3-58. 【閑話】連続毒入り菓子事件3
「英国の劇作家 ジョン・ヘイウッドの言葉を借りれば『木を見て森を見ず』ということですね。」
夕方の捜査会議、そうケイシーは、話しはじめた。
「まず、前後の事件と3件目の事件の違い。これに気づいてください。それは、死者が出ているかどうかです。」
そうだ。3件目は、被害者のヨークが死に至っている。
「ここで、注目すべきは、キャラメルマフィンについて、同室のジェイコブ・ペプシコカ・フェニックスが語った内容です。『ヨークのマフィンは、アーモンドの匂いが香ばしかったので、自分が食べたものと、種類が違ったかもしれない。』彼は、こう言っているのです。」
その通りだ。
「しかし、このマフィンを販売している「ラヴェッロ」のキャラメルマフィンは、1種類のみであることが確認できました。キャラメルマフィンは、キャラメルの甘さに加えて、埋め込まれているチョコチップの香ばしいカカオの香りが、その特徴です。つまり、ジェイコブの嗅いだアーモンドの匂いは、別の所に由来するものだったということです。」
アーモンドの匂い・・・。
あぁ、そうだったのか。
私は、心の中でポンと膝を打った。
「そうです。青酸です。青酸ガスは、アーモンドや桃の種に似た匂いがする事が知られています。マフィンには、青酸カリが混入されていたことが、ヨークの胃内残留物から判明しました。しかし、ここで1つの疑問が浮かびます。他の事件の菓子からは、すべて塩素の匂いがしている。つまり次亜塩素酸が毒物として混入されている。」
木を見て森を見ずとは、まさにこのこと。
ケイシーは、3件目の事件は、連続毒入り菓子事件を真似たもので、別に犯人が居ることに気づいたのだ。
「他の事件と、3件目の事件は、別の犯人の手によるものなのです。」
うん。この事件だけは、モヴシャの犯行ではなかったというわけね。
こうして逮捕されたのは、ヨークとジェイコブの隣室に住むオリバー・ロフル・カーンエルスであった。
[美容師の娘] 【 3-58. 時間切れ。ちょっと完成度が・・・ 】
2人の容疑者を捕らえ、落ち着きを取り戻した署内は、安堵の空気が漂っていた。
オリバーの取り調べを終えたケイシーが、署長と話す声を盗み聞く。
「オリバーは、黙秘し何も話しません。しかし、彼の動機は、痴情のもつれと考えられます。」
そう、ヨークと隣室に住むオリバーは、恋人同士だった。
男の子どうしだけどね。
しかし、事件当日、旅行から帰ってきたオリバーは、目撃してしまう。
同じ部屋に住むヨークとジェイコブが、シャワー室で裸で抱き合っている姿を・・・。
その映像が、押収したオリバーのスマホに残っていたらしい。
腹をたてながらも、証拠の動画を撮影するあたり、オリバーの精神状況は少しおかしい。
まぁ、ちょっと恋人が旅行に行った間に、ジェイコブと浮気しているヨークも頭がおかしいけどね。
弱き者、汝の名は、男・・・とでも言うべきだろうか?
男とは、なんて心がもろく、心変わりも早のだろう。
それはさておき、ヨークの浮気に腹を立てたオリバーは、2人の殺害を計画したと推測される。
ちょうど2件目の事件のマスコミ報道で、世間が騒いでいたのが影響したのだろう。
その計画は、旅先のエセグバートの街の名店「ラヴェッロ」で購入したお土産のキャラメルマフィンに青酸を混入させて殺害するというもの。
ところが、ヨークは死に至ったもののジェイコブは、何事もなかった。
これについては、ジェイコブが普段飲んでいた胃薬が影響したらしい。
胃潰瘍を患っていたジェイコブは、胃酸止めの薬を飲んでいた。
青酸は、胃の酸と反応してガス状となりその効果を発揮する。
ところが、胃の中の酸性度が中性に近い状態になっていたジェイコブの胃では、その反応がほぼ起こらなかったみたい。
結果として、ヨークは死ぬこととなり、ジェイコブは生き残ったというわけだね。
「ところで、物的証拠はほぼ無く、黙秘で供述もとれない。これで、オリバーを有罪に持っていけるのかね?犯人が、モヴシャではなくオリバーであるとするには、少し弱いのではないのかね?」
署長は、ケイシーに問いかける。
「少なくとも、モヴシャが3件目の犯人でないことは、証明できますよ。「ラヴェッロ」のマフィンは、エセグバートの街だけで販売されていますから。」
そう、ケイシーの言う通りだ。
