3-16.冷凍食品工房と地下トンネル
地下での強制労働は、過酷。
通常の場所なら そこまで問題ないんだけれど、ここは、地盤が良くない。
砂まじりの土は、掘ると 砂煙が舞う。
「アリー、穴を掘ると同時に 固めるのじゃ。」
いやいや、ナカヨシ。そう簡単に言うけれど、同時に固めるって その土魔法、けっこう難しいよ?
[美容師の娘] 【 3-16.『魔石』に魔力を込めて 】
1週間は あっという間に経過し、ライリューンは、キョーカミトバ州の ホームカンシ教神殿に帰ってしまった。
そして、わたしは、冷凍うどんを作った後、冷凍チャーハン、冷凍グラタン、冷凍春巻、冷凍唐揚げなど、冷凍シリーズを いくつか作ることに成功した。
飛翔師兵の部隊にも 冷凍食品の一部が導入されたため、ライレーン商会は、フル稼働で大忙し。 急速冷凍の魔力を込めるために、大勢の飛翔師学院の生徒を アルバイトに雇っている。
ライリューン商会の 冷凍食品工房のド真ん中。
そこに設置されているのは、『魔石』と みなが呼ぶ キラキラ輝く石。
アルバイト学生たちは、この石に 魔力を込めている・・・。
うん。 そういう話になっている。
工房中央にある台の上には、五芒星 ☆ の形に 6個のジルコニウム石が並ぶ。
その頂点に、紫色、青色、緑色、黄色、オレンジ色の石。
そして、星の真ん中には、ピンク色の石が置かれる。
実は、この6個の石には、全く意味は無い。
色が違うのは、ジルコニウムの上に形成してある 透明な酸化被膜のため。
表面に、うすーい透明な皮膜があるため、そこを通過した反射光が、薄膜干渉によって、いろんな色に見えるのだ。
この被膜、薄さによって色が変わるため、ちょっとした演出効果を狙って 星形 ☆ にしてあり、頂点には違う色の石を、そして、真ん中にも 違う色の石を 配置した。
これを作るためには、繊細な魔法技術が必要。
だって、紫の石の被膜、厚さは、0.00041ミリ。
青は、0.00049ミリ。
緑は、0.00051ミリ。
黄色は、0.00059ミリ。
オレンジは、0.00061ミリ。
ピンクは、0.0069ミリ。
ホントに、すごく薄い。 そして、その微妙な被膜の薄さの違いで、色が変わっているのだ。 いやぁ、私の金魔法と木魔法と風魔法、上達したなぁ。
この五芒星 ☆ 台の 地下深くに安置してあるのが、魔力を貯めておく装置。
ナカヨシの砂をたっぷり使った『貯魔力槽』だ。
つまり、アルバイト学生たちは、地上にある星型 ☆ に配置された石に 魔力を込めているつもりで、地下の『貯魔力槽』に魔力を込めている。
こんなめんどくさいことをした理由は、『貯魔力槽』の悪用を避けるため。 魔力槽の重さは、ボーリング玉程度で、大きさもスーツケース程度のサイズなので、大人1人居れば、簡単に盗み出せてしまうのだ。
そして、困ったことに これを手に入れた人は、わたしや、ナカヨシ並みの魔力を 簡単に扱うことが出来るようになる ・・・魔力を込める人さえ 確保できればだけれどね。
悪意を持った人が、そういう問題を起こさないように、目立つ石を わざわざ『魔石』なんて名前で呼んで、意味のありそうな形に配置した上、石の色を それぞれ変える 小細工をしたのだ。
『貯魔力槽』については、開発したわたしと、ナカヨシしか存在を知らないので、みーんな 石をありがたそうに眺めながら、魔力を込めている。
そして、地下にたっぷりと魔力を貯め込んでおいて、急速冷凍用の魔法道具に、その魔力を流し込むことで、食品の急速冷凍を行っているのだ。
この急速冷凍用の魔法道具。
実は、ナカヨシが、かなり前に作ったけれども、商品化できなかったアイテムだ。
というのも、ナカヨシレベルの人間が、魔力を込めないと 作動しないから。
たぶん、わたしか、ナカヨシか、イアンくらいでなければ、使うことが 出来ないんじゃないだろうか?
