3-36.え?ナカヨシ、来たの?
出来上がった 白い粉。
えーと、これを使えば、ニキビのお薬って 出来るのかな?
「いえいえ、メインのお薬が まだですから。
まだまだですよ。 アリーさんっ。」
ちょっ。 メインのお薬から 作ってよ。
補助のお薬 なんていらないよ。
「では、主になる お薬作りをしましょう。」
クラメルさんは、手早く 白い粉を瓶に詰めて 次の工程へと うつろうと 片づけを始めた。
これ、わたし、何もしなくても、お薬って出来るんじゃないかな? これだけ手際がいいなら・・・。
[美容師の娘] 【 3-36.できたっ!ニキビ薬 】
え? 作らなくていいの?
「はい。 もうできていますから。」
リシチア島で高温高圧の水を 鉱床に吹き込んで 採取された硫黄の液体を 冷やしてが凝固させた円柱。
それが、ドンッと、机の上に置かれた。
「これを削るんですよ。 ガリガリと。」
うわっ ダイナミック。
削り取られた硫黄は、淡い黄色の粉末。 あら? 温泉の匂いなんか しないのね。
「舐めても 大丈夫ですよ。」
クラメルさんが、そういうので、指に ちょっとついた黄色い粉を ペロリと舐める・・・。
まずいっ。
というか味がない。
そっかぁ。 硫黄って、温泉のイメージがあるから 卵の腐ったような匂いが するのかと思ってたけれど、味も匂いも ないもの だったんだね。
「それでは、ご説明いたしますね。」
え? なに・・・その黒板・・・。 ちょっ、なんで こんなところに来てまで、授業を 受けなきゃダメなの? わたし、ニキビの治療に来たんだよっ。
ボギラス教授は、黒板にカリカリと、チョークを走らせながら、講義を始めていく。
硫黄は、皮膚表面で、硫化水素やポリチオン酸になります。
特に、ペンタチオンは、抗菌作用をあらわすので、
皮膚疾患に奏効します。
また、皮膚の角化には、硫黄由来のSにより、
-SH基を、S-S結合に変えることによって、
角質軟化作用を呈します。
硫黄の粒子が細かくなるほど、反応は促進されますので、
小さなコロイド粒子を用いると著効を示します。
また、アルカリ剤と配合すると、角質軟化作用
殺菌作用が増強されるので、諸作用が顕著にあらわれ・・・
ぐぅぅ・・・ Zzz ・・・Zzzz
あっ・・・、いつの間にか 黒板に文字の羅列が・・・
あれ? ナカヨシ? いつの間に来たんだろう?
「おぉ、アリー。 もう材料は、出来たかの?」
え? 薬づくりじゃなくて、なんか授業が 始まってたんだけれど?
「それは、別に構わぬ。
それよりも、ボギラス。 材料は出来ておるのか?」
「もちろん。 酸化亜鉛と、硫黄は、用意できています。
ナカヨシ教授のお持ちになる 材料待ちですわ。」
「それならば良い。 これが、レゾルシンじゃ。」
れぞるしん?
「ベンゼン、硫酸、硝酸からフェニレンジアミンをつくる。
これを加水分解して レゾルシンを製造してきたのじゃ。」
う・・うん。 全然分かんないネ。
ナカヨシが、机の上に置いた瓶の中には、白っぽい薄茶色の粉が詰まっている。 これが、レゾルシン?
「そうじゃな。 そして、こちらが甘草の根じゃ。
この薬草から、成分を抜き出す作業をしてもらう。」
え? 成分の抜き取りって、一度、抽出して魔力で成分を覚えなきゃ 出来ないんじゃないかった?
「何を言っておる。 おぬしの香りの石鹸を思い出してみよ。
バラから直接、匂いの成分を 抜き出しているではないか。」
あぁそだわ。わたし、野バラの花びらと、葉っぱから 魔法で 直接、香りの成分を 取り出してたね。 じゃぁ、これも出来るかな?
