3-02.【閑話】バイオエタノールを作る 1
学校の図書館に、突然、白い光が広がった。
そして、今、ボクは、フルーク王国に居る。
聞いたことのない国の名前・・・聞いたことのない地名。 どうやら地球とは違う異世界に飛ばされたみたいだ。
不思議なことに、言葉は理解できるし、話もできる。 文字も書けるのだが、キリル文字と アラビア文字を 組み合わせたような 変な形の文字を、右手が勝手に 描いていくのを 見ていと、本当に不思議な感覚になる。
ボクの名前は、須田正輝。 いや、こっちでの名前は、イショー・スコウータ。
図書館で一緒にいた、幼馴染の花松萩菜と共に、こちらの世界に 飛ばされてきた。
1か月こちらで暮らしてみてわかったことは、こちらの文明は、地球よりも程度が低い。 イメージとすれば、近世ヨーロッパと言ったところだろうか? ただ、魔法を使える人間が居るので、どちらが 暮らしやすいかと言えば、答えに 苦しむところだ。 まぁ、テレビも、パソコンも、タブレットもないので、娯楽と言う面では、圧倒的に地球が上だが・・・。
さて、魔法の才能だが、ボクにも、ナナコにも、全くといって無かった。
あっ、こちらの世界では、ボクは、『イショー』呼ばれ、萩菜は、『ナナコ』と呼ばれている。 萩菜を『ナナコ』と呼ぶのには、最初は違和感があったけれど、いまでは、普通に呼ぶことが出来る。 もちろん、『ナナコ』も、ボクを『イショー』と呼んでいる。
まぁ、魔法の才能が無くても、ボクには、元の地球の科学知識がある。 今が 近世であると考えれば、今後 この世界でも、産業革命の波が 起こるだろう。 その波に、ボクの知識を 乗せれば、おそらく 成り上がることなど 簡単なことだろう。
[美容師の娘] 【 3-02.科学知識で 未来を先取り! 】
この世界でも、アルコールが出回っている。 純度は、約80%と100%。
実は、これはスゴイことで、80%なら、消毒用アルコールとして、100%ならば、無水アルコールとして使用できる。 また、燃料用にも、アルコールが使用されている。 王都では、これらが、大量に流通しており、小金貨1枚~5枚といった、そこそこ良いお値段がついている。
これが、なぜ スゴイか・・・。
それは、80%と100%のアルコールが、流通しているということが、この世界の住民がアルコール殺菌の本質を、理解していることを 意味するだからだ。 科学的な水準の低い この魔法世界で、これは、本当にスゴイとしか、言いようがない。
☆*****《読み飛ばし推奨》*****
さて、なぜ80%と言う数字が 消毒用のアルコールになるかを説明しよう。 実は、消毒に使うためのアルコール濃度は、79.8%~81.4%でなければならない。 これは、なぜか? 理由は「細胞膜の脂質を溶かすこと」、「細胞内部で タンパク質の構造を変化させること」、「細胞内部で 脱水効果を発揮すること」が、アルコールの殺菌効果の本質であるからだ。
純度100%のアルコールは、細胞膜を通りにくく、細胞内部への浸透性が悪い。このため、先ほど述べた3つの殺菌のための作用を十分に発揮できない。 芽胞を形成ですることのできる細菌であれば、アルコールが 内部に浸透する前に、芽胞形成してしまうだろう。
ということで、細胞内部への浸透性をよくするために、80%まで薄めたアルコールを、まんべんなく手に振りかけ、10秒ほど浸透させれば、手の表面についた バイ菌の細胞内部にまで アルコールが浸透し、消毒力を発揮する。というわけだ。
そういえば、行きつけのコンビニでは、アルバイト店員が、スプレーで アルコールを シュシュッと振りかけた後、すぐにホットドッグなど、食品を扱いはじめるのを よく見かけた。
「あのーすみません。たぶん、マニュアルでは、アルコールをふりかけた後、15秒ほど手をもむようになっているのではないですか? アルコールを、振りかけただけで、すぐ食品を扱うのでは、効果は無いですよ。」とでも言いたくなるのだが、 ハンバーガー屋さんで、バイトをしていた時に、お肉のパテを床に落としたけれども、3秒ルールを適用して、拾って調理した後に、お客様の食べるハンバーガーとしてお出しした、友人のA君よりは、よっぽどマシだから、言わないでおいたのが、思い出される。
なお、 アルコールの作用時間が10秒ほどである場合、グラム陰性菌であれば、55%程度の濃度、グラム陽性菌であれば、65%の濃度のアルコールに 浸けることが出来れば、ほぼ殺菌することが出来る。
この濃度差について、解説するとしよう。
基本的には、アルコール20%以下の低濃度では、細菌に外観上の変化は起こらない。 そして、40%以上の濃度に浸けると、細菌の 細胞膜の破壊が起こり、細胞内容物の漏れが、起こり始める。
さて、グラム陽性菌の細胞壁は、ペプチドグリカン70%と、リン酸ポリマー多糖様高分子であるタイコ酸などから構成されており、細胞膜の外に厚い層として存在する。 対して、グラム陰性菌では、ペプチドグリカン層が薄く、これが数パーセント。 外側の外膜は、リポ多糖類で、これが、外に向かってのびる構造である。
つまり、グラム陽性菌の細胞壁は、ペプチドグリカン部分が厚い。 そのため、アルコールの浸透性が悪いのだ。 それに対して、ペプチドグリカン層が薄い グラム陰性菌では、アルコールの浸透性が良いため、消毒濃度に 有意に差が 出ているわけだ。
