1-23. 【挿話】イアンの独白2 - 冒険者イアン ③ -
アリーも 大きくなった。
抱っこする のが、少し 苦しくなってきた と思う。
私の 手には、昔から シビレの症状が ある。
ウェンディの 薬湯で、良くなってきているが、時々、ツラさを 感じる。
私が、重そうな そぶりをすると、アリーが不安そうな 顔をする。
この 優しさは、さすがに 女の子だな。
シビれた左腕を さすりながら、私は、思った。
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[美容師の娘] 【 1-23. 王都へ 】
レッサーパンジーは、やっかいな 植物の魔物と される。
しかし、サリバーンと 私であれば、ある程度、対処できるはずの 魔物だ。
その日の サリバーンは、機嫌が良く イキイキとしていた。
「久しぶりの 魔物だ。
レッサーパンジーの討伐が 入ったぞ。」
植物採取に、害獣駆除。
この2つが、冒険者にとって メインの依頼だ。
私にとっては、冒険者の生活は、
どれも目新しく、1つ1つの 依頼が 興味深いものであった。
しかし、サリバーンにとっては、
同じことの 繰り返しで 退屈なもの であったようだ。
もしかすると、私とパーティを組んだのも、飽いた 冒険者生活に
目新しさ、面白さを 加えるためだったのかもしれない。
私という スパイスは、彼にとって
薬で あったのだろうか、毒で あったのだろうか。
魔物討伐 依頼は、めったに 入らない。
そもそも、人里近くに 大量に発生することは 珍しいものであるし、
大量発生が 起これば、領軍が 対応する。
冒険者が 対応するのは、
人里近くに 少ない魔物があらわれ、害を 及ぼした場合 だけだ。
そうして、このような 面白い依頼は、
本来、私のような 低級の冒険者では、受注できない。
高位の冒険者 サリバーンだからこそ、受けられる 依頼だ。
まぁ、面白いを、危険度が高いと 読みかえれば、当たり前のこと だろう。
さっそく、私たちは、依頼のあった オオスーギルフ村に 向かった。
レッサーパンジーは、森の奥に 発生する 魔物だ。
おかしなことに、その魔物が、村の畑に 花を 咲かせたらしい。
レッサーパンジー自体は、防御力が強いが、攻撃力は弱い 普通の魔物だ。
問題は、その 匂いにある。
レッサーパンジーの 発する 匂いは、人間に とっては 毒性が あるのだ。
深く 吸い込むと、麻痺や 痙攣を 起こす。
私たちが 村に 到着した時に、対応したのは 女性であった。
これは、レッサーパンジーの 発する匂いの もう一つの特徴が 理由である。
恐ろしいことに、男が、匂いの粒子を 長期にわたり 吸い込み続けると、
男性としての その機能を 失ってしまう といわれているのだ。
数日なら 問題ないが、1週間以上、匂いの粒子を 吸い込んでは、
さすがに もういけない。
男たちは、毒を 恐れて 避難してしまい、
村には、女性しか 残っていない というわけだった。
案内役の 女性が 言う。
「昔、薬師が 訪れた際に、使っていた 村はずれの 小屋の 畑です。
村長が 居れば、詳しいことが 分かるのですが・・・。」
どうやら、薬師が 村に訪れた際に、なにかの 実験をしていたらしい。
森の奥の 魔物が、村の畑に 花を咲かせたのは、このためのようだ。
レッサーパンジーは、やっかいだが、対処できる 魔物だと 先に 述べた。
これは、私の魔法の 特性によることが 大きい。
人間にとって 毒性がある 花だが、魔物や 獣にとっては、そうではない。
匂いの 粒子が、魔物や 獣を呼び寄せる 誘引物質になるのだ。
花を 駆除しようとすると、呼び寄せられた、魔物や 獣に 攻撃される。
魔物や 獣に 対応しようとして、花を 放置すると、
粒子を 深く 吸い込んでしまい、麻痺や 痙攣を 起こす。
つまり、両方に 対処できなければ、討伐できない 魔物なのだ。
私たちの場合は、簡単だ。
私の 風魔法で、匂いの 粒子を 遮り、
呼び寄せられた、魔物や 獣は、サリバーンが 倒す。
その間に、私が 火魔法を使い、花を 焼き尽くす。
焼き尽くした あと、根を 掘り出し、それも 灰にする 必要は あるが、
花を 焼いた 段階で、ほぼ ミッションクリアと なる。
簡単そうに 聞こえるかもしれない。
しかし、私が使える威力で、
風魔法や 火魔法を使える 人間は、ほとんど いない。
ましてや 1人で、この2種類を この威力で、操る者は、
この辺境だけでなく、王国中 探しても 見つからないだろう。
そして、サリバーンだ。
誘引された 魔物や 獣は、非常に 凶暴で、恐らく 数が 多くなる。
どのような 魔物や 獣が、大量に来ても 対処できるほどの
冒険者となると、なかなか・・・。
おそらく 4級以上の 冒険者でないと 難しいだろう。
ということで、レッサーパンジーは、やっかいな 魔物だ。
しかし、レッサーパンジーは、簡単に 対処できるはず 魔物だ。
「あの、片眼のない 少年と、薬師が なにか 悪さを していたのです。
あんな男を 村に 入れなければ、
こんなことに ならなかったのに・・・。」
片眼のない 少年・・・。隻眼の 少年・・・。
ムサマ兄を 思い浮かべ、複雑な 思いになった。
この討伐に ついても、なんとなく 嫌な 気持ちと なったのだ。
サリバーンは、イキイキと していた。
彼は、火山口の淵で ダンスを 踊るような、
カオスの境目に つま先立ちで 立つような、
危険と 隣り合わせの 場所ほど、機嫌が 良い。
「イアン、緊張しているのか?