「まぁ、すぐには、出来ぬ。
まずは、ワシが やって見せるので見ておれ。」
ナカヨシが、植物の根に、手を当て魔力を通す。 すると、するりと 淡い黄色の結晶性の粉末が、さらさらと、浮き出てきた。
「アリー、舐めてみよ。」
うわっ、また マズいんじゃないの?
指に結晶をとり、ぺろりと舐める。
うわっ、甘いっ。
あんがい、おいしいね。 コレ。
「そうじゃ。 それで甘草と いうわけじゃな。
取り出した成分は、グリチルリチンという。」
うん。 だけど、草じゃなくて、根っこを使うんだから 名前つけた人、センスが無いね。
甘根にするべきだよ。
「そして、最後の薬はこれじゃ。」
ナカヨシが取り出した瓶には、白い結晶状態の粒。
なに? これ。
「オルト-シメン-オールじゃ。
アクネ菌という菌を殺す薬じゃ。
これは、0.01ppmの濃度で、100%の抗菌活性を発効する。」
れいてんれいいちぴぃぴぃえむ? 何 言ってんのか 分かんないよ。
「作り方を、覚えておくのじゃ。
次からは、自分で作るのじゃからな。」
え? ナカヨシが、作ってくれたらいいじゃないの?
「わがままを 言うではない。」
ちょっと、待って。 なんで、ナカヨシまで、黒板を使い始めるの?
カリカリというチョークの音・・・。 わたし、早くニキビを 治したいんだけなんだけれど・・・。
こうして、わたしは、ハロゲン化メチルフェノールを、イソプロピル金属とを酢酸パラジウムを触媒として クロスカップリング反応させる方法を・・・ ぐぅ・・・・。
「アリー。 聞いておるのか?」
も・・・ もちろんっ。 起きてるしっ。
フラスコに、酢酸パラジウムをいれて、ジシクロヘキシルホスフィノジメトキシビフェニルと、ブロモメチルフェノールを入れる。 テトラヒドロフランの溶液を注入して、臭化イソプロピル亜鉛のテトラヒドロフラン溶液を滴下っ。 これを、一昼夜撹拌し続けたら、出来るんでしょっ。
ほら、ノートも、ちゃんと 書いてるもん。
「よだれが 無ければ、完璧じゃな。」
ね・・・ 寝てないもん。
てか、ナカヨシは、どうやって作ったのよ。 一昼夜撹拌って できてないでしょ?
「作り置きを持ってきたのじゃ。
あっ、テレサがライリューン商会で発売すると言っておる。
覚悟しておくのじゃぞ。」
え? ちょっと待って。 最後の話は、おかしいって。 ナカヨシが作ればいいでしょ? テレサさんの依頼なら。
「それでは、ボギラス。 残りの工程は、まかせたぞ。
ワシは、忙しいでな。」
ボギラス教授に、残りの作業を投げ振って、ナカヨシは、そそくさと 実験室を後にした。
あー、絶対逃げた。 今のって、テレサさんの依頼って言うか、命令を わたしに押し付けようとしてるだけだよっ。 ずるいっ。
「じゃぁ、始めますわよ。」
ボギラス教授と、クラメルさんは、ナカヨシが帰ったことを気にせずに、薬づくりを続けようとする。
「それでは、アリーさん。 アルコールを出してください。」
あぁ、わたしの仕事もあるのね。 手の平から水魔法で、匂わないアルコールを作り、ビーカーの中に注ぐ。
そこから取り出した 少量のアルコールに、オルト-シメン-オール、グリチルリチン、レゾルシンを溶かし込む。 硫黄は、アルコールに ほとんど溶けないので、後回し。
「はい。 いいでしょう。
これを、ゲル化炭化水素に混ぜてください。」
ゲル化たんかすいそ??
