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3-05.二酸化炭素を吐き出さない

ゼオライトは、粘土鉱物の一種である。 規則的な管状の細孔を有し、空洞をもつ 陰イオン性の骨格からなる アルカリ金属、または、アルカリ土類金属を含む 含水アルミノ ケイ酸塩 だ。 構造の基本的な単位は、SiO4 あるいは、AlO4の 四面体構造で、これらが 3次元方向に無限に 連なることで、結晶を形成している。



この特徴を分離膜として利用するため、イツミ造船所が 作ったものこそ、ゼオライト膜だ。


この、ゼオライト膜の持つ力を利用して、混合流体から不純物を除去し、ボクのバイオエタノールを 精製するのだ。


「膜エレメントを搭載したシステムを、使わせてください。」


イツミ造船所で、インケート教授に面会したボクは、挨拶も そこそこに、ゼオライト膜エレメントを搭載した 膜分離システムを 使わせてもらえないかと、お願いした。


「はぁ、エタノールを 分離ですか・・・。

 それは、また 珍しいことをされますね。

 いいですよ。 ご自由に装置を使ってごらんなさい。」




[美容師の娘]  【 3-05.熱い口づけで 呼吸を止めて 】




ビックリしたのは、簡単に許可が下りた上に、負担する費用は、ゼロだということ。 無料で施設使用まで 認めてくれた。 どうやら、営利事業ではなく、研究目的の使用だと 勘違いしているようだ。 少しズルい気がするが、ここは、開発費用を抑えるためにも、深く考えないことに しておこう。



ゼオライトは、構造固有の細孔を持つ結晶である。 大きさは、通常0.2ナノメートル ~ 1ナノメートルの 分子径を持つ。 インケート教授のゼオライト膜は、アルミニウム含有量が 多い ゼオライトで、ナトリウムを 添加されている。これは、親水性が高いもので、細孔分子径は、0.4ナノメートル。 この大きさは、分子ふるい作用を考えると、脱水用の 膜材料として、ひじょうに優れている。


0.4ナノメートルサイズの細孔が 優れている理由は簡単で、水の分子径は、0.3ナノメートルであるのに対して、エタノールの分子径が0.5ナノメートルの大きさ ということで、この膜は、サイズの小さい水分子を 優先的に内部に透過させ、脱水する。これにより、エタノールの濃縮を 行うことが出来る というわけである。


発酵させて作った、エタノール中の不純物除去を除去するため、蒸留塔は、常圧のものとする。 常圧蒸留塔を用い、一旦凝縮し、次にこれを、気化させるのだ。 常圧とした理由は、加圧蒸留塔の場合、ゼオライト材料に吸着しやすい アルデヒドのような低沸系不純物の除去が 困難であり、洗浄などの作業が 必要になるため 手間がかかるといったものだ。 これは、インケート教授のアドバイスが、参考になった。


こうして、ゼオライト充填塔を通過することにより、含水アルコール中の水分は ゼオライトに吸着される。 ゼオライト充填塔の出口から、水分が除かれた、無水化高純度エタノールが取り出された。


よし、できたっ。


こうして、無水バイオエタノールを手に入れた僕は、カタト・モワ・カイ氏のもとを、再び訪れた。


「出来ました。

 これが、ボクのバイオエタノールです。」


「ほう、早いですね。

 もう少し 時間がかかるかと思いました。

 継続して販売できるようなシステムが、作れましたか?」


「そうですね。

 小金貨5~6枚程度の原価で、簡単に作ることが出来ます。

 使用量が増えれば、もう少し原価を下げられます。」


「なるほど、それならば、我々の倉庫を お貸ししましょう。

 もちろん、保管や輸送のコストは、支払ってもらいますよ。」


ありがたいことに、カタト会長は、ボクの 燃料用のバイオアルコールの販売に 協力をしてくれると言う。


このチャンスを逃しては、いけないっ。 ボクは、ナナコにも協力してもらって、アルコール燃料を使っている 事業所に営業をかけることにした。


「と、いうことなんです。

 今までより1割ほど高いだけです。

 しかし、二酸化炭素を 減らすことが出来ます。

 温暖化は、異常気象も招きます。

 今だけではなく、未来を見てくださいっ。」


温暖化は、人為的な温室効果ガスの排出を起源とする気温上昇が原因だ。 人間の社会・経済活動によって 二酸化炭素を中心とした ガスの排出が増加すると、気温は上昇する。 海面の水位上昇によって、海に沈む島が 出てくるだろう。 海面上昇による、高潮や洪水も 高い頻度で 起こることになる。 大規模な 森林火災をはじめ、水害や ハリケーン、干ばつ、農作物への悪影響、感染症の発生も、温暖化は関与している。 動植物は、急激な気候変動に対応できず、多くの種が絶滅に向かうであろう。


