3-09.冷えたお弁当は、もうヤダ
わたしは、その日、寮へは帰らなかった。 イアンやガネッセが、お家・・・ つまり、ウェンディの美容室のほうに 泊るので、そちらに帰ったのだ。
バラや、ベルのお墓の 手入れをしながら、ガネッセが言う。
「うかつに、この話をすれば、大変なことになります。
証人となられたのは、あまり良いことでは ありませんな。
下手をすれば、政変に 巻き込まれます。」
「仕方がないだろう。 アリーは、居合わせただけだ。
そもそも、第一王子の婚約者だ。
どちらにしても、騒動が起これば、巻き込まれる。」
「いえ、証人となったことが、問題なのです。
ヘドファン家が、第一王子に 加担したことになります。
積極的に、第二王子に 敵対したということです。
パオラ妃への 攻撃とみなされるでしょう。
ディブリア家との関係が 微妙になります。」
イアンは、わたしを、かばってくれているみたいだけれど、ガネッセは、わたしよりも ヘドファン伯爵家のことを 考えている感じだね。 まぁ、立場的に仕方ない。
でもね、第二王子フィリップスの側近が、王都警備隊に捕縛されたという話は、厳重に秘匿されている。 当然だね。 王都警備職は、第一王子アレクサンドロス。 そのため、この話が広がれば、第一王子と第二王子との間に 確執があると、宮中スズメたちの 格好の話題になってしまうから。
[美容師の娘] 【 3-09.異物検知魔法で検知しよ 】
そう・・・ 秘匿されたはずだったんだけどね・・・。
「どういう状況なのじゃ?
話に聞けば、アリーも現場にいたという噂じゃが?」
翌朝には、なぜか、ナカヨシが 話を聞きたがっていた。
「王都中の噂じゃよ。」
なぜか、王都中に逮捕の噂が舞っているらしい。 それも、庶民の間に。
――第二王子の側近が、理不尽にも、逮捕された。
この噂が、王都の酒場から一晩のうちに一気に広がっていったという。
「パオラ妃が、暗躍しておるのじゃろう。
噂の広がり方が、尋常ではないからの。」
辻切りの話を広めたら、第二王子が 困りそうなのに・・・。
「ほう。それは、初耳じゃ。第二王子が、行っていたのか。
まずいの。それは・・・。
現場を押さえられた場合、王家への信頼が崩れる。」
どうやら、こちらは、すでに第二王子だけの問題じゃなくなっており、状況が 明るみになった場合、王家への 民衆からの信頼がガタ落ちになるため、間違っても、フィリップス王子が 人を切る現場を押さえて捕まえるには、いかないみたい。
「じゃ、何もなく第二王子の家来を逮捕したって?
そういう話になってるの?」
「そうじゃな。逮捕するほどでもない微罪という噂じゃ。」
「でも、悪いことをしたとは思えない子供が死んでたんだよ。
明らかに、おかしいのは、フィリップスと側近だと思う。」
「うむ。 むずかしいの。
その供述だと、側近が、子供を切ったことになる。
それでは、あとで 矛盾がでるじゃろう。」
――第二王子の側近が、子供を切り、それについての証言で、虚偽説明をした。
このように、公表した場合、困った事態におちいりかねない。 それは、真犯人のフィリップス王子が、新たに辻斬りをしてしまった場合だ。 民衆に、アレックスが、犯人ではない人間を、誤認逮捕したと 思われかねないのだ。 下手をしたら、第二王子を陥れるために、罪のない第二王子の側近を逮捕したと 言われかねない。
「パオラ妃は、当然、それを狙っているのじゃろう。
フィリップス殿下が、辻斬り犯とは、絶対、公表されぬ。
というより、公表できぬからの。」
王家としては、そのようなことは、公表できない。 でも・・・
「でも、それだとフィリップス王子、危なくない?」
「そうじゃの。しかし、恐らく、その警戒は、しておろう。
毒じゃな・・・。」
辻斬り犯とは、公表できなくとも、病死してもらうことは、あり得る。 いくら王位継承権2位とは言え、さすがに、王が躊躇することはないだろう。
「アリー。 逆もあるのじゃよ。
アレクサンドロス殿下の命も、危ないのぉ。」
「え? なんで?」
「フィリップス殿下を 殺させないためじゃな。
パオラ妃なら、やりかねぬ。」
今の所、フィリップスの次の継承権を持つ者は、まだ小さな赤ん坊しかいない。 アレックスさえ死んでしまえば、第1位となるフィリップスを殺す選択肢が 無くなってしまうらしい。
政治って、怖いね。
「アリー。今後、食事は、王子と一緒に摂るように。
教えた異物検知魔法で、全てチェックせよ。」
えー。 アレックスと、毎食一緒に食べるの? やだよ・・・。
「アレクサンドロス殿下のことが、心配でないならよい。
殿下も 警戒はするじゃろう。
しかし、何事も、100%というのは 無いのじゃ。
やれることは、やっておいた方が、後悔せぬぞ。」
はぁい・・・。