ボクは、君が 花に 食べられようとも、何も しない。
自分の 仕事に 集中するからね。
と、言っても 花だけに、口ではないから、食べられることは ないか。
はははは。」
サリバーン 渾身の ジョーク だったようだが、
花と 鼻を かけていたことに 気づかなかった、私には、通じなかった。
朝日を 浴びながら、村はずれの 薬師の 小屋に 近づく。
なるほど、独特な 香りが あたりを 包んでいる。
なんだろう?
子供のころ 嗅いだことの あるような、芳香?
昔の 何かを 思い出す 香りであった。
「レッサーパンジーは、姿が 見える 位置まで、近寄ると、
匂いの 粒子を バラまき 始める。
そろそろ 準備を 始めてくれ。」
畑の花が 見えるように なる寸前、サリバーンから 声がかかる。
私は、両手に 魔力を こめた。
花だっ。
紫色の 巨大な レッサーパンジーの 花が、畑の真ん中に 咲いている。
私は、風魔法で、匂いの 粒子を 遮ぎり、その間に 2人で 花に近づく。
これは、すごい。
まるで 花粉を 飛ばしている ようだ。
粒子が あたりに 飛び散り、視界の ほとんどを 包んだ。
「まずい。
レッサーパンジーの 亜種だ。
匂いの 粒子の量が 半端じゃない。」
どこに このような数が 居たのだろう?
いつの間にか、トキニホン ウルフの 群れが 私たちを 囲んでいた。
「これは、多すぎだっ。
すぐに焼け。あの花に、火魔法だっ。
風魔法は、もういい。
粒子は、少し吸い込むだけなら、何も 起こらない。
それよりも、他の 魔物や 獣が来たら 私では 対応できない。
これ以上、粒子を 飛ばさせるな。」
サリバーンの 指示に 従う。
風魔法を 止め、手に 火球を 作り・・・
突然の 痙攣が 私を 襲った。
手も しびれる。
少し 吸い込むだけなら、何も 起こらないのでは なかったのか?
「何を しているっ。動けっ。」
サリバーンは、何とも ないようだ。
普通に トキニホン ウルフを 剣で 薙ぎ払っている。
私だけが、痙攣し、私だけが、倒れる。
ウルフは、手ごわい サリバーンではなく、動かない 私に 襲い掛かる。
「この バカがっ」
ボフッ!!!
腹部に 衝撃を 受ける。
私は、3メートルほど 宙に浮き、吹き飛ばされた。
そして、少し 転がった。
サリバーンが 私の腹を 蹴り飛ばし、ウルフから 逃したのだ。
息が できる。
戦いの中、初めて 呼吸をした 気分であった。
小屋の 陰は、匂いの 粒子が 届いていないのだ。
顔を 上げる。
サリバーンの 喉が、赤い。
その喉に、肉は 無い。
うつろな目をした サリバーンは、こちらを 向いている。
2匹の ウルフが 腕の骨を 奪いあい、
太ももと ふくらはぎは、数匹が 食いついている。
もう、彼の口から、笑えない ジョークが、飛び出ることは ない。
私の 足の痙攣は、止まっていた。
蹴られた 衝撃で、しゃっくりが 止まるように 症状が 消えたようだ。
ただ、手と 足に 麻痺が 残ってはいる。
この手足では、レッサーパンジーを 退治するどころか、
ウルフから 逃がれるのも 難しい。
ウルフは、サリバーンを喰らっているが、
彼の体ひとつでは、あの獣が 満腹になることは ないだろう。
目の前に 転がるエサが なくなれば、次は、私の番だ。
相手を 攻撃するにも、匂いの 粒子に対し、私の 耐性は、低い。
一息 吸い込んでしまった だけで、痙攣し 倒れこんで しまったのだから。
サリバーンは、動けていた。
いったい、私と サリバーンの 何が 違ったのだろう。
1匹の ウルフが こちらを 見た。
目が 合う。
まずい。
近くの 地面に 風魔法を ぶつける。
直接、ウルフを 狙うと、風の刃を 外した時に、食いつかれる。
地面を掘り、土砂を 飛ばして、こちらと 距離を 取らせるのだ。
ひゅるぅん ボンッドサッ
風魔法を 使うたびに 体が ふわんふわん と 浮く。
ん?これを、使えないか?
