【閑話】パンケーキとメープルシロップの危険な香り
春は、あヶぼの。
ひつじ雲が小さく揺れるあたたかな朝。
花粉をまき散らす暖かい風は、どこか甘く、少しだけ危険な匂いがした。
少なくとも、朝からフライパンで三段重ねのパンケーキを片手に為替チャートを睨んでいるアリーにとって、春の風とは、そういうものだった。
「帝国$ダラーって、上がる気しかしないんだけど?」
そう言いながら、メープルシロップが飛び散るのにも構わずに、フォークに刺さったパンケーキをくるくる回しながら画面をタップした。
王立飛翔師学院は、卒業したばかり。
進学も就職もせず、トレーダーという肩書きを名乗っている。
無謀だと笑われるところではあったが、彼女の場合、少し事情が違う。
アリーには、切り札があったのだ。
「昨日の帝国の雇用統計、数字が強かったからなぁ・・・あっ、でも、逆に下がるパターンもある?いや、うーん・・・」
悩んだ末に彼女が取った行動・・・それこそが、アリーをトレーダーとならしめていた。
さっと、おなかの四次元ポケットから新しいお皿を1枚取り出すと、パンケーキを1枚お皿に乗せる。
そうして・・・そのパンケーキを、ボヨォォンと、宙に放り投げたのである。
「表が出たら、めいっぱいロングっ!裏なら様子見!!!」
ぺしっ、と見事に皿の上に着地したそれを見て、彼女は目を輝かせた。
「表!よし、全力ロング!」
* !間違っていても、私は、知りません!
* ロング
* ロングは、通貨を買いから始める取引のこと
* 購入する通貨の為替レートが上昇すると予想し
* 安く買い高く売ることで、差額を利益として狙う
ためらいはなかった。
証拠金を限界まで使って、王国¥エーンを売り、帝国$ダラーを買いに走る。
彼女が、普通のトレーダーなら、テクニカル分析だ、ファンダメンタルズだと何やら小難しいことを言いながら取引をする。
しかし、アリーは、違う。
コイントス、くじ引き、占い・・・特に「朝のテレビの星座占い」は、貴重な判断材料。
にもかかわらず・・・いや、だからこそと言うべきか。
彼女は、ここ数ヶ月、驚異的な勝率を叩き出していた。
「よーし、上がれ~上がれ~上がれ~!」
アリーは、モニターの為替チャート画面に向かって手を振り続ける。
そうすれば、思い通りに為替レートが動くかのように。
その瞬間であった。
相場が、本当に上がり始めた。
「えっ、マジっぃ!?すごくない!?私すごくない!?」
自分で自分をほめ、パチパチパチと拍手を送る。
王国¥エーン-帝国$ダラーの相場は動き続け、アリーが購入した帝国$は、じわじわと、しかし確実に上昇していく。
そうして、数十分後には、彼女の口元は緩みっぱなしの状態となった。
「これ、10億いくんじゃない?いや、もうちょっと動けば20億かな?!?え、天才?」
皿の上のパンケーキは、すっかり冷めていたが、もはやそんなことはどうでもよかった。
彼女の目には、増え続ける数字しか映らない。
運命の針は、大きく動き始めた。
★ ★ ★
昼過ぎになると、アリーの口座残高は、明らかに異様な数字を示していた。
「わぁぁ、ちょっと待って・・・これ、ほんとに私の口座?」
朝の資金の500倍を超える金額。
普通に働いたならば10年20年単位で得るような利益が、わずか数時間で積み上がっているのだ。
理由は単純だった。
「まだ上がるでしょ、これ。だって、パンケーキが、ずっと表だったし♪」
はたから見れば、意味不明な根拠を堂々とつぶやきながら、ポジションを握り続ける。
さらに、ここで彼女は、とんでもない行動に出た。
「よし、追撃だ!」
追加で買い増し。
しかも、ロットを倍にする。
「だって、流れが来てるもん!」
流れ、という言葉ほど、危険なにおいがする言葉はない。
しかし、彼女はそれを、まるで確定した未来のように信じていた。
そして相場は、その期待に応えるかのように、さらに上昇した。
「うわぁぁぁぃ!増えてる!増えてる!増えてる!」
彼女は立ち上がり、部屋の中をぐるぐると回りながら、意味不明のステップを踏みダンスを踊り始めた。
椅子にぶつかり、クッションを蹴飛ばし、タンスに小指をぶつけ、それでも笑いが止まらない。
「これ、もう人生クリアじゃない?働かなくていいやつ!」
16歳にして、早くも人生のゴールを見た気持ちでいる。
そしてその瞬間、彼女はある決断を下した。
「リアル人生ゲームクリアの記念に・・・もっと行くか!」
通常の人間なら、このあたりで、利益を確定する。
しかし、彼女は逆だった。
「こんなチャンス、二度とないかもだし!」
念のために、フルーク王国金貨をトスしてみるが、結果は表!
