2-25. 異物検知魔法の伝授
魔王草は、伝説の植物であった。
昔、魔王レオホルト・フォン・ゾマライトが、奇病かかった。
あらわれたのは、呼吸困難の症状。
首が回らなくなり、息が出来なくなってしまう病気だ。
彼は、医聖チョウキより、植物の地上茎を 煎じた薬を与えられた。
その薬液を 一口飲むと、ゾマライトの 喉は通り、二口目で、息ができるようになった。
この奇跡のような効能に、ゾマライトは、歓喜したという、
現在、その植物は、魔王ゾンライトの薬草と いうことで、ゾ魔草 あるいは 魔王草と 呼ばれる。
[美容師の娘] 【 2-25. 魔王草研究物質33号 】
「これ・・・。」
私は、潰れた 小さな包み紙を テーブルに置いた。
「ワシは、その植物を 研究し始めた。
そこから、ある研究物質を 見つけ出した。
テレサと 結婚する 2年前の ことじゃな。」
ナカヨシが、語り始めた。
ここは、ナカヨシの 研究室。
アレックスの話を 聞いて、気になったので 飛んできた。
いや、歩いた けどね。 急いできたって ことね。
あのチョコを 開発したのが、ナカヨシだと 言うんだもの。
気になるじゃない。
「杉と ヒノキの花粉は、今日も 良く飛んでおるな。
今年は、去年の1.5倍くらい 飛んでいる そうじゃ。」
そういえば、くしゃみして、鼻水を 流してる子 いたね。
さっきの 飛翔実習中にも。
「魔王草は、そういう 症状に良い。
息苦しかったり、鼻水が 出たりする時に、効くのじゃよ」
ふぅん。じゃ、悪い薬じゃ ないのね。
「しかし、自然の薬草は、そう簡単には 見つからん。
どうにか 人工的に 作り上げたいと 思ってな。」
ナカヨシは、魔王草から 研究物質を 作り上げたらしい。
「いわゆる 魔王草研究物質 ゾマじゃ。
これは、よく効いた。
鼻水は止まり、息が通り、ゾマライトの 伝説の通りじゃな。」
それが、チョコに なったの?
「いや。 ゾマは、よく効く 普通の薬じゃ。
そこからの 研究が、まずかったな。」
ゾマを 作り上げてから 6年後、ナカヨシは、ある物質を作った。
魔王草研究物質33号。 飛翔兵の糖の素になる 物質である。
ここから後は、アーキオ商会のカーターによる研究だ。
カーターは、この魔王草研究物質33号の 結晶化に 成功。
労働多幸薬「ヒロパノス」として 販売した。
帝国の 光魔法は、覚醒魔法である。
兵士に対して使われる覚醒魔法は、夜間の軍事活動を容易にする。
王国は、これに対抗するため、夜間に 飛行する飛翔兵の 眠気止めとして「ヒロパノス」を 使用した。
飛翔兵の糖-ヒロパノス入りチョコ-が発売されたのは、この頃だ。
カラフルで かわいい 飛翔兵の糖は、たちまち 人気となり、退役兵や 売春婦から 乱用が広まる。
大量の中毒者の入院が 確認されて初めて、王国は、この薬物の 危険性に 気づいた。
あわてて、アーキオ商会に対して、飛翔師団以外への チョコの販売を 禁じる命令を出す。
現在、市中で 流通している チョコは、マフィアによる 密造品や、飛翔兵からの 横流し品だけである。
「・・・ということじゃな。」
ふぅん。 そういうことで、めっちゃ 王子に 嫌われてると。
「そうじゃな。
まぁワシは、販売には 関わっておらぬが・・・。
王子からすれば、作り出した者が 悪いということ であろう。」
パオラ妃や、イヴァナさんが、中毒に なってる みたい なんだけどね。
「優秀な 飛翔師兵は、休みを与えられぬ。
イヴァナは、睡眠を 必要としない体が 必要だったのじゃろう。
パオラ妃は、よく知らぬが、同じ理由じゃろう。」
チョコ以外には、入ってない? 口に したくないんだけど。
「普通に、粉や 錠剤は 存在する。
食品は、アーキオ商会では、チョコだけ じゃな。」
そなのね。
チョコレートには、気を付けておこう。
「飛翔魔法だが。おぬしは、使えるのじゃな。」
そだねー。 イヴァナさんよりは、うまいと 思うよ。
「それは、王都で 1番の 使い手じゃな。
西のヘドファン伯爵家では どうか 知らぬが・・・。
飛翔師兵として 働くようになったら、注意しておくが よい。
茶など 飲み物にも、混ぜられることが ある。」
いや・・・注意しようがないよ。そんなの。
そもそも、美容師になる予定だし。
「1つ魔法を教えよう。」
ナカヨシから 教えられたのは、異物検知魔法。
ライトの魔法の 応用だ。
手から 光を放ち、辺りを 照らす 魔法。
その魔法の 波長を、一定にすることで、ヒロパノスを 検知する。
ヒロパノス入りの食品を 照らすと、強く 発光するのだ。
私は、潰れた 紙包みの上に 手を かざした。
異物検知魔法の ライトを 当てる。
紙包みの上からでも、中のチョコが 強く光っているのが 分かる。
これは、使える魔法ね。
「ただし、ライトも、異物検知も 周りには 教えるな。」
え? 便利だよ? ほかの人も 知っておくべき じゃないの?
