3-46.出来ちゃった
ワンちゃん3匹を引き連れて、飛翔師兵学院の裏門の辺りまで 軽いお散歩をしていると、そこに1台の馬車。
前側は、何ともないんだけれども、後ろ側が ハリネズミ。
うわぁ、矢が、いっぱい 刺さってるわ。
驚いたことに、何十本・・・ もしかすると100本を超える矢が、馬車の後方に突き刺さっている。 後ろの小窓は、割れてしまっているみたい。 たぶん、矢が当たったんだろうね。 中は、大丈夫なのかな?
しかし、こんな馬車が、学院に飛び込んで来るなんて、おかしいよね。 学校だよ、ここ。 って、おかしくもないのか。 いつも、ナカヨシに言われて、全く関係のない 研究ばかりしてるから忘れがちだけど、飛翔師兵学院って、師兵のための 学校だったね。
馬車が止まり、御者用のシートから、男の人が 転がるように降りてきた。 あぁ、この人、たいへんだよね。 矢から守ってくれる 壁とか、無いから。 後方の従僕用の ランブルシートには、誰も居ない。 もし、そこに誰か居たら、バカみたいな本数の矢が 突き刺さっていただろう。
馬車のドアが、サッと開かれる。 侍女っぽい服装をした女の人が、一人おりてきた。 マーガレットみたいな恰好をしている。
そして、続いて降りてきたのは・・・
えっ? ライリューン?
良く分からない ネコ2匹を引き連れて、ライリューンが 馬車から降りてきたのだ。
どうしたの? ライリューン??? 東ハルサの内戦地帯にでも 行ってのかしら?
[美容師の娘] 【 3-46.馬車を1台お願いします。 】
わたしは、慌てて、ライリューンの方に駆け寄った。 パトとラッシュとチビも、後ろから走って付いて来ている。
「どうしたの? 来る途中で、山賊でも出た?」
「あっ、アリー。 待っててくれたの?」
ううん。 3匹のワンちゃんの、お散歩に 来ただけだよ。
「もちろんっ。 ライリューンが来るから、じっと していられなくて、門の所まで 来ちゃった。」
「そうなんだぁ。 アリーって、嘘つくとき、目が 左上を見るよね。」
そんなことないです。 生まれてから、嘘なんて 1回も ついたことないです。
「そんなことより、あの矢は 何?」
「それがねぇ。 私、天妻さまに、嫌われてるみたいなんだ。 っていうか、何? あの子たち。」
見ると、馬車から飛び出てきたネコを、パトとラッシュが、前足で押さえていた。 新しいお友達かな?
「あれ、ライリューンの 飼ってるネコ?」
「いや、途中で 穴ぼこに落ちて 出られなくなっていたのを 拾ったの。 かわいそうだから、ライレーンのネコたちと一緒に、飼ってあげてくれない?」
うーん。 ライレーンのネコは、ワイルドだから、馴染めるかなぁ。 まぁ、パトや、ラッシュが、仲良くしてあげているみたいだから、なんとかなるか。
「ステラっ。 私は、アリーと行くから、馬車を 動かしておいてっ。」
あぁ、あの侍女さん、ステラっていう 名前なのね。
「ねぇ、ライリューン。 天妻に、嫌われてるって何?」
「あっ、先に 研究室に行こっ。 馬車に揺られ続けて、疲れちゃった。」
こうして、わたしたちは、ナカヨシ研究室に 向かうことになった。
「寮で、良くない?」
「んー、正直、疲れてて、早く どこかで 落ち着いて座りたいっ。 寮だと、階段を 上るでしょ? いま、私、めっちゃ 腰が痛いのよ。」
あぁ、だいぶん疲れてるんだね。 そっかぁ。 ずっと、馬車の中だから、腰が痛むのか・・・。 まぁ、あれだけ ハリネズミみたいな 矢を受けてたってことは、まともな 道中では、なかっただろうし・・・。
魔力を通し、研究室のカギを開ける。 そうして、わたしのお部屋に入った ライリューンは、ソファーに ゴロンと転がった。
「あぁ、もう疲れた。 ねぇ、なんか スッとする飲み物とか ない?」
「ワインが いい?」
「あっ、アルコールは 無しでっ。」
嘘っ。 まさか、ライリューンが、お酒を 断るなんて・・・。 雨とか 槍とか 降らないかしら? 絞ったレモンを混ぜた レモン水の 冷たいグラスを渡しながら、わたしは、ライリューンの顔をじっと眺める。
・・・まさか、偽者っ?!
