1-2.え?A型?
遠藤杏里が、それを知ったのは、中学校の理科室だった。
先月、大好きな母を亡くした杏里は、授業には出ずに
大好きな理科教師 節子先生のいる理科室に入り浸っていた。
節子先生は、何も言わず杏里の好きなように過ごさせてくれていたのだ。
「あ~っ。まだコレあったんだー」
理科準備室で 節子先生が冷蔵庫から取り出したのは、ABO式血液型判別試薬だった。
「せっちゃん、それ何?」
杏里は、せっちゃん先生に尋ねる。
「指を針で刺して、血とコレを混ぜると血液型が分かるの」
とせっちゃん。
「あっ、私 血液型 知らない!」
父はB型、母はO型、なので杏里の血液型は、BかOであることは分かっているが、
どちらかは知らない。
「うそだー。生まれた時調べるよ?
まぁ期限は切れてるけど、試薬は まだ使えるだろうから調べてみよっか」
「痛っ。なんか水滴みたいな感じで血が出るね」
「じゃ、こっち落としてね。で、生理食塩水で洗うの」
「こっちは固まって、こっちは固まらないから…」
「杏里ちゃんは、B型だね」
「うそー。私A型かO型のはずだよー」
父はB型、母はO型、杏里の血液型は、B型かO型のはずであり
もちろんAかOというのは嘘である。
『せっちゃんをビックリさせてやろー』
そんな軽い気持ちで杏里は言っただけだ。
「あれ?あぁごめん。本当だ。抗A血清が凝集してるから逆だわ。A型だね。」
A型の血液を「抗A血清」と反応させると凝集する。
「えっ?どういうこと?」
杏里の指から落ちた血液は、抗A血清を凝集させた。
杏里は、A型だったのだ。
「ごめんー。怒らないで。間違ったの」
無邪気に せっちゃんがあやまる。
「…もぉ、びっくりした」
杏里は、ごまかすのが得意だ。せっちゃん相手ならば。
内心のドキドキを隠しながら 杏里は なんとか理科準備室を後にした。
「私…A型なの?」
杏里の父親はB型…父は、父ではなかった。
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高校入試まであと3か月…。
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