3-53.あの鐘の音を鳴らすのは 3
にわとりは、キジ科の仲間だ。
そうして、この鳥は、他のキジ科の鳥と同様に好戦的である。
縄張り争いのため、あたり構わず攻撃的になり、大声で鳴き、自らの縄張りを犯したものに対しては、威嚇をしながら攻撃をくわえる。
それは、飼い主である私に対しても同様だ。
私が鶏小屋に近づくと、シャァァァっと威嚇し、小屋の中で暴れ始める。
私の名前は、ルゲイセ・マニノフラ。
セミノボヨの街で鐘打ちをしている。この仕事は、朝は早くから、そして夕刻も鐘打ちのため拘束されるが、今くらいの時刻であれば、比較的自由に過ごすことが出来る。
ということで、空いている時間を使って、今日も鶏小屋の前でまき割りの作業をしていると、小屋の付近でニワトリたちが、ぎゃぁぎゃぁと騒ぎはじめた。
いつものことではあるが、飼い主に対してくらいは、従順になって欲しいものだ。
そんなことを思いながら、ふっと、顔をあげる。
「っ・・・。」
言葉が出てこない。
というのも、目の前の鶏小屋にいたのは、口から血をしたたらせたトキニホンウルフであったのだ。
恐ろしいオオカミに襲われぬよう、そっと後ずさりをしながら、小屋からじりじりと距離を取る。
そうして、オオカミの視線が、まだぴくぴくと動くニワトリの死体に向かった瞬間、脱兎のごとく私は駆けだした。
―― オオカミが出たぞーっ!
街の中に居るはずのない獣が居るっ。
私は、大きな声を上げながら、セミノボヨの街を駆けずり回って皆に注意を呼び掛けた。
[美容師の娘] 【 3-52.ふわふわライ麦パン 】
セミノボヨの街のお食事処『絵の音』。
ウエイトレスのナタリー・ヤサチナは、ちょうど女性客から、ふわふわライ麦パンとスープの注文を受け、その準備を始めたところであった。
うーん・・・ちょっといい商家の姉妹かしら?
姉と思われる女は身重で、私の案内をまったく気にせず遠慮なく大きなテーブル席にどんと腰かけ、少し背の低いもうひとりは、腰かける妊婦を眉をひそめて見る私に、そっと銅貨を握らせてきた。
トンッ。
ナタリーが、2人の女の子の正体を想像していると、調理場とこちらを隔てるカウンターが音をたてた。
お盆にのせた ふわふわライ麦パンと温かい湯気の立ったスープが、カウンターの上に置かれたのだ。
「ほらっ、あつあつのうちに持っていきなっ。」
奥から料理人のピョトルチャイ・コフスキーが、低い声で私に告げる。
うん。このスープは、下を火傷しそうなくらい熱い時に飲むのが一番おいしいのだ。
私は、お盆を持ち上げようとカウンターに手をかけた。
マニノフラが、大声で叫びながら店に駆け込んできたのは、ちょうどその時であった。
「あら、マニノフラ?どうかしたの?」
マニノフラは、私の愛しい恋人。そして、このセミノボヨの街の鐘打ちだ。
「オオカミだ。トキニホンウルフが、街に入り込んでいるっ。」
マニノフラの大きな声に反応して、調理場からコフスキーが奥から飛び出てきた。
「店を閉めるぞ。手伝えっ。」
えーと・・・、あのお客様たちのことを忘れてるんじゃないかしら?
外に飛び出したコフスキーと、マニノフラは、外から窓を板で塞ぎつっかえ棒をすると、扉を閉めこちらも内側からつっかえ棒を押し込むように差し込んで、ふぅっと息をついた。
「あのぉ・・・お客様は、どうしましょうか?」
「あっ・・・。」
コフスキーは、やっぱり、忘れてたみたい。
「じゃ、ライ麦パンとスープを持って行って、その時に説明してきますね。」
私は、少し冷えてしまったスープとライ麦パンの乗ったお盆をもって、2人の少女のテーブルへと向かった。
「すみませーん。お待たせしました。」
「さっき、男の人たちが窓、閉めちゃったから、外が見られないんですけどぉ。ちょっと暗いし、開けられません?」
テーブルにライ麦パンとスープを並べていると、お腹の大きいほうの女の子が、私に窓を開けるように言う。
「ごめんなさい。なんかオオカミが街に入り込んだみたいで、念のために窓と入り口を閉じさせてもらったんです。安全の確認が出来たらすぐに開けますから、少しの間、辛抱してくださいね。」
ちょっと不満げに窓の方を眺める妊婦さんとは対照的に、もう一人の少女は、外の様子は気にせず、ライ麦パンとスープに手を伸ばしている・・・って、そんな持ち方したら、スープがこぼれちゃう。
ほら、言わんこっちゃない。
慌てて、布で拭こうとするも、女の子は私の手が伸びるより先に厚手の白い紙でスープを吸い取るように拭き取っていた。
「もぉ、アリー。気を付けてよ。」
「大丈夫だよぉ。スグにふき取ったから。」
「って、アリー・・・大丈夫なの?それ、封筒に見えるんだけど。」
「あぁぁっ、アレックスに貰った紹介状でスープ拭いちゃった。どうしよう?使えるかな?」
