3-06.そして、2年目が始まった
にゃー にゃー にゃー
いつの間にか、私は、学院の2年生に なっていた。
飛翔師学院は、1年で 辞めるつもり だったんだけど。 んー。
いま、ナカヨシ研究室には、ナカヨシと わたしだけ。 ライリューンもライレーンも居なくなっちゃったもんねぇ。
にゃー にゃー
「あぁ、もぉ うるさいっ。」
キャットフードの袋を 投げつけると、ネコが 後ろに飛びのいた。
2年目の生活は、いつもとそう変わらない。 猫さえ いなければ・・・。
にゃー にゃー にゃー
「で、あのキャットフードは、いつ無くなるのじゃ?」
2年生になる直前に、ナカヨシの所に話をしに行った所、いきなり、空き部屋のドアを指差された。
「・・・。」
そう、ライレーンのキャットフードが、空き部屋に 山積みになっていたのだ。 いや、ライレーンのじゃなくて、ライレーンの猫のキャットフードだけど・・・。
[美容師の娘] 【 3-06.この猫、メチル化しておるな 】
アリーへ
言うの忘れてたけれど、ネコちゃんたちを お願いね。
まぁ、最近は、私たちの寮じゃなくて、
ライリューンに くっついて、
研究室に 住み着いていたみたいだから
そっちで 餌をあげてくれたらいいよ。
じゃねっ。
ライレーン
ヤラレタ・・・ ライレーンに、やられた。
猫を置いていった。 しかも、研究室に・・・。 空き部屋の キャットフードも、そのまま。
わたし、入学から 約束の1年が経過したから、「王立 飛翔師 学院を辞めて、美容師 学院に 入学できる。」って、思ってたんだ。 それを相談しようと、ナカヨシの所に行ったら、空き部屋のキャットフードの袋について 問いたださた。
確認に行った 空き部屋で見つけたのは、キャットフードの袋の山の上にあった、1枚のお手紙・・・。
賭け事の時も そうだけれど、ライレーンは、こういうズルいことを、ホントに 上手く仕掛けてくる。 やられてから、気づくんだよね。 なんか、クリスタルグラスを作り出したころから、研究室外の窯の周りに ネコがいっぱい いるなぁ とは、思ってたんだけど。 おそらく、その頃には 計画してたんじゃ ないかな?
ってことで、ネコの世話をしてたら、なし崩し的に 2年生をやることに なっていた・・・。
にゃー にゃー にゃー
「うるさいっ。」
このネコたち、回避が上手い。 餌の袋を投げようが、火魔法を打ち込もうが、全てを避ける。 ライレーンは、どんな、育て方を してたんだろう?
「あぁ、イライラする。」
ドーーーーーーン
軽くマックフライ砲を打ち込んでみるが、簡単に 飛びのいて 避けてしまった。 おっかしいなぁ。 空に浮かぶ月も、破壊できそうな技なのに・・・。
しかし、このネコ、私と視線を合わさない・・・。 攻撃してくる相手の 視線を見ないで、マックフライ砲を避けるって、どんな反射神経しているんだろう?
「こりゃ、壁に 穴が あいとるぞ。
帰るまでに、直しておくのじゃぞ。」
あぁ、今のマックフライ砲で、壁に穴が開いている。 やることもなかったので、土魔法で 軽く壁を直した後、寮へと 戻ることにした。
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「おかえりなさいませ。 アリー様。」
マーガレットの機嫌が悪い。
「もう、やっとカジノ編が終わったのに・・・。
出番が増えると思ったら、ネコの毛の処理ですか。
やってられないですね。」
絨毯や、私の服にくっついた、ネコの毛を 掃除し過ぎたせいなのか、それとも、更年期か何かでストレスがあるせいか、おかしなことを 言うようになってしまっている。
んー。 生活としては、何も変わっていないはずなんだけれども、ライリューンたちが 居なくなってから、なんとなく 全てが うまくいかない感じ。
にゃー
そして、1匹だけ、連れて帰っている子ネコ。 この子は、ライレーンが、消毒用エタノールをかけて、火のついた割り箸を近づけて 点火したために、火傷を負ったネコだ。
飛ばした火魔法は、避けることが出来ても、さすがにエタノールをかけられていたら、回避は不能だろう。 かわいそうに・・・。
だけれども、この子も、マーガレットのストレスの元であるのだろう。 火傷が治ったら、研究室隣の窯スペースに 戻した方が良いかもしれない。
だけど、ケンカばっかりするのよね。 ライレーンの猫たちって・・・。 社会性が無いと言うか、見ると ケンカしてるか、寝ているか、食べているか って感じ。
火傷ネコに、餌を上げたわたしは、ゴロンと ベッドに転がる。 あぁ、なんか憂鬱だわぁ。
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翌日、研究室に向かうと、外でネコを撫でているナカヨシが居た。 めずらしい。 ナカヨシが、ネコに 構っているのを見るのは、初めてだ。
「アリー。 このネコたち、メチル化しておるぞ。」
はぁ? メチル化? 何それ。
「オキシトシン受容体の DNAメチル化じゃな。
明らかに、社会性が 無い。
お主、どんな育て方をしたのじゃ?」
いや、どんな育て方って、もともと、わたしのネコじゃないし・・・。 ライレーンが、育ててたんだよ。 で、オキシトシン受容体のDNAメチル化って 何?
