すっと、目を逸らす。窓の方へ。今日は、良い天気ね。
気配が・・・。圧力が・・・。
ダメ。あっちを見ちゃダメ。自分に言い聞かす。
トン。
机に手をかけたような音。仕方なく そちらに 視線を戻す。
「あら、オリンピュアス様。ご機嫌はいかがですか?」
明らかに 不機嫌そうな オリンピュアス様に 声をかける。
「おかげさまで。
アリー様、こちらの席へ 参りませんか?」
お誘いの 言葉だけれど、強制で来いっ ていう 命令ね。
謹んで お断りしておこう。
「今日は、良く晴れております。
せっかくの お言葉ですが、空の見える席が 良いです。」
「アリー様に、ご紹介したい者が ございます。」
つ・・・強い。 結構、分かりやすく 断ったのに。
ちょっと、私の方が 身分が上 じゃなかったの?
マーガレットは、教室の外。 聞くことはできない。
結局、強制連行された。
あら? ここだけ 椅子と机が違う。 豪華で座り心地の良さそう。
そこに 腰掛け ふたり。 同じ顔が、ふたつ。
「そこのふたり。 席を 譲って いただけるかしら?」
いや。 私、向こうで 講義 受けるって。 譲らなくていいよ。
「オリンピュアス様、学び舎では、先に来たものが 優先です。
先ほど 申しあげたとおりです。
こちらの席は、私たちが 使わせて いただきますわ。」
うわぁ。 そんなことで、揉めてたの?
「アリー様、この者たち 目に余りませんこと?
なにか おっしゃって いただけません?」
いや、自分の 好きな席で 講義を 受ければ いいじゃないの?
「別に、私は、向こうで 講義を 受けますから。
前の方が いいですので。」
「アリー様っ。」
オリンピュアス様は、完全に 巻き込みに 来ている。
さっさと、こんな ところから 離れるに 限る。
「こちらの方は、教会への 敬意が あるようですわね。」
教会への 敬意?
「教会の方 なのですか?」
「あら? ご存じ無かったのですか。
私は、ライリューン。
ホームカンシ教団キョニンの シモツマで ございます。」
シモツマ? ホームカンシ教キョニンって 誰よ。
「平民の娘が、本当に 失礼だわ。
アリー様、先ほどから、このような 態度なのですよ。」
いや、どうでもいいし。 こっちに 振らないでよ。
「シモツマって、何ですか?」
「え・・・?」
さっきまでは、オリンピュアス様が、ビックリしたような顔で、私を 見ていた。
だけど、今度は、ライリューンって子が、あきれたような顔で こちらを 見ている。
「ご存じ ないのですか?」
うん。 知らない。 何?それ。
「アリー様、お気になさらなくても 結構です。
ただの 平民の言葉で ございます。」
うるさいな。 オリンピュアス様。 ちょっと 黙ろうよ。
「オリンピュアス様、私は、コレを 持っているのですよ。
もちろん、ライレーンも。」
ライリューンって子が、銀色のプレートを 取り出した。
隣の 同じ顔の子は、ライレーンって いうのね。 双子かしら?
同じように 銀色のプレートを 取り出す。
「私たちは、銀のプレートを 持つもの でも あります。
エペイロ家は、教会を 敵に 回す おつもりですか?」
「あっ。 銀のプレート? 私も、よく似たのを 持ってるよ。」
ちょっと、仲間を 見つけた気分。 魔法の袋の 魔力鍵を解く。
「ほら、同じでしょ。」
金のプレートを、ライリューンと、ライレーンに見せた。
その瞬間、サッと 二人が荷物を持ち、席から 立ち上がった。
「「失礼いたしました。」」
さすが、同じ顔。 2人の声が、ハモる。
「どうぞ お席は、お使いください。」
「いや、私、前で 講義うけるし・・・。
でも、なんで? こっちで受けるって言い張ってたのに。」
手のひら返しにびっくりしながら、カードを袋にしまう。
「金のプレートを お持ちとは 思いませんでした。
アリー様、私は、ライリューン。
こちらが ライレーンで ございます。」
「ライレーンです。
ホームカンシ教団ジュニンのシモツマで ございます。」
「シモツマって いうのは?」
私は、さっきから 気になっていたことを 聞く。
「下界の妻 のことで ございます。
正室である、天界の妻と 対となるものです。」
あぁ この世界は、一夫多妻制なのね。
イアンと ウェンディしか 知らなかったけど、そういう 世界なんだ。
「うん。 分かった。 ありがとう。 じゃ、私、前に戻るわ。」
「アリー様。私たちも 一緒に 受けさせて ください。」
ライリューン、ライレーンは ついて 来る気だ。
まいっか。 じゃ、敬語禁止ね。
いや、しかし、金のプレート すごいね。
どっかの 世界の 印籠みたい。
「じゃ、オリンピュアス様、お席 空きましたので。どうぞ。」
争いごとも 無くなった。めでたし めでたし。
「アリー様、わたくしも、一緒に 講義を 受けますわ。」
オリンピュアス様までが、ついてこようとする。
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あなたたち、さっきまで、この席の 取り合いを してたんじゃないの?
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信長包囲網。包囲していた人たちを全部言える人は、
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私は、言えません。
蛇足1.
★下妻ライリューン
下間 頼龍は、戦国時代から江戸時代にかけての本願寺の僧侶。
石山本願寺の坊官。
本願寺法主、顕如の息子である教如の側近。
石山合戦では、織田信長側の細川昭元を攻めて戦功をあげる。
★ライレーン
下間 頼廉は、戦国時代から江戸時代の本願寺の僧侶。
石山本願寺の坊官。
織田信長との石山合戦では、雑賀孫一と共に武将として織田軍を苦しめた。
★下間氏は、代々本願寺の坊官を務めてきた家柄で地下家
親鸞の弟子となった源頼茂が、親鸞が常陸国下妻(茨城県下妻市)に居を移したときに「下妻」の姓を名乗る。
これが変化し「下間」になったといわれる。
蛇足2.
エリザベス女王の夫、エディンバラ公フィリップ殿下が9日、99歳で死去されました。
マーガレット王女の時に気になっていた人なので、少しビックリしましたが、99歳なら大往生ですね。