「パラフィンを、ポリエチレンでゲル化したものです。
これも、ナカヨシ教授の発明ですよ。」
うーん。 上手く混ざらない。
「そうなんですよ。 アルコールと ちょっと相性が悪いんです。」
平然とした顔で、クラメルさんは、言う。
いやいや、さっき、アルコールで溶かしたじゃん。 成分。
「あっ、あれは、アルコールじゃないと 溶けないんです。」
・・・。
めんどくさいっ!
それでも、ぐるぐる混ぜていると、何とか均一に整った。
「それでは、最後に硫黄と 酸化亜鉛を混ぜましょう。」
面白いことに、硫黄は、さっきより簡単に混ざった。 面白いね。
最後に 酸化亜鉛を 混ぜ混ぜして おしまい。
あぁ、できたっ。 軟膏ツボに、ニキビのお薬を詰める。
詰め切れなかった残りの軟膏を、ガーゼに500円玉くらいの厚みで塗り、おでこにペタリっ。
ふぅ。 おわったぁ。
ボギラス教授、クラメルさんどうもありがとうね。
じゃ、帰ろうか。 マーガレット。
「アリー様。 ナカヨシより、お手紙を預かっております。」
え?なに? なんで手紙なの?
アリーよ。
テレサが、オルト-シメン-オール含有の、
ニキビ用せっけんを 販売するらしい。
ライリューン商会からの販売となる。
来月の終わりには、量産体制に入れるよう準備せよ。
ナカヨシ
はぁぁぁぁぁ? 来月下旬? ムリムリムリムリムリ。
追伸
来週、ライリューンが、こちらに参るらしい。
ニキビ用せっけんについて相談すると良いじゃろう。
あっ、ライリューンが来るの。 うん。じゃ、大丈夫かも・・・。
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こうして、ニキビの薬づくりは、終了。
わたしとマーガレットは、シンデルラララ寮へと 馬車で帰るのであった。
え? ニキビ? 次の日の朝には、すっかり赤みが引いてたよ。
良く効くね。この軟膏。
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今年、雹を見た人は、高評価を押して次の話へ⇒
蛇足1.モルドバ
ウクライナ領のオデッサ北西部に接するモルドバは、
ワインの生産が盛んなんだそうです。
ブドウの種子の跡の化石から、紀元前2,800年には
すでにブドウ栽培がおこなわれていたとか。
ここでは、戦争でもないのに、小型ロケット弾を
年間5000発程度打っていうそうです。
というのも、地球温暖化の影響で、ヒョウが降る
らしいんです。夏に・・・。
成人の握りこぶしぐらいの大きさの氷が、
夏に、空から降ってくる。
恐怖でしかありません。
これは、主要産業のブドウ畑にも被害を及ぼします。
なので、雨雲の中のヒョウを小さくする効果のある
ヨウ化銀をロケット弾に積んで、雨雲に打ち込むことで
少しでも、被害を押さえようというわけですね。
訳ですね。
そういえば、ロシアが黒海沿岸のヘルソンを
制圧して、次は、モルドバの隣に位置するオデッサの
攻略に向かうみたいですね。
オデッサをおさえたら、黒海沿岸は、ほぼ押さえる
ことが出来ますので、まぁ予定通りなんでしょう。
蛇足2.トランスニストリア
そうして、オデッサが押さえられる頃、モルドバの
トランスニストリア地域の親ロシア派が動き出してしまうと、
「ヨウ化銀以外」を積んだロケット弾が、モルドバの空を
飛びそうで嫌ですね。
2021年4月、モルドバ内のトランスニストリア地域において、
平和維持名目で、ロシアが軍事演習を実施をしています。
トランスニストリアは、モルドバ内部の事実上の分離独立地域なので
ロシアの影響力が大きい地域です。
2006年に、トランスニストリアで、非公認の独立政府が実施した
住民投票では、独立や、ロシアへの吸収合併案が、支持されている
そうです。
ってなると、こっちに広がると、もうちょっと長引きそうですねぇ。