王都と、エセグバートの街との往復は、少なくとも2日は必要。
ところが、モヴシャは、王都で姿を毎日確認されている。
空でも飛んで移動できない限りこの距離を1日で移動することは不可能。
「となれば、3件目に限れば、彼のアリバイは、成立することとなります。必然的に、ヨーク殺害は、動機のあるオリバーが、お土産のマフィンを使って行ったという結論に至ることは、おおむね理解されると思われます。」
あぁ、ケイシーがここなで言うなら、起訴出来るだけの根拠を積み上げる自信があるのだろう。
あぁ、少し新鮮な空気が欲しい。私は、椅子から立ち上がった。
署の外は、すでに少し暗くなっており、道ゆく馬車のランプには火がをともされて、その薄暗い灯りが、石畳を照らしていた。
その時であった。
「はぁい。とうちゃーくっ。着いたよ。ライリューン。」
1枚のじゅうたんが、私の目の前に舞い降りてきた。
その上には、運転手とみられる少女と、助手席に座る少女。
「ちょっと、アリー。魔法のじゅうたんの運転が荒ら過ぎない?これじゃ、おきゃうさん減っちゃうよ。」
「大丈夫っ。普段は、もうちょっと安全運転してるから。それより、ライリューン。同じ型のじゅうたんは、どのくらい売れた?」
「完売、完売っ。やっぱり目の前で飛んでるからインパクト強いよね。実際は、アリーの風魔法で浮かんでるんだけど、みんな、そのじゅうたんが欲しいっ。ってなったから、ボロ儲けだったよ。」
なんだろう?この少女たちの会話は・・・。
なにかが引っかかる・・・。
あっそうだ。アリバイだっ。
王都と、エセグバートの街との往復は、少なくとも2日は必要。
ところが、モヴシャは、王都で姿を毎日確認されている。
空でも飛んで移動できない限りこの距離を1日で移動することは不可能。
逆に言えば、空を飛べば1日で移動することも可能。
この空飛ぶじゅうたんならば・・・。
「私は、そこの警察署の巡査部長のルナ。ちょっと話を聞かせてっ。」
食いつくように、声をかけてしまった私に対して、2人の少女はあわてて言い訳を始めた。
「いや、騙してるわけじゃなくて、ちゃんと、同じじゅうたんって言って売ってますからっ。詐欺じゃないですよ。」
「あっ、そ・・・それに、売ったのは、ライリューンだからっ。わたしは、ただ、じゅうたんに魔法で風を当てて空を飛んだだけだよっ。」
そっ・・・そんなことは、どうでもいいっ。
胸のポケットから、モヴシャの顔写真を取り出す。
「ねぇ、この人を知らない?あなた、このじゅうたんでタクシーをしてたんでしょ。乗せたことないかしら?」
2人の少女が、写真を覗き込む。
「この人アレだよね?。急にお菓子を食べたくなったって、マフィンを買ってた人。」
「あぁ、そうそう、ライリューン、よく覚えてたね。エセグバートの街と往復した人だね。」
私は、どんな時も規則を守るのが好きだ。
冤罪で人を捕まえることなんて耐えられない。
3件目の事件もモヴシャが犯人の可能性が高い。
私は、少女たちに礼を言い、署に向かって駆けだした。
「ちょっと、待ってぇぇぇぇ。これ、私たち無許可の白タクをしている上に、じゅうたん詐欺してるじゃないっ。」
叫んだ 瞬間、目が覚めた。
寝汗がひどい。
「アリー様、ずいぶん、うなされておりました。大丈夫ですか?」
マーガレットが、心配そうに 声を かけてきた。
夢・・・。 ずいぶんと ひどい内容の夢だった。
もし、これが、小説なら、読まされる 読者が、かわいそうな レベルだ。
立ち上がり、足をすすめる。
窓を 開けた。
窓枠に、へばりついた 桜の花びらを、指で そっと払う。
舞う 花びらが、ひらひらと 飛び去った。
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今日は、4月1日。
春の 夜の夢は、短く そして 儚い。
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蛇足
ちょっと時間が無さすぎて、内容が・・・。
それはともかく嘘を吐こうと思ったのですが、
なかなかうまく思いつきません。
小説を書くって、本当っぽい嘘をつくことですから、
思いつかないって、ネタギレ状態ですね。
じゃぁ、仕方ありません。
「今年の6月に1ドル120円台の円高になる予定っ!」
って嘘をつくことにしましょう。
今日は、4月1日です。