「光の魔法は、帝国の皇族しか 使えない 魔法だ。
少なくとも、そういうことに なっておる。
おぬしが 使えると分かると、騒ぎに なる。」
ナカヨシも、私も、使えてるじゃん。
「あぁ。 素質が あれば、誰でも 使える。
王国の 王族のみが 使う闇魔法も 同じ じゃろうな。
使うときは、目立たぬよう、手の平で 隠すようにして使え。」
ちょっと もったいないね。
他の毒物も、波長を 変えることで 検出できるし・・・。
これを 教えてあげれば、食中毒とか 毒殺を防げそうよね。
「食中毒は、無理じゃな。
あれは、微生物が 原因じゃ。
生きている物や、その死骸を 検出するのは 難しい。」
まぁ、毒物を 検出できるだけでも 十分か。
アレックスにも 教えちゃ ダメ?
ナカヨシが 嫌われているの、ちょっとでも 解消できるよ?
「王族に 知られるのが、一番まずい。 絶対に 教えるな。
忘れるな。 光の魔法は、帝国の皇族の魔法。
闇の魔法は、王国の王族の魔法。 そういうことに なっておる。
血の 証明に 使われるもの じゃ。」
光の魔法を 使っちゃうと、敵国の 皇族と 見なされるのね。
アレックスなら 説明したら 分かる気もするけど、仕方ないかな。
でも、あれは、大丈夫なの?
私は、時計を、指さした。
敵意を 持った者が近づくと、赤く 光る 時計。
あれって、光魔法の 魔道具でしょ。
「・・・。
小さなことは、気にするでない。
ここ 10年ほど、誰も、気づいておらぬ。」
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いや、めっちゃ 目立つ場所に ありますけど?
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ドイツ語で、野ばらを歌える人は、
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蛇足1.
「魔王レオホルト・フォン・ゾマライト」
レオポルド・フォン・ゾマライトナーさんは、音楽を愛好する法律家。
フランツ・ペーター・シューベルトさんのお友達です。
シューベルトの作品には、いろいろな歌曲がありますよね。
野ばら、ます、アヴェ・マリア、死と乙女、子守歌 。
その中で、ゲーテの詩から、曲を作ったものがあります。
魔王ですね。
ただ、ゲーテ本人は、シューベルトの作品を最初期は、嫌っていました。
そして、シューベルトは、自費でこれを出版するにも、お金がありませんでした。
また、出版社は誰も相手にしてくれません。
と、言うことで、出版できませんでした。
とっても困っていたシューベルトさん。
その窮状に、手を差し伸べた人がいます。
それが、ゾマライトナーさん。
この出版譜に、お金を出して助けました。
今も昔も、音楽は、お金がかかるものなんですね。
蛇足2.
「医聖チョウキ」
張璣は、卑弥呼のちょっと前の時代の、中国荊州の人。
190年代~220年代にかけて長沙太守を務めたそうです。
208年が、レッドクリフ「赤壁の戦いー三国志の前半のクライマックス」ですので、その後の荊州争奪戦には、多少は、関係してそうな気がしますが、どうなんでしょうか。
ただし、この人が有名なのは、政治家としてではなく、医学の方面ですね。
現代でも使われる漢方の「傷寒雑病論」を編した人として知られます。
葛根湯とか普通に使いますね。
このあと、蛇足3.
「杉と ヒノキの花粉は、今日も 良く飛んでおるな。
今年は、去年の1.5倍・・・
を書こうとしましたが、途中で飽きたので中止しました。