2-12. 【挿話】 ウエンディの独白 7
「1度だけでいい。娘に、会いたい。」
同じようなセリフ。
こんな場所で 聞くとは 思わなかった。
あれは、イアンと 一緒に見に行った 舞台。
ロマンチックで、素敵なデートだった。
でも、今は そんな雰囲気もない。
ピリピリとした 空気。
口元に 運んでいたカップを、ソーサーに 置く手が震えた。
コトリと、紅茶が 音を立てる。
「娘に、会いたい。」
もう一度、ピーターは、言った。
[美容師の娘] 【 2-12. あいたい 】
私たちは、なんとか 平穏に 過ごしていた。
美容院は、順調。
予約制に したことも、人気に 拍車をかけた。
アリーも、元気に 育っている。
しかし、イアンの 様子が、少し おかしい。
何かに 悩んでいるような、そんな 顔をする。
「イアン、どうしたの?
最近、とくにおかしいわ。」
あまりに イアンの様子がおかしくなったことに 耐えきれず、
アリーを 寝かしつけてから、彼に 尋ねた。
「ウェンディ。
どう 説明したらいいのだろうか。
ガネッセに、あの男に ついて調べさせた。
西に、移住しないか?」
イアンは、語り始めた。
大司教、ピーター・フォン・アナリゼラ。
その年齢は、80を超えることで 間違いがないらしい。
ホームカンシ教において、教祖ケニオンの 次席。
在位は40年を超え、地位は、実質のトップ。
年を取る気配がなく、若さを保つ 神の御子呼ばれ、
神の慈愛によって、人間の 良心を正すものと 言われる。
「徳と聖性を示し、尊敬を 集めているが・・・。」
ほぼ7年に1人ほど娶る 下妻。
そして、その 子供たち。
これらの者が、全て 行方不明と なっているのだ。
「貴族の血を引く 妻で、天界の妻とされる者は、
1名、天寿を全うしている。
問題は、下妻とその子だ。」
正妻は、合計3名。
こちらは、時期が 重なっていることはない。
2名は、既に亡くなっており、3人目は 現在の正妻。
「アリーは、あの男の 子供だね。」
イアンが、アリーの 父の身元を 聞いてくることは、
これまで 一度も なかった。
わたしは、彼の目を見つめ、小さくうなずいた。
「下妻となった者は、全て行方不明。
その子供も、全て行方不明。
ウェンディ。
あの男は、危険だと思う。」
西へ・・・。
私は、即答 できなかった。
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革袋と 引き換えに、金色のプレートを 受け取る。
その日も面会は、神殿の奥の ピーターの部屋であった。
いつものように、署名を 済ませる。
金のプレートは、箱に 吸い込まれた。
ピーターと 会話をしていると、話がスグに 途切れてしまう。
どうしても、会話の 回答を 考えてしまうのだ。
これは、問題の 起こらない 回答か どうか?と・・・。
テーブルの上の 紅茶は、その間を つなぐ アイテムになる。
飲むわけではないの だけれど、口をつける。
その時も、私は、カップに口をつけたところだった。
「ウェンディ。
1つお願いが あるのだが、いいかな?」
「どうなされましたか?」
ピーターの声に、不安を 隠しながら答える。
「1度だけでいい。娘に、会いたい。
娘に、会いたい。
いや。そうではない。
君の子供に 会うことはできないだろうか?」
「え?」
「私の子供とは言わない。
一目でいい。君の子供に 会うことはできないだろうか?」
もしかして、これまでのことは、子供に 会いたかったから・・・。
ピーターの望みが、わかった気がした。
彼の親切は、アリーに 会いたかったからなのだろう。
1度だけなら、会わせて あげてもいいかもしれない。
この面会も、止めることが 出来るかもしれない。
「連れてくるか どうかは分かりません。
しかし、娘が、参りたいと申しましたら、1度だけ
連れてまいりましょう。」
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ピーターは、うれしそうに 笑った。
「ありがとう。ウェンディ。」
私は、そっと席を立った。
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昨日は、39の日。ありがとうっていっぱい言った人は、
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