下垂体後葉ホルモンである『オキシトシン』と、『バソプレシン』は、学習や記憶、社会行動、愛情・不安・抑うつなど、様々な生理現象に関与している。
そのうち『オキシトシン』は、母性ホルモンとして、抗不安作用を発揮する。
幼少期に保護者との間で、相互的な愛情のやり取りが出来ていないと、オキシトシンの分泌低下が起こり、社会性に 問題が発生しやすくなると言われ、オキシトシンの分泌低下は、不安感や孤独感を増し、ストレス耐性についても弱くなり、他者に対しての攻撃性が強くなる傾向に繋がる。 また、子育て中の母親は、オキシトシンレベルが高くなると言われるが、幼少期の虐待経験を持つ女性では、妊娠期でもオキシトシンレベルが低く、不安スコアが 高い。 つまり、子供への愛情が 低くなるのだ。
これらの性質から、『オキシトシン』は、『幸せホルモン』や『愛情ホルモン』とも呼ばれる。
そして、生育環境の影響が、遺伝子の発現に影響を与えることも、分かっている。
そのシステムのひとつに、『DNAメチル化』というものがある。 この『DNAメチル化』が起きると、その遺伝子は、遺伝子の発現は 起きなくなるのだが、『虐待』によって、オキシトシンレベルが低くなる現象には、このシステムが働いていると言われている。
幼少期に虐待をうけたネコは、オキシトシン受容体のDNAがメチル化を起こし、オキシトシン受容体の発現が抑えられた場合、『愛情ホルモン』である『オキシトシン』が、働くことが出来なくなり、ネコの社会性は、低くなる。また、ストレスに対する耐性も 弱くなる。 周りへの攻撃性が増大し、ケンカばかりすることに なるのだ。
うん、まさに ライレーンのネコたちだ。
しかも、DNAのメチル化は、虐待を受けた世代では、可逆的であると考えられるが、次の世代に継承される場合があり、親世代では、環境要因で起きた元に戻ることが出来る可逆的変化が、子供世代では、先天的な遺伝的特性として定着し、不可逆的な変化になる可能性も 指摘されている。
環境要因に対する適応として、一時的な現象として起きた事象も、次の世代に引き継がれてしまうと、遺伝子が変化を起こし、固定化されてしまうのだ。
うーん。 イアンや、ウェンディ、子供のころ、虐待されてなきゃいいんだけど・・・。 虐待されてたら、わたしも、愛情ホルモンが、働かないかもしれないもんね。
そんなことを考えていたら、ナカヨシが、魔法を発動した。
デメチレーション ~ 脱メチル化っ
『脱メチル化』反応は、木材に多く含まれる『リグニン誘導体』に多いエーテル・・・ その中でも、アリールエーテルの開裂反応が、代表例となる。 一般に この反応には、強い試薬と条件が必要で、たとえば「ナカヨシ印 バニラの匂い」に使われている『バニリン』のメチルエーテルであれは、温度は250度で、強いアルカリを用いて除去すること となる。
ナカヨシは、これらの面倒な条件を回避しながら、エーテルの開裂を行うために、脱メチル化 魔法『デメチレーション』を開発したらしい。
「うむ。
これで、オキシトシン受容体の脱メチル化は、出来たはず。
少しすれば、ネコたちも、おとなしくなるじゃろう。」
軽く言い残し、ナカヨシは、研究室に入って行った。
ふと、ネコを見ると、いままで1度も目を合わせようとしなかったネコが、私の目を見ながら、にゃーにゃー 鳴いている。
ふーん・・・ こんなに 早く 効果が あるんだ。
この魔法・・・ 子供のころの虐待とかも、魔法でどうにかなるんだね。 っていうか、ネコたちに、ひどい虐待している、ライレーンを 脱メチル化したほうが いいかもしれない。 ネコへの虐待を考えると、もしかしたら、虐待でも 受けていたのかもしれないもんね・・・。
