3-07.王子からプレゼント
ライレーンのネコたちは、すっかり 大人しくなった。 あんな単純な魔法で、性格が変わるなんて、ちょっとビックリだ。 紅茶を一口飲み、時間を見ようと 時計を見上げて、ここが、ナカヨシ研究室だったことを 思い出す。
ここでは、時計は、時間を見るために掛けられているのではないのだ。
ナカヨシ研究室の壁には、不思議な時計がかかっている。 この時計、針もあるし、一応 動くんだけれど、時間を 知ることが出来ない。 じゃぁ何のためについてるっかって いうと、防犯のため。
実は、この時計、研究室にいる人に敵意を持っている人間が近づくと、赤く光る。 光魔法を使ったナカヨシ謹製の魔法道具だ。 代わり得るものがない貴重な魔法道具ではあるが、公開してはならない機密でもある。 光魔法は、帝国の皇室に伝わる血族魔法であるからだ。 王国の闇魔法、そして帝国の光魔法。 これらは、皇家に連なる者、あるいは、王家に連なる者でなければ、使うことが 出来ないとされている。
うん。 私も、ナカヨシも使えちゃうんだけれどね。 だから、見つかったら大変っ。
その時、壁にかかった 時計が 赤く光った。
[美容師の娘] 【 3-07.お前は、私の婚約者なのだから 】
敵の来襲っ!
ってわけではなく、来たのは、案の定、第一王子アレクサンドロス・・・ アレックスだった。
ホント、ナカヨシのことが嫌いなら、研究室に、来なきゃいいのに。
「アリー。 表に出てみてくれ。
きっと、ビックリするぞ。」
・・・子供みたいに 顔を くしゃっとゆがめて笑う。 子供みたいっていうか、子供だな。 わたしも アレックスも。
仕方ない。 赤く光る時計に 気づかれても困るし、お外に出よう。
アレックスが、開けてくれたドアを ぴょんと飛び出る。 ん? あれは、ガネッセ? なんで、西の辺境の老代官が ここに居る?
「アリー様、お久しぶりでございます。」
ほらぁ、ちゃんと喋ってる。 昔の ふにゃふに言葉って、やっぱり演技じゃん。 ずるいよ。
「あっ。 イアンっ。」
私は、彼に、思わず飛びついた。 イアンが、来ていたのだ。 父は、少しびっくりした顔をした後、私を抱きしめた。 そういえば、イアンと こんなに離れ離れで 暮らしたのは、はじめてだった。
「アリー、大きくなったな。」
いや、1年でそんなに背が伸びるわけない。 そう言いたかったけれど、泣いちゃいそうで 声が出ない。 私は、イアンの服に、顔を押し付けた。
「ガネッセ殿。 アレをお願いしたいっ。」
「少々お待ちください、殿下。 少し遅れておりましてな。」
んー。 王子とガネッセが、私とイアンの感動の再開を 邪魔しようとする。 空気を読めないやつらだなぁ。
「アリーっ、見てくれっ。
お前のために、用意してもらったんだ。」
アレックスが、私を呼ぶ。・・・わたし、まだ、イアン成分を補充したいんだけれどねっ。 仕方なく顔を上げ、後ろを見ると、アレックスが、手綱を引いていた。 その後ろには、ベルと同じ栗毛の馬。 王子からプレゼント・・・ たぶん、普通の女の子なら 頬を染めて 喜ぶところなんだろうけど。 品物が、馬だしね。
「ブロンドアート号だ。
わざわざ西の辺境まで行って、選んできたんだぞ。」
「東ハルサまで 行ってきたの?」
「いや、さすがにそこまでは、行っていない。
今、あそこは内乱が起こって政情不安だ。」
「王子は、ヘドファン領まで、お越しになられました。
私が、東ハルサから連れて帰った 馬でございます。
20頭くらい居たのですが、王子が、この仔を選ばれました。
アリー様、どうぞ お乗りになってみてください。」
ふぅん。 ガネッセ、すごいね。 内乱が起こっている 東ハルサに行って 帰ってきたんだ。 イアンの腕から離れ、馬の前に立つ。 そして、王子の手を借りながら、ゴールドアート号の背にまたがってみた。
