3-68. ジャックマールくん
一体の自動制御の人形「オートマタ」が、剣舞を舞う。
そこは、かつて職人たちの手によって鉄と炎と技が語り合っていた部屋。
陽の光が高い窓から差し込み、木の床の上に斜めの光の帯を落としている。
普段なら、そこは、道具も埃も影を潜め、静謐な空気だけが満ちていたはずであった。
しかし、今、その部屋に居る人間は、少女2人。
剣舞を舞う「オートマタ」の隣で飛び交う2人の声は、「静謐さって何?それ、おいしいの?」といわんがばかりのものであった。
「アリー、そんなことよりも、この『オートマタ』よ。」
「だから、かわいいでしょ?」
「ちっがぁぁう!『こんなモノ』王都に持って行くつもりじゃないでしょうね?」
「ライリューンっ、失礼すぎる!こんなにジャックマールくんは、かわいいんだよ!『こんなモノ』って何よ。こんなモノって!!」
「アリー、よく聞いて。こんな規格外に高性能で、まるで、人みたいに動く人形を、王都に持ち込んだら、どんなことになるか分かるよね?」
「えーと・・かわいいから、大人気?」
「アリーの、あほぉぉぉ。」
[美容師の娘] 【 3-67. お蔵入り】
「あんたは、おバカちゃんかっ!こんなの持って行ったら、すごい騒動になるに決まってるでしょ。大体、どこであっても自在に出せる剣と盾を持っていて命令通り動くことが出来るって、王宮に持ち込んだら、要人の暗殺を考えているって疑われても、おかしくないわよっ。」
「ライリューン、間違ってるわ。自在に出せるのは、剣と盾だけじゃなくて、槍とか、弓とか、他にも魔法属性を持ったいろんな武器防具が出せるわっ。それにね!ジャックマールくんは、命令通り動くんじゃなくて、自分で考えて動くこともできるすごい子なんだよ!!」
「余計に、たちが悪いっ!それだと、この子を量産すれば、大人数の有能な兵士を引き連れているようなものじゃない。軍隊よ、軍隊っ。暗殺じゃなくて、反乱を疑われるわよ!!」
「ううぅ・・・ジャックマールくんは、いい子なのにぃ!」
「いい?アリー、この子は、お蔵入りねっ。」
「えぇ、それは、だめぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「本当は、分かってるでしょ。さすがにコレは、やりすぎてるってことが。こんなモノ、ナカヨシ教授を除いたら、作ることが出来る人は、他にいないわ。」
「じゃ、ナカヨシが、作ったことにしよう。」
「ナカヨシ教授が、作ったとしても、ダメっ!アウト。あのね、こんなの見せたら、仮に反乱を疑われなくとも、良からぬことを考える人は、絶対に居るわっ。分かるでしょ?あまりに高性能すぎて、世に出せないの。」
「じゃぁ、どうするのよ。アレックスに頼まれたの。『かわいいオートマタを作って欲しい』って・・・このままじゃ、アレックスのお願いにこたえられないっ。」
「違うっ。違うわ、アリー。アレクサンドロス殿下の依頼は、『セミノボヨの町から、鐘打ちを連れて帰る』ことよ。必要なのは、病気で足りなくなった王都の鐘打ちの補充っ!自動制御人形『オートマタ』の製作じゃないわ。」
「うーん。そう言われれば、そうだけど・・・鐘打ちのマニノフラさん、なんか逃げちゃったじゃん。だったら、代わりになるのは、ジャックマールくんしか居ないもん。」
「ううん。そんなことないっ。」
そこまで言って、一息ついたライリューンは、自身の作ったライリューン印の『からくり仕掛けの鐘打ち人形』の頭を、トンっと軽く叩いた。
「これを、アリーが作ったって言って、持って行けばいいわ。決まった時刻に鐘を打つだけなら、この人形で十分だもの。」
「あっ、そっかぁ・・でも、ライリューンが作ったって言えばいいんじゃないの?わたしが作ったことにする必要は、ないんじゃない?」
「うーん・・・そうねぇ・・これって、課題みたいなものじゃないかなって思うの。私も、キョーカミトバ州に行ってすぐ、結婚前・・・つまり、下妻になる最後の段階で、こんなのじゃないけれども、同じように秘密の課題を出されたんだ。アリーの言う王子からのお願いが、その試験である可能性を考えたら、念のために、アリーが作ったことにしておいた方がいいと思う。」
病気で足りなくなった「王都の鐘打ちの補充」が、「アレックスから出された課題である」というライリューンの言う話の意味が、良く分からないし、たとえ、課題であったとしても、『鐘打ち人形』をライリューンが作ったかどうかが、問題になるとは思えない。
だって、どっちにしろ「鐘打ちを連れて来る」ことには、失敗してるし、「鐘打ちを連れて来る」代わりに「『鐘打ち人形』を持って帰る」ことには、成功しているのだから。
しかし、必死の形相で訴える彼女の言葉には、心が少し動かされた。
「分かったわよ。じゃ、ライリューンの『鐘打ち人形』を、私が作ったことにして、アレックスの所に持って行くよ。」
そうして、自身が作った『オートマタ』を見つめながら、小さな声でつぶやくように告げた。
「ジャックマールくん、もういいわ。剣と盾を片付けて奥の部屋で休んでちょうだい。」
その瞬間、剣舞を踊る『オートマタ』の手の剣と盾が形を失った。