この装置の機能は、風魔法を使う二段圧縮方式の冷凍だ。
マックフライ砲に近いけれど食品を破壊しない形で、二段に圧縮された 冷たい空気を食品にぶつける。 そして 装置内に冷風の乱流を起こし、冷たい風が 試料を包み込むようにして 一気に冷凍することとなる。
この方式の冷凍は、冷たい空気が、均一に かつ 同じタイミングで 伝わらなければ、凍結速度に差が生じ、凍る所と凍らないところが 出来てしまう。
これを解決するためにナカヨシが、この装置に加えたのが、魔気誘導束と魔磁波だ。
魔気誘導束とは 空間内の曲面を通り抜ける 魔気場の流束のことで、空間を曲線状に移動する、目には見えない魔力の流れのことである。
そして、魔磁波は、魔場と磁場の変化を伝搬する波のこと。
急速凍結の環境下で、この 均等魔気誘導束と魔磁波を加えて冷凍すると、食品・食材が凍る時の氷の粒『氷核』が、とても小さくなる。
氷核が小さいと、冷凍による劣化を抑えた状態で凍結することができ、食品の細胞破壊を防がれる。 このナカヨシ製冷凍装置は、解凍時の鮮度や食感、風味を維持することにも繋がるのだ。
そうしてこの魔法道具は、工房の地上部に置いてある。 これを単独で盗まれたところで、使うことが出来る人は、まず居ないし、そもそも盗むには、大きすぎる。
でもね、この埋設が、大変だった。
いや、地下に『貯魔力槽』を埋設するだけなら、そこまで問題なかったんだけれど、地下トンネルを掘ると ナカヨシが言い出したのだ。
アンターナッハ商会の工房、ライリューンカジノ、ライリューン商会の冷凍食品工房、キョーカミトバ州のキョウテンドウの工房の近く、そして、飛翔師学院のナカヨシ研究室。
これらの施設の地下を、トンネルでつなぐ・・・。
可哀そうなことに、わたしは、3か月間、地下での強制労働に 従事することになった。 ほんと、可哀そう・・・。
地盤が固い所は、いいんだけれどねぇ・・・。 やわらかい場所は、掘ったそばから 崩れる上に、砂が多い所は、ホコリも多い。
おかげで、土魔法の 繊細な制御が出来るようになったけどね。
ん? アレックスのお弁当?
あれは、冷凍食品と、レンチンの魔法道具のおかげで、頑張らなくてよくなった。 なので、わたしが、地下にこもってる間は、ナシだね。 まぁ、終わったら持っていくよ とは 言ってあるけれど、たぶん 頻度は減るだろうねぇ。
ということで、地下トンネルは ほぼ完成したし、ライリューン商会のおいしい冷凍食品は、市場を席巻している。
いやぁ、疲れた・・・めでたしめでたし。
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えっ? ナカヨシ、まだトンネル掘るの? わたし、そろそろ太陽の光が見たいよ。
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蛇足1.マックフライ砲の応用?
今日、久しぶりにてりやきマックバーガーを
食べました。
もちろん、マックフライポテトも。
帰ってきたら、今月24日からSサイズ以外は、
販売休止のニュース。
得した気分になりました。
まぁ24日から1週間だけな上、
Sサイズを複数個頼むのはOKらしいので
ただ、気持ちの問題なんですが。
蛇足2.ジルコニウム石?
宝石卸商協同組合は、12月20日、63年ぶりに
誕生石を改定して新たに10種類の石を加えると
発表。
あら?新たに加わった石・・・
12月に、ジルコンの名前が!
タイムリーですね。
蛇足3.本当は・・・
冷凍うどんのあとは、ある場所で、
火事が起こる予定でした。
さすがに、ちょっと書く気持ちに
なりませんでした。