「ん? ちょっと、ベルに似てる?」
栗毛もそうだけれど、比較的小柄である所や、きれいな毛色の品格、立っているバランスも よく似ている。 うん、小さくて、華奢で、可愛い感じといった感じの馬だね。
「そうですね。
この馬のおじいさんが、マンデーサイレンス号です。
マンデーサイレンスは、ベルデイアンのお父さんですから。
ちょっと似ている所はあるのかもしれませんね。」
あぁ、ベルと、ちょっとだけ 血がつながってるのね。
ガネッセによると、ブロンドアートの父親は、ステイブロンド号。 オリンピュアス大祭の、競走馬11.5スタディオン走で外枠10番で走った馬だ。この馬のお父さんが、マンデーサイレンス号。ベルの父親だという。ちなみに、母親の名前が、エキゾチックアートと言う名前のため、お父さんのブロンドと、お母さんのアートをくっつけて、ブロンドアートと言う名前になったらしい。
「サイレントベルデイアンは、可哀そうなことになった。
だけれども、いつまでも 引きこもっていたらダメだよ。
せっかく、王子が、新しい仔を 連れてきてくれたんだ。
遠乗りにでも、行ってきたらいい。」
イアンは、笑って私を見上げながら、言う。
うーん。 ブロンドアート・・・ ブロンドアート・・・ アーちゃん? ・・・なんか違う。 ブロン? いや、ブロー かな? うん。呼び名は、ブローだね。
わたしは、たてがみを撫でて、ブローに言った。
「遠乗りに行く?」
あぁ、この仔 とっても賢い。 わたしの言葉が理解できたのか、うなずいた。
「ブースケパレーをっ。」
王子の側廻りが、黒馬を引いてきた。 誰の助けも借りずに、アレックスが 馬に飛び乗る。
「アリー。 行くぞっ。」
アレックスは、そう言うと馬の腹を蹴り、走り出した。 ちょっ、飛ばしちゃダメだよ。 この仔に乗るの初めてだし、小さな仔なんだから。
「じゃ、行ってくるね。」
わたしは、イアンに声をかけて、アレックスの後に続いた。 久しぶりに駆ける空気は 気持良く、ベルがもう居ないことを 忘れそうになるほどだった。
駆けて行った先のリンゴの木は、そのままで、ただ、あの子だけが居ない。
「どうした?」
「あ・・・ いや、なんでもない。」
=== ===== === ===== ===
ブローに乗ったまま 振り向くとと、いつもと同じ王子の笑顔があった。
「なにかあったら 遠慮なく言ってくれ?
お前は、私の婚約者なのだから。」
=== ===== === ===== ===
日曜日が、何日か分かっている人は、高評価を押して次の話へ⇒
蛇足0.25日の金曜日・・・
活動報告より
次話投稿は、【2021/11/25 09:00】を、予定しております
更新は 金曜日の予定です
「美容師の娘」をお読みいただきありがとうございます
いつだよっ!
ごめんなさい。金曜日は、26日でした。
蛇足1.オルフェーヴル
オルフェーヴルは、日本の競走馬。
皐月賞、東京優駿、菊花賞、宝塚記念、有馬記念2回などを制覇。
また、フランスの凱旋門賞を2年連続2着など、海外でも好走。
東日本大震災の年に三冠(皐月賞、東京優駿、菊花賞)を
達成した名馬です。
父ステイゴールドの父はサンデーサイレンス
母は、オリエンタルアート
ゴールドと、アートと言うことで、ゴールドアートではなく、
金の芸術品、金細工。そこから、フランス語で
オルフェーヴル・・・金細工師と
名前をつけられたそうです。
そんなオルフェーヴルですが、作中のブロンドアートとは、
まったく全然これっぽっちも関係ございません。
蛇足2.ハマス ヒズボラ
イギリスが、ハマスを、
オーストラリアが、ヒズボラをテロ組織に指定したとか・・・
どっちも、イランと繋がりが大きい組織なんですけど
なんとなく、今まで以上に中国とイランが
仲良くなりそうな気がしてきました。
仲がいいことはいいことですね・・