思いついた 私は、風魔法を 強く 真下に放った。
ぶおん と 体が浮く。
風の力を そのまま強く維持する。
微調整は 苦手だ。
一気に10m・・・。 少し 恐ろしいくらいの 高さ。
腕と 体の間に 水魔法で 泡の膜を張る。
わき から 手の先まで。
腰のあたりから わき まで。
鳥の足の 水かきのように ▽ 膜が 両側に 2個できた。
両手を 広げ、膜を広げ、風魔法を 強く 吹き付ける。
今度は 下から 持ち上げるように。
やった。自由に飛べる。。
地面を 見ると ウルフが 見上げている。
この高さ までは、粒子も 届かない。
ヘドファン伯爵家の 血脈には、飛翔魔法を 使えるものが 時折あらわれる。
どうやら、私も その一人で あったようだ。
空中で、風を 制御する。
くるくると 形を作って 舞う刃の風は、やがて その渦を 大きくした。
そのまま レッサーパンジーに 向かって 刃の竜巻を ぶつける。
左手の 5本の指に 制御される 竜巻の渦は、花に 向かい 一直線に進む。
反対側、右手の 親指、人差し指、中指で、小さな 火球を 作る。
右手を、左手に 近づける。
火球は、竜巻の渦に 吸い込まれ、花に 向かって 突き進んだ。
火炎旋風が、レッサーパンジーを 包み込む。
そのまま、炎の 竜巻の 渦を、大きく する。
左手 だけでは、制御不能だ。
右手 を 添える。
レッサーパンジーを 焼き尽くし、トキニホン ウルフを 生きたまま 焼く。
肉の焼ける いやな臭いがし、犬のような 鳴き声が あたりに 響く。
眼下に、かつて サリバーンであった 体が、小さく 見えた。
私は、一瞬 目を閉じた。
そして、私を 教え導き、生かしてくれた その塊を、一気に 焼いた。
着地の時に ケガをしないよう、地面に 風魔法を ぶつけたた。
そのため、そこは、クレーター状に 陥没 した。
クレーターを、覗き込むのは、1人の女性。
村の 案内役だ。
目が 合った。
未だ、麻痺している、左足を 無理矢理動かし、クレーターを 登る。
女性が、手を 貸してくれた。
しかし、まだ 仕事が 残っている。
「避難している 男たちを 呼び戻して もらえないか?」
レッサーパンジーの 地上部は、焼き尽くした。
しかし、地下茎と 根は、そのまま なのだ。
掘り出して、これも 焼かなくては ならない。
男たちが 戻ってきたのは、夕刻であった。
すでに、私の 手足は 不自由なく動くようには なっていたが、
心も 体も 疲れ切っていた。
地下茎と 根の掘り出しを、村の男たちに 任せる。
その間に、私は、薬師の小屋を あらためることにした。
小屋の中の 棚には、怪しげな 小瓶と、植物の 根っこ。
机の上には、怪しげな 実験器具が 並んでいた。
この根は、レッサーパンジー だろう。
男たちが 掘り出した根と、小屋の根っこを 火魔法で 焼き尽くす。
新たに、この 魔物の花が、咲くことは ない。
これで、依頼は、完了である。
「冒険者さま、ありがとうございました。」
すべてが 解決してから、あらわれたのが、村長 であった。
私は、気になっていた 薬師について、村長に その 情報を 求めた。
10年ほど前、この村に 薬師が やって来たらしい。
村奥の 森の中の 魔物を材料に、
よく知られた薬を 作るために 移住してきた という。
片眼のない少年が、現れたのは、その数年後。
気品があり、よい生まれの 身分のある者に 見えたという。
彼らは、この小屋で 数年間 なにやら 実験を繰り返した。
そして、突然 いなくなったという。
村長が、薬師について 知ることは、この程度で あった。
しかし、村長は、さすがに、村長でだ。
私が、サリバーンと 比べて、匂いの粒子に対して 抵抗性が低く、
すぐに痙攣が 起こった原因を 説明できたのだ。
どうやら、1度、粒子を 大量に 体内に吸収したものが、
2回目に 粒子を 吸い込んだ場合に、強く 速く 症状が出る というのだ。
私は、レッサーパンジーと 遭遇するのは、初めてでは あったが、
強く、速く、痙攣と 麻痺の症状があらわれた。
おそらく、どこかで、粒子を 大量に摂取していた のであろう
ということであった。
私が、薬師の 小屋で見つけた 怪しい小瓶には、粉が 入っていた。
子供のころ 嗅いだことの あるような、香りであった。
そう、ナスにかぶりついて、倒れた時と 同じ匂い・・・
気品のある 隻眼の少年。