アリーを止めるものは、もはや存在しなかった。
全資金をさらに突っ込み、最大レバレッジに近い状態へ。
だが、その賭けの結果は、勝利であった。
利益は、どんどん積み上がり、ついには、アリーの人生で見たこともない額に到達する。
「うそぉ、うそでしょ♪」
アリーは、ついに不思議な踊りの足を止め、その場にへたり込んだ。
モニター画面を指さす手が、震える。
「これ、ホントに、私が今日稼いだの?」
数字は、軽く100億を超えていた。
たった一日で。
パンケーキとコイントスだけで。
「やばい♪天才すぎる~。」
アリーは、涙ぐみながら笑った。
その笑顔は、これから訪れる展開をまだ知らない、無垢で純粋で危うい香りをまとうものだった。
★ ★ ★
部屋の窓から差し込む陽光は、まばゆいオレンジ色。
そして、アリーの頭の中は、桜色であった。
アリーは、勝者を象徴するような姿勢で人をだめにする寝心地の良いソファに転がっていた。
「ふふ・・・焼肉かなぁ?お寿司もいいなぁ・・・」
モニター画面上の数字は、依然として大きな額が示されていた。
相場は、やや横ばいになっていたが、上昇は続いている。
「このまま持ってれば、もっと行くでしょ!」
彼女は、ふと気づいて、SNSを開いた。
『今日の私、神すぎない?』
そう投稿しようとして、手を止めた。
「いや、まだ頂点じゃないよね?目いっぱい行ってからツイーというか、ポス・・・しないと逆にかっこ悪くない?」
そのまま、モニターから目を切り、ソファーにごろんと転がる。
チャートも確認せずに。
クワックワッ!
「・・・ん?」
アリーが違和感に気づいて目を覚ましたのは、それから、ほんの数十分後のこと。
そして、違和感の正体は、アヒルの鳴き声であった。
クワックワッ!
「う・・うううぅ・・・タンパク質は、自分で獲ってこいって言ったけれども、生きたままはやめてっ!むにゃむにゃ・・・」
愛犬のパトに、寝言で注意するも、その鳴き声は止まらない。
クワックワッ! クワックワッ!
「うるさぃっ!」
クッションを壁に投げつけるように飛び起きたアリーは、きょろきょろと鳴き声の元であるアヒルの姿を探すが、鳥の姿は、どこにも見つからない。
クワックワッ! クワックワッ! クワックワッ!
代わりに声をあげていたのは、テーブルの上に無造作に放り出されているモニター画面であった。
「えっ?何?こんな音、聞いたことがないけど・・・」
『ポーン!メールを受信しました!ポーン!メールを受信しました!』
とりあえず、画面に触れるとアヒルの鳴き声は消えたものの、次にやってきたのは、大量のメールを受信したというお知らせっ!
[【重要】マージンコール]
[【重要】マージンコール]
[【重要】証拠金不足のお知らせ]
[【重要】マージンコール]
[【重要】証拠金不足のお知らせ]
[【重要】証拠金不足のお知らせ]
[【重要】証拠金不足のお知らせ]
[【重要】マージンコール]
[【重要】証拠金不足のお知らせ]
[【重要】証拠金不足のお知らせ]
[【重要】ロスカットのお知らせ]
[【重要】ロスカットのお知らせ]
[【重要】強制決済のお知らせ]
[【重要】ロスカットのお知らせ]
[【重要】強制決済のお知らせ]
[【重要】強制決済のお知らせ]
[【重要】強制決済のお知らせ]
「えっ・・・」
慌てて、モニターの為替チャートを確認する。
見れば、さっきまで上げていたことがうそのように、今度は、明らかに下方向へ急激にダウンしている。
「ちょっとっ、さっきまで上がってたじゃん!いやいや、押し目だったでしょ・・・」
夜。
部屋の空気は重く、静まり返っていた。
アリーは、かたく冷たい木の椅子に座り、ただモニター画面を見つめていた。
そこに映る数字・・・
「嘘だよね、ねぇ、嘘って言って・・・」
利益は、ほぼ消えていた。
いや、それどころか・・・
「す~んごいマイナス?」
気づいたときには、大きな損失を抱えていた。
「なんで、なんで!?」
何度も、チャートを更新する。
しかし、現実は変わらない。
理解が追いつかない。
ついさっきまで、すぐ目の前にあったはずの利益。
夢のようなハッピーな未来。
すべてが、消えてしまったのだ。
元の資金すら、ほとんど残っていない。
「は・・ははは・・・」
乾いた笑いが、口の端から漏れる。
「最後のパンケーキ、裏だったのかな・・・」
誰もいない部屋の端っこで、アリーは、ポツリとつぶやいた。
★ ★ ★
翌朝。
キッチンには、ブンブンとフライパンを振る音が、響いていた。
「よしっ!今日は、フレンチトーストでいこう。」
アリーは、真剣な顔で卵液にパンを浸す。
その横には、モニター。
チャートは、今日も動いている。
「昨日は、まぁ、表と裏を見間違えたってことで!」
立ち直りは、驚くほど早かった。
「次、勝てばいいし!」
そう言って、パンをフライパンに乗せる。
ジューという音と、香ばしい匂い。
その音に合わせて踊りながら、アリーは、つぶやいた。
「表ならショート、裏ならロング!」
ぴょっぉぉぉんとフライパンから飛び上がるフレンチトーストは、くるくると回転し、テーブルの上のお皿に着地した。
それを横目で見たアリーは、ニヤリと笑い、相場の世界へと飛び込んでいく。
昨日と同じように、いや、昨日以上に果敢に!そして、無謀に!!