つまり、温暖化の進行は、この世界の死活問題なのである。


ナナコもボクも、足を棒にするという言葉の通り、奔走した。 回った事業所は、100を超える。


しかし、なぜか ただ1つの事業所も、ボクの バイオエタノールを 購入することは 無かった・・・。


なぜだっ。


ひとり 工房にたたずむ ボクに、ナナコが、声をかけてきた。


「イショーちゃん、何か 問題があるんだよ。

 飛翔師兵学院の先生に、アドバイスをもらったらどうかな?

 物知りだから、きっと 問題点を 見つけてくれると思うよ。」


確かに、そうかもしれない。 ナナコの助言を受け、ボクは、飛翔師兵学院へと 向かうことにした。


ボクが面会を求めたのは、エトリーヌ・チャト・ウィック女史。飛翔師兵学院の筆頭教授で、魔法公衆衛生学を教えているそうだ。


教授は、古くから、この学院で教鞭をとっており、話によると、伝説の女王アリーに、魔法を教えたことがあると 言うではないか。


エトリーヌ教授ならば、バイオエタノール販売について、何か良いアイディアを 出してもらえるはずっ。 とはいうものの、どちらかというと、ワラにすがるような気持ちで、教授の部屋を訪ねる・・・。


「二酸化炭素の 排出ですか・・・。

 おそらく、それは、売れないのではないでしょうか?

 無駄だと 思いますよ?」


「はぁ? 二酸化炭素は、温暖化を進めるんですよ。

 このまま、工業化が進んだら、大変なことになります。

 今か、将来か。ではなく、今も、将来も大切なんですっ。」


「もちろん、二酸化炭素の分子が振動することは知っています。

 その振動が、赤外線を吸収して、温められるのです。

 これは、故ナカヨシ教授の論文にも ある話です。

 しかし、わざわざ、そのようなことをしなくてもいいのです。」


わざわざ、しなくてもよい? 何を言っている? 温室効果ガスを減らすことは、喫緊の課題のはずだ。


「あぁ、コレだから魔法を使えない方は、困りますね。

 この手の平を、ごらんなさい。」


そういいながら、エトリーヌ教授は、自身の しわしわの手の平を開いて ボクに見せつけた。 するとどうだろう。 手の平の上に、キラキラとした石が現れたではないかっ。



「これは、ダイヤモンドです。

 手の上に、風魔法で、二酸化炭素を集めます。

 これを分離し、炭素と酸素に 分けるのです。

 そして、火魔法と 風魔法の 混合魔法を 使います。

 こうして、高温高圧をかけることで、加圧加温します。

 そうすると、このようなダイヤモンドが出来上がります。」


「だ・・・ ダイヤモンド・・・。」


「この、ナカヨシ教授が生み出した魔法があるのです。

 もちろん、ダイヤモンド作りには、大量の魔力が、必要です。

 しかし、魔力が低い人間であっても、黒鉛は、作り出せます。

 二酸化炭素は、簡単に減らすことが出来るものなのですよ。」


な・・・ 減らすことが出来る?? そんな魔法、ズルくないか?


「あなたのやっていることは、素晴らしいことですよ。

 良いアイディアですし、良い行動だと思います。

 しかし、ビジネスとしては どうでしょう?