こうして、わたしは、アレックスと食事をとることになった。 しかも、わたしから、一緒に食事しようよって 言わなきゃダメって、何の罰ゲームよ。
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それでも、アレックスとの食事は、楽しくないわけではない。 内容も、豪華だし・・・。 だけど、『サーモンのマリネ シトラスソース 香草フルーツ添え』とか、『袋に包まれた真鯛のスープ』・・・みたいな、どこのレストランよって 思うメニューばかりなのは、けっこうキツい。
さて、毒見において、食物の安全性は、毒見役が食事後に、体に異常がないかどうかで確認される。 そのため、毒見は 急性毒に対しては効果的であるが、遅効性の毒に対しては、そこまで効果的ではない。 とはいえ、毒見後60分間は、その食事は 放置される。
ってことで、毒見後だから、お食事って、冷えてるのよね。 冷えてるスープって、正直、マズい。 温かいものは温かく。冷たいものは、冷たい状態で 出してほしいわ。
通常、1回の食事のために いつも10人前が用意される。 そのうち3人前は、毒見役のための毒見用。 毒見を通過した御膳のうち、王子が実際に手を付けるのは、1人前。 どの料理を食べるかは、作った人間には分からず、残りは 廃棄されることになる。
その夕食、毒見後のスープが光った。
『袋に包まれた真鯛のスープ』は、一口大に小さく切り分けた真鯛の身を、卵で作った袋で1個ずつとじた具の入ったスープだ。 鯛と、香草の香りが、袋の中に閉じ込められており、噛んだ瞬間に口の中に、その味と香りが広がる。 ・・・ものなんだけれど、光った・・・。 異物検知魔法。
あぁ、手が込んでるわ。
ということで、もう一度、毒見をしてもらうこととなる。
王子の毒見は、「御膳役」と呼ばれる食事を運ぶ者と、調理担当者が毒見をする。 そうして、問題が無ければ、王子の側近が最終的に毒見をし、安全を確認した後に、わたしたちの食事の時間になるわけだ。
作ってから2時間後の冷えたスープって、食べる気が しないんだけどね。
「アレックス。 コレ、食べるのちょっと待ってよね。」
まぁ、毒が入ってるのが分かってて、毒見役の人に食べてもらうのは、流石に気が引ける。 というより、食べてって言うのは、私には無理。
だから、これを食べるのは、犬。
しかも、とっても小さい子犬。 なぜかというと、体の小さい犬のほうが、致死量が 少ないから。 つまり、死ぬまでの時間が 早いから。
こうして、かわいそうな子犬が、15分後に血を吐いて 倒れるまで、お食事は おあずけ。 しかも、おなか減ったのに、子犬が倒れる瞬間が 目に焼き付いてて、食欲が わかない。
ノイローゼに なりそうだわ。
結局、卵でとじた鯛。 この身のひとつに、毒が仕込まれていたみたい。 運悪く? 運良く、毒見役が、毒を仕込んだ身に当たらなければ、時間が経過することで、その袋の中から、スープに毒が溶けだす という手法を取っていたのではないか? と、アレックスは言う。
毒見を すり抜けていることから、この方法だと、調理中ではなく、食事中に 毒が盛られたとの 勘違いが起こる可能性もあり、相手を殺すことが出来なくとも、対象の陣営の内部を 疑心暗鬼にする 種を仕込むことが出来るのだとか・・・。
ほんっと、手が込んでる。
「これでは、食事が、ままならない。
私は、アリーの作った料理が食べたい。」
じぃぃっと、私の目を見ながら、アレックスが言う。 こういう時、イケメンは、ずるいよね。 こうして、お食事に困ったわたしたちは、自分で料理を 用意することにした。
料理人たちが作る10人前の料理は、王子が食べたことにして全て廃棄。 今までも、食べない皿は 廃棄しているから、実際に、用意した食事を食べたかどうかなんて、分からない。 なので、一応、食べたことにしておく。
婚約者のわたしが、アレックスと一緒に食べるということで、食事の形態は、部屋で、2人っきりで・・・ という建前で、何を食べているかを 側近にも 見せないことにしたのだ。
わたしとマーガレットが、1日3回お弁当を作る・・・。 何、この苦行・・・。 マーガレットが、毒を盛るとは思わないけれど、1個1個 食材に異物検知魔法をかけて、出来上がったお弁当にも、異物検知魔法。 そうして、布で包んで、わたしの荷物を運んでいるかのように、寮のアレックスの部屋へを向かう。 途中、通過する階段の隅に、フィリップスの姿を 見た気がしたけれど、気にしない。
しかし、作ってから2時間以上たった、冷えたお弁当・・・。 お弁当だから、冷えていても美味しいんだけれど、温かいのが 食べたい。
「ねぇ、ナカヨシ。
食事を 温める魔法ってない?」
研究室に戻ったわたしは、ナカヨシに尋ねてみた。
「ないのぉ。しかし、無ければ作ればいいのではないか?