さらさらと砂のように崩れ、そのまま『オートマタ』の中へと吸い込まれたのだ。
舞をやめたその自動制御人形は、感情を外に出すことも無く、ただ、ゆっくりとその部屋を退場する。
奥の部屋への扉は、半開きになっており、人形がこれをするりとすり抜けると、扉は、パタンという音を立てて閉まった。
「アリー、じゃ、帰ろうか。やるべきことは、全て終わったし。」
「そうね。今回は、こそこそと空を飛んで帰るようなことはせずに、馬車を用意するわ。表から堂々と帰るのよ!あっ、今度こそ、ライリューンは、休んでてね。お腹に赤ちゃんがいるのに、ホント無茶しすぎよ。」
「ちょっと、夢中になっちゃっただけよ。あっ『オートマタ』・・・あの人形をここに置いてっちゃダメよ。ちゃんと、アリーが、管理して、情報が外に漏れないようにするのは、忘れないでね。」
子供に注意をする母親のように付け加えたライリューンに、その人形が姿を消した奥の扉を見ながら、アリーは、小さな声で答えた。
「うん。仕方ないね。パトとラッシュとチビの遊び相手にするよ。まあ、いつか・・・世界が追いついてきたら、お外に出してあげよう。」
「えーと・・さすがに追いつく日は、一生、来ない気がする。」
「いや、それ、かわいそすぎでしょ。」
「まぁ、今、考えることじゃないわ。荷物の用意をしましょ。」
「だ~か~らっ、動くなっ!休めっ!わたしが用意するからぁ。」
「はい、はい。じゃ、お任せして、身重な美女は、先に宿に戻って休んでますぅ。」
「ここ片付けたら、すぐ戻るよ。じゃねっ。」
パタリと工房のドアを閉め、ライリューンは、宿へと戻り、そうして、アリーは、これでもか!と広げ散らかした工房の室内を、せっせと片付け始める。
ゴミのような金属板と、書きなぐられた資料。
床には、赤、青、黄、白・・・使われることなく放り出され転がるコアストーン。
そのひとつひとつが、ポイポイと無造作に大きなお片付け箱に放り込まれていくのであった。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
アリーによって自動制御人形『オートマタ』が作られた工房の奥の部屋。
床置きされ、きらきらと光を放つ不思議な金属で出来たその箱は、アリーによって厳重なセキュリティがかけられていた。
自動制御人形は、静かに眠る。
ふたを閉められた箱の中、人形の胸のインジケーターランプが、ただひとつだけほんのり青く灯り点滅する他には、何も動くものは無い。
やがて、帰りの馬車が到着すると、ボックスは、無造作に馬車に放り込まれ、そして、2人の少女によって上からどんどんと荷物をのせられ、下へ下へと埋ずもれていく。
「パト、ラッシュ、チビっ!じゃ、帰るよー。王都に向かって出発進行ぉー!」
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こうして、2人の少女と3匹の犬が乗り込んだ馬車は、ゆっくりと自治都市セミノボヨから離れていくのであった。
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夕日が山肌を照らすとても美しい景色・・・夕日に照る山紅葉…。中学校の時、同級生にテルヤマ モミジさんとアオヤマ テルマさんがいた人は、高評価を押して次の話へ⇒
蛇足.今回の連続投稿の一連の蛇足は・・・
たぶん、かなり前に予約することになるはずです。
多少、現実世界と齟齬があるかもしれません。れません。
蛇足1.ルンバがあるなら使うべきだった・・・
あぁ、「アリーは、これでもか!と広げ散らかした工房の室内を、せっせと片付け始める。」って、こういう仕事こそ、自動制御人形「オートマタ」で片付ければいいのでは?って思いましたが、書き直すのめんどくさぁぁぁぁぁぁぁぁい!
蛇足2.アオヤマ テルマさん
2020年12月13日のあとがきが、前の話で再利用したリオネル・メッシさん。2020年12月15日 は、アオヤマ テルマさんでした。
そばにいるね。そばにいるね。そばにいるね。そばにいるね。そばにいるね・・・すごく、おそばが食べたくなりました。
蛇足3.凋落
たぶん、特許の数や論文引用で、他国に負け始めると、その国の凋落が始まるんでしょうね。そういう部分から考えても、留学生を追い出すのは、悪手のような気がします。でも、はーばーどの中國出身留学生の割合は、他の大学に比べて高く、だいたい20~30%と言われていること。大学運営の資金源であり、大学の年間運営予算の30%以上を占める収益を上げているはーばーど大学基金が、OB他からの寄付金を主な財源としたファンドであることを考えると、2008年のリーマンショック以降の多くの寄付金の出所が、どこか出てきているか?という部分が気になります。
そこらへんを分断して一定の線を引こうという方針の一貫性は、一応あるのかも・・・とも思わされます。(多少無理がありますが、反ゆだや主義うんぬんは、口実ということで・・・考察しましょう)
これらを考えた結果・・・留学生の大きな制限は、はい。悪手だと思います。