3-62.【閑話】王都液晶ビジョンエイプリル放送局の苦難 前編
4月1日。
新しい年度が始まる春の1日である。
そして、それは、番組改編が行われる日でもあるのだ。
というわけで、私は、いじけながら、魔道具「液晶ビジョン」のスイッチを入れた。
コントロールパネルを操作し、ピッと、本日始まった新番組にチャンネルを合わせる。
そこには、ライリューンとアフロヘアのライアーヌさんが、オリヴィアという女の子と一緒にきゃぴきゃぴと楽しそうにお料理をする姿が映っていた。
「えーと、なんで、こうなった???」
私は、ひとり、魔道具「液晶ビジョン」の前でつぶやいた。
[美容師の娘] 【 3-62. 新番組を立ち上げろ! 】
それは、新年が明けて間もない頃であった。
「アリーさん、あけましておめでとうって言ってすぐで悪いのですが、ちょっと頼まれごとよろしいでしょうか?」
ライアーヌさんが、珍しく真面目な顔で持ち掛けてきた。
「うん、いいよー。どんと来いだっ。」
「いや、まだ内容を言っていないのですが・・・」
「あっ、何の用事なの?」
「それは、ですね・・・」
こうして、私は、ライアーヌさんに招かれ、ある場所へと向かうことになった。
「ようこそ、お越しいただきました。ヘドファン=アリー様。」
私が乗るのは、豪華な6頭立て馬車。
もちろん、ヘドファン家のモノだ。
「うん。ご苦労さんっ。えーと、番組を立ち上げるんだよね?」
「はいっ。詳しくは、中で・・・」
ここは、王都液晶ビジョンエイプリル放送局。
この放送局の制作統括であるライアーヌさんからの頼まれごと・・・
そもそもの始まりは、この放送局で多数の番組を担当していたエグゼクティブディレクターによるパワハラが確認されたこと。
さらに上層部の不適切対応により、世間から大きな非難を浴びた結果、番組にCMを提供していたスポンサーが、次々とその広告をおろし始めたのだ。
このままでは、番組作りのための資金集めが難しくなる。
そう考えたライアーヌさんは、ある人物の招聘を考えた。
そう・・・それこそが、私。
伝説の映像制作プロデューサーのヘドファン=アリー様と言うわけだ。
放送局の制作室の一角に部屋を与えられた私は、さっそく企画を練り始めた。
しかし、ここで大きな問題が・・・
これぞと見込んだタレントが、出演依頼を受けてくれないのだ。
パワハラ問題に加え、上層部の対応の悪さから、放送局のイメージは、予想以上に悪化していた。
このため、特に企業CMに起用されているタレントさんの多くが「今は、ちょっと・・・」「またの機会に・・・」などと言葉を濁して首を縦に振らない。
困った・・・
こうなると、ライアーヌさんの依頼を安請け合いしてしまったことを後悔したくなる。
そもそも、私の番組作りの基本は、スターシステムだ。
ターゲット層の視聴率を取れるタレントをコアに据え、企画は二の次でそのファン層が喜びそうなネタを次々投入していくのが企画の肝になる。
これまでのエイプリル放送局ならば、それでよかった。
圧倒したブランド力により、むしろタレントさんの方から番組に出してほしいと売り込みに来るくらいだったのだから。
しかし、今のエイプリル放送局にその力はない。
そうして、時間だけが刻々と過ぎていく。
どうしよう・・・
立ち止まって考える時間などない。
そうだっ。ここは、逆転の発想。
視聴率を取れるタレントがダメならば、視聴率を持っていないタレントを集めてみては?
いや、むしろ視聴者に嫌われているタレントでいいか・・・
思いついたならば、吉日だ。
「ワ・・ナ・・ナ・・・うん、この人にしよう。」
私が選んだのは、俳優のワーター・ヘケン。
彼の所属する馬厩社に電話する。
さっそく、出演交渉だ。
「もしもしっ!」
こ・・・断られた。
うーん。
不倫で自粛後、地上波に出演できていないから、絶対OKすると思ったのに・・・
おっかしいなぁ。
不倫で活動停止した俳優が、現在進行形で不倫をしているカップルにインタビューっていう企画、絶対面白いから出た方が得なのになぁ。
しかし、こんなことで諦めていられない。
だいたい、数打てば、矢は的に当たると決まっているのだ。
2件目は・・・
「もしもしっ!」
女優のナカ・シュマト・モーコさんっ。
あなたは、出てくれるよね!
・・・断られた。
うーむ。
怪しげな占い師の水晶占いでいわれた通り1週間過ごす企画って、占い師のせいでエイプリル放送局を出禁になってた女優さんにとって、絶対おいしいはずなのに・・・
なぁんで、断るかなぁ・・・
えっ?信頼する元占い師と暮らしているから?
せっかく地上波に出してやろうって私が言ってるのに、そんな理由で断っちゃうの?
ふーん・・・もう、いいよ。
次の人にあたるから。
3件目っ!
「もしもしっ!」
行くよっ。お笑い芸人のナーガ・イキイッチさん。
ネズミ講の取材をお願いしてみた。
えっ?今の世の中には、ネットワークマーケティングとネズミ講の区別がつかない人がいるから誤解を招く恐れのある番組には出ない?
うーん。絶対、バズる企画なんだけどなぁ・・・
仕方がない。次の人いくか。
4件目は・・・
「もしもしっ!」
演出家のタマカー・ワトルさんは、引き受けてくれるだろう。
えっ?だめ???
現在、エイプリル放送局の番組にCMを提供していたスポンサーが、次々とその広告をおろしているわけだが、それの仲介役をしているのが、広告代理店の電博堂だ。
この電博堂は、現在のアーベン伯爵領の首長アーベン・シゾの妻アーベン・キエイが所属していたことで有名なのだが、反権力の演出家を標榜するタマカー・ワトルは、この会社を強く批判して干されたのだ。
私は、タマカー・ワトルにこの電博堂を訪問してもらい、CM広告を提供してもらう交渉をさせ、その様子をドキュメンタリーとして流そうと考えたのだが、そのお返事は・・・
「出ないっ!」
どうしても、この電博堂に媚びるのは、嫌らしい。
つまんない男だなぁ・・・絶対、面白いのに!
そうこうしているうちに、時間だけがどんどん過ぎていく。
コンッ コンコン
「ちょっと、アリーさん。よろしいですか?」
「はい、どーぞー。」
制作室の一角。
ノックの合図に返事をすると、私に与えられた部屋に入ってきたのは、ライアーヌさん。
「どうしたの?」
「いえ、あのー・・・実は、少し言いにくいのですが、今回の新番組の企画に、プロデューサーとして参加したいとおっしゃている方がおられまして・・・」
はぁ?なんで???
敏腕名プロデューサーの私に依頼しておいて、もうひとりってどういうこと?
「いえっ・・・もちろん、私は、アリーさんを信頼しているのですが、うちの編成局長のヒエー・タヒサスのほうが、アリーさんの新番組キャスティングがうまくいっていないのではないか?と言っておりまして・・・」
うぅ・・・バレてた。
どうやら、キャスティングがうまくいっていないという情報が上にのぼってしまい、ケイシーという名前のどこかの馬の骨を連れてきてしまったらしい。
「ウチには、新番組を2本も作る余裕はありません。・・・ということで、番組の企画が良いほうが、放送されるということになりました。どうか、良い企画をあげてください。私は、信じていますから。」
「も・・・もちろんっ!」
こうして、新番組の立ち上げは、なにやら他のプロデューサーと競争することになってしまったのだった。
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