これまでも、そうしてきたじゃろう。」
んー。 普通に火魔法を使って、温度を上げれば『温め』は、できそう。 だけど、私が毎回やるのも面倒。
そうだっ。『温め』の魔法道具を作ろう。
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こうして、わたしは、『温め』の魔法道具を作ることになった。
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今日、コンビニで、弁当を温めた人は、高評価を押して次の話へ⇒
蛇足1.オミクロン
世界保健機関WHOが新型コロナウイルスの
新たな変異株を、ギリシャ文字の15番目の
「オミクロン」と名付けましたよね。
今回は、2文字飛ばの命名だそうです。
3-08.オリンピュアス、自制しようね。11/28 09:00
https://ncode.syosetu.com/n6487gq/168/
蛇足1.参照
ギリシャ文字の15番目の「ξ クシー」が
英語で、「Xi」となり「習」の英語表記と同じに
なるため、中国を意識して、これを避けたと
言われています。
WHOによると、ミューの後に来る「ニュー」は、
英語で「新しい」を意味する「NEW」と発音が重なり、
誤解を生む恐れがあった。
その次の「クシー」については、
「一般的な名字なので使用を避けた」そうです。
国際問題を生まないための配慮は、素晴らしいと
感じました。
そういえば、確か、日本のコロナ対策分科会の会長の
お名前が、尾・・・
蛇足2.議員バッジ
議員記章とは、衆議院議員及び参議院議員や、都道府県市町村
特別区の議会議員が着用する記章で、議員バッジと呼ばれます。
国会では、原則、国会議員が本会議場に入場する際、
議員バッジを着用しなければならない。とされます。
本人が申請すればカード式身分証が交付されますが・・・。
逸話としては、福田赳夫首相が、バッジをつけ忘れて
衆議院議場に入ろうとして、衛視が制止。
あわてて辺りにいた、当時の森喜朗内閣官房副長官から
バッジを借りて入場したとか・・・。
止めた、衛視・・・。と思います。
議会をやるのに、首相の入場を止めてどうするの・・・。
身分が分かってる人をとめるなんて意味が分かりません。
しかも、借り物のバッジがあればOKって、それも・・・
借りて入ることが出来るなら、最初から通す。
通さないなら、借り物では入れない。
が、正解の気がします。
身分証明じゃないの?って思います。
大阪府議会では、昭和6年から使われる、金色歯車と銀色梅花の
組み合わせの特別製の金属製バッジで、金や銀を素材に金めっき
などがほどこされ、製作には、1つ2万2000円かかります。
梅は、大阪府の花。盛んな工業生産を象徴して、歯車。
というわけですね。
そんな議員バッジですが、今後は、大阪産のひのきを使った
4000円の木製のバッジと、より安価な3700円の
金めっきバッジの2つを交付することとしたそうです。
しかも、選挙で当選するたびに新しいバッジを交付していた
ところを、 再選の場合は、同じバッジを使うことにするとか。
2つを交付するのは耐久性を考慮したため。
うん。大阪のひのきを使いたかったのは分かるけれど、
耐久性を考慮したなら、3700円の金めっきバッジだけで
いいんじゃないか?とは、思わなくもありません。
それでも、定数88人の議会で、一人14300円の削減。
全員で、125万円。
で、再交付しないとなると、一応、経費削減にはなりますね。
4000円の木製バッジをやめたら160万円・・・。
大阪府議会という大きさを考えたら、金額は、小さく感じます。
しかし、経費削減を積み重ねることが大切なのかも
しれません。