あぁ、私が厚手の白い紙だと思ったのは、何かの紹介状みたい。そっと、テーブル拭きを差し出す。
「汚れを取るのは無理ですけれども、こちらで乾かしますか?」
どうせ、他のお客様はもう居ない。そして入り口を閉めた以上、新たなお客様が来ることも無い。それなら、空いたテーブルでその紹介状を乾かしてあげるくらい問題ないだろう。
「あっ、すみません。お願いします。」
ポタポタと汁がしたたる紹介状を、指先でつまむように受け取る。
あぁ、スープをあつあつの状態で持ってこないで良かったわ。火傷しそうなくらい熱いスープのしたたる手紙なんて持ちたくないもの。
「って、王家の紋章っ?」
封蝋・・・手紙に封をした蝋・・・そこに押された印は、見まがうことなく王家のもの・・・。
この子・・・王家の紋章付きの手紙で、スープをふき取ったの?スープの汁をぽたぽたと垂らし続ける手紙をつまんだまま動けない。
あまりに恐ろしすぎる。ヤバいっ。これに巻き込まれたら、死罪まである。
「えーと、てきとうに、乾かしてくれたらいいですよ。無くてもたぶんどうにかなると思いますし。」
いや、どうにかなるとかの問題じゃなくて・・・王家の・・・。
「あっ、そうだ。これ、セミノボヨの街の鐘打ちの人への紹介状なんですけど、なんか乾かしても使えそうにないですし、お姉さん知りません?この街の鐘打ちの人。」
知らない。知らない。知らない。王家の紋章付きの紹介状なんて・・・って鐘打ち?
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それなら、入り口のところで、うちの料理人としゃべりこんでいますけど?
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今日、スープをこぼした人は、高評価を押して次の話へ⇒
蛇足1.ミハイロ・ペトロヴィッチ
ユーゴスラビアの首都ベオグラード近郊にあるロズニツァ出身のフットボール選手で、現在はその監督の方。
センターバック3人。
守備的ミッドフィールダー2人。
両サイドのウィングバック2人。
前線には1トップ2シャドーを配置。
3-4-2-1フォーメーション。
ボールを保持しているかしていないかで流動的にポジションが入れ替われる可変システム。
これが、ペトロヴィッチ氏の得意とする戦術です。
サンフレッチェ広島監督時代、この「ハメ手」のようなフォーメーションで、相手のプレスを回避しつつ、攻め込みスペースを作り出し、相手が全体で押し上げてくれば、ロングパスで最終ラインの後ろへとトップにボールを放り込みます。
また、3バックは、可変式ですので、サイドバックを吸収し、5バックへの移行も自由自在。
2012年、ペトロヴィッチ氏は、浦和レッズへ移り、サンフレッチェ広島は、森保一監督へと移行します。
ペトロヴィッチ氏のシステムは、森保監督へと受け継がれ、多少、守備の強化をしてバランスを調整されます。
そうして、森保監督率いるサンフレッチェ広島は、Jリーグを制することとなります。
ドイツ対日本の後半の陣形が、これですね。
森保一監督は、奇策でも何でもなく、自分の一番得意な陣形で勝利したんだと思います。
途中出場の浅野のゴールにしても、同じような形で、浅野か佐藤が後半最後に交代で出場して得点を決めていましたし、浅野へロングキックで最終ラインの後ろにボールを放り込んだ板倉の役割を、森崎や青山がしていましたし。
柴崎選手が、代表に入ったことについてとやかく言う人がいましたが、森保監督率いるサンフレッチェ広島時代の、青山選手の役割をこなす人材として必要だから思っている以上に優先順位が高かったと思いますよ。
で、コスタリカ戦。
思っている以上に強いと思います。
スペイン戦でも、2点目を取られた後の少しの時間は、スペインに対応できていましたし。
でも、守田選手が復帰したので、たぶん大丈夫・・・なはず・・・。
いや、守備強度的に田中碧選手より、上だと思いますから。
出来たらワントップは、上田選手に入って欲しいなぁ。
『先発して欲しい人たち』
上田
三笘 鎌田 堂安
守田 遠藤
伊藤 谷口 板倉 長友
権田
まぁ、谷口は、吉田でしょうし、
三苫は、体調的に戻っていないでしょうし、
伊藤の所に長友で、右は山根でしょうね。
『先発する人の予想』
上田
南野 鎌田 堂安
守田 遠藤
長友 吉田 板倉 山根
権田
『独り言』
どうか、ボールは、持たずに、相手に持たせてカウンターで仕留めてください。
上田さんは、ロングボールを収めて時間を作ってください。
得点を取るのは、後半でいいですよ。
なんか右から堂安さんが走り込んできて、左足で、惜しい場面を作りそうな気がします。