強くて速い、痙攣と 麻痺の 症状。
男性としての 機能を 失ってしまう レッサーパンジーの毒性。
なるほど、貴族の 後継争いには、もってこいの 毒である。
私は、以前に、粒子を 大量に 体内に 取り込んでいたのであろう。
村長に、依頼完了の サインをもらい、私は、村を 後にした。
サリバーンの 残した 荷物と ともに。
おっと、私に、新しい パートナーが 出来たことを 言い 忘れていた。
ラッシュと パトだ。
実は、村を 出た 直後、トキニホン ウルフの 子供を 2匹 見つけたのだ。
おそらくは、私が 殺した 群れの 子供であっただろう。
子犬のような 風貌で、人懐っこい 彼らは、
サリバーンを 失くした 私の心を 埋めた。
レッサーパンジーの 討伐依頼の 報酬は、かなりの 金額であった。
それに加え、子供がいない サリバーンが ギルドに 預けてあった金貨も、
身内と 見なされた 私のもの となった。
ある程度、自立して 生活するには、十分以上の 財産を 手に入れた。
王都に 向かおう。
冒険者として、もう 1段階水準を上げるには、環境を 変えるのが 必要だ。
と、いうのは言い訳であった。
私は、もう ムサマ兄の影響の残る 辺境には、居たくなかったのだ。
2匹の 仔狼を連れ、歩いて私は、旅に出た。
王都に 向かって。
*** **** *** *** **** ***
私は、雪の上に 倒れこんだ。
冷たい。
しかし、雪のクッションは、私を 優しく 包み込んだ。
痙攣が、定期的に 起こる。
足の麻痺の 症状は、慢性的で シビレがない時が 珍しい。
王都に来て、冒険者としての 依頼受注は、全く できていなかった。
金は、十分にある。
生活 には、まったく 困らない。
2匹の 仔狼も、そばに 居てくれる。
しかし、突発的に 起こる 痙攣と 麻痺が、私を 苦しめた。
雪に 包まれた 体が、冷えて ゆくのが 分かる。
眠い。
このまま 眠ってしまったら、どれだけ 気持ちいい ことか。
「ラッシュ、パト、私と 一緒に 居てくれる かい?」
私の顔を ペロペロと 舐めていた、ラッシュ、パトに 声をかける。
その時、小さな猫が 路地を走った。
ラッシュとパトが、顔を そちらに 向けた。
一気に 走り出す。
「おいおいおい・・・」
小さくなっていく 猫と、それを 追って消えてゆく 2匹の獣を 目が追う。
所詮、彼らは、狼だ。
あきらめ、視線を こちらに戻した。
目に 映るのは、美容院の 看板。
扉が カランカランと 音を 立てて 開く。
私には、その扉から、美しい天使が 出てくるのが 見えた。
私は、夢を 見ているのかも しれない。
天使は、私に 駆け寄り、そっと頬を なで、優しく 微笑んだ。
私の 短い 冒険者生活は、こうして、終わりを 告げた。
+++ ++++ +++ +++ ++++ +++
トンッという 音と ともに
ウェンディが 目の前に 焼き菓子を 置いた。
きょろきょろと アリーの目が 泳ぐ。
いくばくかの 時間が 経っただろうか。
意を 決したように 彼女は 手を 伸ばした。
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焼き菓子の 山は、あっという間に 無くなった。
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依頼のあったオオスーギルフ村・・・おおすーぎるうるふ村・・・
ウルフの数が・・・おおすぎる むら・・・
「チねっ」って思った人は、高評価を押して次の話へ⇒
物語として、イアンは、彼女のもとへ、たどり着く必要がありました。
しかし、何回書き直しても、どうやっても、
彼が、彼女の所に、行きつくことはありません。
困り果てて、討伐対象を、立ち姿のたぬきっぽい魔物から、パンジーという花の魔物に変えました。
そうすると、ヨロヨロふらつきながらも、
彼を あの人のもとに、連れていくことができました。
それはさておき、思い通りに話が進まず、私は、疲れていたと思います。
この村の名前が、最後まで決まりませんでした。
やっと話を書き終えた時、村名がないことに気づいたのです。
9時投稿です。
そんなに時間は、ありません。
小粋でおしゃれで、かわいい名前にしたいです。
15秒後に、出てきた名前がコレでした。
よしっ、完璧・・・
ごめんなさい。もう疲れきっているのです。