 難しいのでは、ないでしょうか?」


予想もしていなかった エトリーヌ教授の話に、ボクは、打ちひしがれて、学院を後にした。



******************************



帰宅してから、イショーちゃんが、一言もしゃべらない。ご飯も口にしない。 どうしよう・・・。


「イショーちゃん、ご飯くらい食べようよ。」


「ナナコ、ボクのやろうとしたことは、意味がなかったんだ。

 もう、どうすればいいか 分からないよっ。」


なんだろう。 失敗して、全てを失ったような目をするイショーちゃんも、とても愛おしい。 私は、そっと、イショーちゃんの 頭を 抱きかかえた。


「イショーちゃん。 大丈夫だよ。

 失敗したって、やり直せば いいじゃない。

 それにね、二酸化炭素を減らすなんて、簡単だよ。

 ほら、こうすれば、もう出てこないわ。 ちゅっ」


イショーちゃんの口に、そっと 私の唇を 重ねる。


「ナナコ・・・。

 そうだ。 ボクには、ナナコが居る。」


「うん。 私は、ずっと イショーちゃんと 一緒だよ。」


やっと、顔を上げてくれた イショーちゃんと一緒に、ちょっと遅い晩御飯。 『春菊と鶏むね肉の炒め物』と、白菜と細ねぎがおいしい『かぼちゃの味噌汁』。 久しぶりに、2人でゆっくりした時間を 過ごすことが出来た。


そうだよね。 やっぱり、地道に コツコツ働くのが 一番よね。



次の日の朝、嬉しいことに、イショーちゃんは、すっかり 元気を取り戻していた。


「ねぇ、イショーちゃん。

 今日は、冒険者ギルドに登録して、薬草の採取に行かない?」


「いや、ナナコ。 違うんだ。

 電池だよ。 きっと時代は、電池を求めているんだ。

 水素生成菌を用いた 微生物燃料電池の事業を始めてみるよ。

 じゃ、ちょっと カタト会長の所に行ってくるっ。」


「えっ、ちょっと待ってよ。 ねぇ、イショーちゃんっ。」


もう、居ない・・・。 ドアを吹き飛ばすかのような勢いで、イショーちゃんは、消えていった。 もしかしたら、キスで 唇を ふさぐのではなく、濡れた布あたりで 口をふさぎ、二度と 二酸化炭素を発生させることが出来ないようにした方が よかったのかもしれない。



=== ===== === ===== ===



昨日の夜の残りもの・・・ かぼちゃの味噌汁と、ご飯・・・ そして、さっき 焼いたばかりの 魚を、一人で食べながら、ナナコは、小さくため息をつき、二酸化炭素を そっと 吐き出した。



=== ===== === ===== ===

今日、かぼちゃの味噌汁を食べた人は、高評価を押して次の話へ⇒



書いても書いても、着地点が全く見えずに、どうしようかと思いました。・・・疲れた。



蛇足1.Sustainable Aviation Fuel


 持続可能な航空燃料を、その頭文字をとって

 SAFと言います。


 原料に、石油を使わない燃料です。


 木材などのほか、食品廃棄物や廃プラスチックなど、

 さまざまなものから、燃料を作り出します。


 こうした燃料は、飛行機を動かしても、従来の20%

 程度の二酸化炭素しか排出しません。


 2050年に、二酸化炭素排出量ゼロを目指す

 航空業界は、この燃料の使用をすすめているそうです。

 海外では・・・・。


 日本では、そんな話を、ほとんど聞きませんよね。


 仮に、SAFを一定割合使っていない

 飛行機を、飛ばすことができない規制が、

 海外で法制化されたとしましょう。


 そうすると、関空や成田での給油で、SAF燃料を

 提供しなければならなくなります。


 日本で、イショーちゃんみたいな人がおらず、

 SAFを作っていない場合、提供体制がとれずに、

 日本の空港に、欧米の飛行機が飛んでこない

 可能性すらあります。


 現在、香港、成田、仁川が北東アジアでのハブ空港として

 機能していますが、SAFを用意できない場合、

 その地位を失う可能性があると言うことですね。


 なので、ナナコさんには、少し我慢してもらうことに

 いたしましょう。


 国産化 出来ないと、大変なことになりそうですから。



蛇足2.ペット店舗販売禁止


 フランスでは、2024年から、犬や猫を購入できなく

 なるそうです。


 ブリーダーからの直接購入や、保護施設からの引き取り

 のみの扱いしか無くなってしまうとか。


 欧州一、捨て犬・捨て猫が多いのが、理由だそうです。


 私なら、売買に、タバコ並みの割合で、税金を

 かけますけどね。


 だって、ブリーダーからの直接購入って、抜け道に

 なりそうですもん。


 ただ、こういう法律を簡単に可決するヨーロッパの国の

 議会ですから、SAFを一定割合使っていない

 飛行機を、飛ばすことができない規制なんてものが

 出来る可能性は、高いんじゃないかな?って思います。

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