そんなことを思いながら、わたしは、ネコを抱き上げ、頭を撫でた。 ネコが、小さくニャンと鳴き、ゴロゴロと のどを鳴らした。
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あぁ、服にまた毛がいっぱいついた。帰ったらマーガレットのご機嫌が悪くなりそうだ。
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どのくらいの高さまでなら落としても、ネコがきちんと着地できるか実験したことがある人は、高評価を押して次の話へ⇒
書き直す前までは、ネコのヒゲをライターで焼いたことがある人は、高評価を押して次の話へ⇒でしたが、焼いちゃダメですね。え?落とすのもダメ?
蛇足1.猫に火
飼い猫に火をつけてやけどを負わせた
大学病院の元検査技師に、11月5日付けで
簡裁より、罰金10万円の命令がでたそうです。
今年1月に書類送検されていたそうですが、
4月に不起訴になったため、検察審査会に
再審査を請求され、起訴相当と議決、
地検に再捜査をされていました。
結局、やったことは、1月8日に、
消毒用エタノールを、猫に浴びせ、
火のついた割りばしを近づけて火を
つけたとのこと。
その時期って、消毒用エタノールの
流通がなくて、困ってた頃ですよね。
突っ込まれどころが多い、悲惨な事件だと
思いました。
蛇足2.ペット店舗販売禁止で防げる?
3-05.二酸化炭素を吐き出さない 2021 11 21 09:00
蛇足2.ペット店舗販売禁止より
https://ncode.syosetu.com/n6487gq/165/
前話のフランス販売禁止で、こういう虐待を
ふせげるかな?って思ったのですが、
被害にあったのは、保護猫カフェから譲渡された猫
だったとのこと・・・。
ブリーダーから購入するか保護団体からの譲渡など
に限定するという部分では、防げませんね。
ただ、ペットを虐待死させた場合は、最大で禁錮5年、
罰金7万5千ユーロ(1000万円ほど)を科すことも
定めているので、罰金10万円よりは、抑止力が
ありそうです。
蛇足3.オキシトシン受容体のDNAメチル化
不適切な養育、虐待などを受けて育った子供は、
オキシトシン受容体の設計図となるDNA遺伝子配列の
一部が、同年代の子供に比べて、メチル化されている。
ということを、11月18日に福井大学などが、
解明したと発表していたみたいなのです。
んー・・・確か、2019年の5月にも、
福井大学が 同じ内容の発表をしていたような
気がしたのですが・・・
なんか、デジャブです。
蛇足4.DNAメチル化
DNAを構成する塩基のうち、Cに
ついている水素が、メチル基(-CH3)に変化すること。
塩基配列のある部分がメチル化すると、遺伝子発現が
制限されます。
蛇足5.オキシトシン 下垂体後葉ホルモン
オキシトシンは、母性ホルモンとして、抗不安作用を
発揮します。
また、ストレスや不安感を和らげ、気持ちを落ち着ける
作用を 持っています
蛇足6.バソプレシン 下垂体後葉ホルモン
バソプレシンは、父性ホルモンとして、不安行動を
増加させます。
また、大切な妻や子供を守るための、攻撃性や行動力を
高めるとされています。
蛇足7.バソプレシンとお酒
アルコールは、下垂体後葉から分泌される抗利尿ホルモン
『バソプレシン』の分泌を妨げます。
バソプレシンは、体内の水分を適度に保つように、尿量を
調節するため、分泌が抑えられると、必要以上の尿が
作られてトイレに行きたくなるのです。
お酒の席で、トイレに行きたくなるのは、このためです。