「あぁ、生き返るー。 これ、おいしいっ。 ねぇ、このレモン、いくつか 持って帰れる?」
「うん、いいよ。 『春秋缶詰』に詰めておこうか?」
「あっ、放り込むと、缶詰になるやつだ。 うん。 おねがいっ。」
以前に、アタリヤ商会から せしめた、魔法道具に、フレッシュなレモンを詰める。
「で、禁酒してるの?」
「そうなのよ。 もう1か月くらい、アルコールを飲んでないの。 すごいでしょ。」
「へぇ、やっぱり、次の日の 肌荒れとか 気になる?」
「あっ、違う、違う。 あのねー、子供が出来たんだ。 ほら、ちょっとだけ、お腹が 大きくなってるでしょ?」
ふえっぇぇぇえ。 こ・・・子供っ? え?っ てことは、致した? いたしたって ことかなの?
「もぉ、アリーったら。 ライレーンも そうだけど、私たちは、下妻として、嫁いでるからね。 当たり前のことだよ。」
そっかぁ、年齢的に、そう言うのって、もうちょっと 後だと思ってたけれども、この世界だと、このくらいで、お子ちゃまが できるんだ・・・。
「じゃあ、妊娠してるのに、あんなハリネズミみたいになって、王都まで 旅行してきたの?」
「んーと。 逆かな? 妊娠したから、天妻さま・・・ 正妻に 嫌われちゃったんだと思う。 だんな様? キョニン師には、溺愛されてるんだけどね。 それが 余計に正妻の神経を 刺激するみたいだわ。」
ちょ・・・ それって、暗殺ってこと?
「そうね。 あわよくば、お腹の子供もろともっ。 って 感じだったんじゃないかな? ほら、私の命に別状はなくても、襲撃のショックで、お腹の子供だけ 流れるってことも、あり得るでしょ?」
だめぇぇぇぇぇぇ。 それは、ダメっ。 よし、わたしが、一肌 脱ごう。 わたしは、急いで、マーガレットを呼んで 指示を出した。
2人で、つわりの状態などを話していること、1時間。 どうやら用意が出来たみたいで、マーガレットが 戻って来た。
「ライリューン。 ちょっと 表に出てみてっ。」
ナカヨシ研究室の前に停まっていたのは、1台の豪華な馬車。
「え? ナニコレ・・・。」
「じゃーん。 ヘドファン伯爵家の馬車を 1台 ちょろまかしてきました。」
「ちょ・・・アリー。 やり過ぎっ。」
「いいじゃない。 わたしの名前で、貰って来たんだから。 どうせ、あのハリネズミ馬車じゃ、帰れないでしょ? それなら、ヘドファン伯爵家の 紋章の入った馬車を使えば、さすがに、天妻さま とやらも、こういう 襲撃は、できないでしょ。 1本でも、矢が刺さったら、ヘドファン伯爵家と、わたしを敵に回すんだからっ。」
「うわぁ・・・。 ほら、窓にキンキラキンの装飾が ついてる。 これ、無駄に 豪華すぎない?」
「確かに、趣味は悪いと、わたしも 思う。 でも、今すぐ用意するっていったら、ちょうどいいのが、コレしか なかったみたいだもん。」
その時であった。
見れば、1台の豪華な馬車を先頭に、数台の馬車が、猛スピードでやってくる。 うわぁ・・・学院の中だよ。 もうちょっと、スピード落とそうよ。 そうして、ガタガタと音を立て その馬車は、ナカヨシ研究室の前に 停まるのであった。
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え? なに? こっちは、わたし頼んでないよ。 マーガレットも、知らないよね?
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子供のころ、よく出来たお子様として近所で有名だった人は、高評価を押して次の話へ⇒
蛇足1.腰痛
「寮で、良くない?」
「んー、正直、疲れてて、
早く どこかで 落ち着いて座りたいっ。
寮だと、階段を 上るでしょ?
いま、私、めっちゃ 腰が痛いのよ。」
あぁ、だいぶん疲れてるんだね。
そっかぁ。 ずっと、馬車の中だから、腰が痛むのか・・・。
まぁ、あれだけ ハリネズミみたいな 矢を受けてたってことは、
まともな 道中では、なかっただろうし・・・。
いいえ。
ライリューンの腰痛は、馬車での移動だけが
原因ではありません。
妊娠すると、黄体ホルモンが、多く分泌されるのです。
この、黄体ホルモンは、プロゲステロンとも呼ばれますが、
基礎体温をあげ、子宮内膜を厚くし、妊娠の維持を図ります。
また、リラキシンというホルモンも、分泌されます。
これは、子宮弛緩因子と呼ばれます。
骨盤にある靭帯を緩めて、骨盤を開きやすくするホルモンです。
これら、黄体ホルモンやリラキシンによって、骨盤や、背骨の関節が
緩んでしまうため、腰や背中の負担が増えてしまうのです。
ということで、妊娠初期は、腰痛が、起こりやすくなります。
ライリューンには、腰や、お腹周りが冷えないよう
あったかくして、過ごしてほしいですね。