「よーし、今日も、目一杯いくよっ!」
モニターの画面に集中するアリーは気づかない。
机の上に、1枚のメモ用紙があることに。
無造作に置かれたメモ。
そこには、こう書かれていた。
『夢も大事、でも、利確はもっと大事!』
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机の上に目もくれず、アリーは、笑いながら画面をタップする。
世界一危なっかしいトレーダーは、今日も元気に市場と戦っているのだ。
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今日、嘘を100個以上ついた人は、高評価を押して次の話へ⇒
【蛇足0】えいぷりるふーる♪
今日、投稿する予定のお話が、今の時点で全部、書き終わっており、予約投稿まで完了していて嬉しいです。(でも、大丈夫です。23時59分までは、今日ですから!)
【蛇足1】円は、ドルに対して・・・
原油が高くなるので、ドル決済をすれば、円が出て行って円安になるのは、普通なのですが、そこが落ち着いても、円は、ドルに対して安い状態が続きそうな気がします。
戦争の動きやそれに伴う周辺状況、金利差の縮小、介入の雰囲気など、その時その時の変動で、ドルが安くなり円が高くなることは、あると思いますし、荒くて大きい動きの円高や円安というのも、どちらも起こり得ると思います。
でも、基本は、円安方向の気がします。
だって、対米投資を約束したのですから。
対米投資の原資が「米国債を売り払ってそのお金を投資に振り分ける」なら話は別ですが、日本円を売ってドルに換えて、アメリカに兆単位で継続投資するなら、円がドルに対して高くなる可能性は、かなり少なくなりそうです。そう考えると、少なくとも約束した内容をを継続する数年は、どうしても、円安の状況のままであるイメージになってしまいます。
【蛇足2】備蓄タンクの原油は、誰の物?
日本の原油タンクには、戦略備蓄用の原油も置いてあります。それって、誰の物でしょう?
民間が、101日分・・・民間備蓄は、民間企業の備蓄で、石油元売さんが持っているものですよね。これって、エネオスさんと出光さんとコスモさんと太陽さんの在庫が3か月ちょっとありますよってお話になりそうです。
国家備蓄が、146日分・・・1か月ぶん放出されましたから110日分に減りますよね。
産油国共同備蓄が、7日分・・・えっ?共同備蓄ってなんですか?これ、サウジさんと日本、UAEさんと日本で、共同で持っている備蓄ですね。ってことは、所有権は、半分半分って考えて3.5日分が日本で3.5日分がサウジさんUAEさんの持ち分。
って考えると、3か月経過して状況が変わってなければ、民間在庫は、なんとか輸送が出来た量だけに減りかねず、放出していないはずなのに民間備蓄が目減りしている?ように見えるってことにならないか心配ですね。
そう考えると、ガソリン補助をやめてちょっとでも使用量を減らした方がいいという主張が、嫌だけど、そうした方がいいかも・・・って思わされなくもないです。
【蛇足3】いつ終わるの?
長くても、中間選挙の活動に入る前に終わって欲しいけれども・・・
アメリカのエンドポイントが、埋まっている原油の利権だった場合、原油施設の集まるカーグ島と、防衛拠点のララク島、ホルムズ島、大トンブ島、小トンブ島、アブムサ島、ヘンガム島、ケシュム島を押さえる必要があるので、陸上部隊が必要。その占拠に成功した場合は、イランが怒って機雷を設置する可能性が高く、どのみち、船・・・タンカーは、海峡を通過することが出来ない・・・そこそこ詰んでいませんか?これ・・・しかも、大トンブ島、小トンブ島、アブムサ島は、UAEが「わが国固有の領土」って言っている場所なので、どっちの領有権を認めるか、選ぶ必要が・・・機雷除去は、得意なので、掃海艇くらいの派遣は、やるべきでしょうけど、他は、あまりに面倒すぎて関わりたくない気がします。あっ、我が国固有の領土とは、言ってなかったですね。我が国の領土でした。
【蛇足4】エイプリルフール♪
今日は、エイプリルフールなので、書いてあることは、きっと嘘♪
安心ですね♪