また、ウイルスになると、エンベロープウイルスかどうかで、濃度が異なる。 アルコール殺菌が、ある程度有効である。 エンベロープウイルスであれば、45%ほどの濃度に浸けることができれば、ほぼ殺菌できる。
なるほど、コロナウイルスの殺菌に、70%濃度のアルコールと言うのは、理にかなっているわけだ。
ちなみに、嘔吐・下痢を引き起こす ノロウイルスや、咽頭結膜熱を引き起こす アデノウイルスなどの、ノンエンベロープウイルスの場合、脂質の膜を周りに持たないため、アルコールが浸透出来ない場合が多く、殺菌効果を得ることが、難しい。 それでも、2型、5型、7型、37型のアデノウイルスならば、55%のアルコールに 浸けることが出来れば、殺菌可能だ。 まぁ、そんなことをしなくても、これらのウイルスの消毒には、塩素系・・・ハイターを使えば、いいだけの話だけれども・・・。
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消毒用アルコールが、小金貨1枚~5枚か・・・。 これは、チャンスかもしれない。 しかし、慎重なボクは、アルコールの製造方法を 確認することにした。
ナナコと一緒に向かったのは、アルコールの大量生産をしている、ドラウンカタナ社。 ここでは、大掛かりな合成装置を使って、アルコールが 作られていた。
まずは、原料のエチレンを作り出さなければならない。 石油からとった ナフサを、水蒸気と混合して 900度の高温で熱分解する。 この、生成物を 蒸留分離すると、エチレンを 作り出すことが出来る。
このエチレンガスを、圧縮機に送り込み、7メガパスカルまで昇圧。 そのまま、ガスを反応塔へ供給することになる。 そして、これら 未反応のエチレンガスと 一緒に反応塔へ供給されるのが、加熱炉で250度まで加熱した水である。 反応塔内には、リン酸をしみこませた シリカゲルが触媒として 充填されており、エチレンガスと水は、反応塔内で、この触媒と 接触することで、アルコールとなる。
そう、エタノールの完成である。
よしっ、思った通りだった。 アルコールを大量生産するのに、石油を使っている。 やはり、これは、チャンスだろう。
地球温暖化防止には、大気中から 二酸化炭素を除くこと、つまり化石エネルギー由来の 二酸化炭素を 出さないことが必要だ。 木材は、「樹木が成長時に吸収した二酸化炭素を蓄える炭素貯蔵効果」や、「ほかの材料と比べ、製造加工にかかる、エネルギーが少ない省エネ効果」、「燃料として利用することにより化石エネルギーの使用を減らすことが出来る化石燃料代替効果」という 3つの二酸化炭素 削減効果が ある。
温暖化問題は、今後、この世界でも、必ず問題になってくる。 ここは、時代を先取りして、化石燃料を使わないエタノールを作るのが良い。 そうだ、ボクは、木材由来のバイオエタノール製造で、大儲けするのだ。
「ナナコ、チャンスが巡ってきたよ。
時代は、バイオエタノールを求めているんだ。」
「そうね。 イショーちゃん。
何の話か分からないけれど、私もそんな気がするわ。」
バイオエタノールは、植物が 空気中の二酸化炭素を吸収して 貯め込んだ バイオマスから作られる。 このため、石油など化石燃料と違って、燃焼により 出される 二酸化炭素は、再び、植物中に吸収され、空気中の 二酸化炭素濃度が変動しない。 つまり、カーボンニュートラルな燃料だ。
その上、木は再生可能だ。
管理された 森林から生産される木材を使って バイオエタノールを作れば、二酸化炭素の 排出抑制につながる。
これが チャンスと言わず なんといえばよいかっ。 チャンスでしかない!
トウモロコシなどの 穀物テンブンから作る バイオエタノールは、食物供給に 問題が起こるため、使用できない。 しかし、木材から バイオエタノールを作ろうとすると、エタノールへの 変換効率が悪い。
このジレンマ、問題を解決するため、ボクたちが 次に向かったのが、カタト・モワ・カイ氏が率いる ビッグキング羊皮紙社であった。
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そう、この羊皮紙製造会社は、木材から、植物紙を作る事業を 行っているのだ。
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読み飛ばし推奨部分を、じっくり読んだ人は、高評価を押して次の話へ⇒
蛇足1.小悪党デップと、その弟分のジョニー
3-01.【閑話】羊皮紙工房の移転 2021/11/15 09:00
https://ncode.syosetu.com/n6487gq/161/
小悪党が、デップで、弟分がジョニーです。
と、いうことで、土地を乗っ取るときの名前は、
Xジョニー・スパロウ ⇒ 〇『デップ・スパロウ』 が
正しいですね。
お詫びして、訂正いたします。
蛇足2.鳴くや廃止の消毒用エタノール
一般に、アルコールと言う場合は、エタノールのことを
指します
高校生の時、79.8v/v%~81.4v/v%を、
「鳴くや廃止」って覚えたのを思い出しました。
使うことのない、無駄な知識ですが・・・。
蛇足3.68.5%~71.5%と60%~80%
ちなみに、79.8v/v%~81.4%v/vは、日本の規定。
アメリカの規定では、68.5v/v%~71.5v/v%。
世界保健機関WHOの規定では、60v/v%~80v/v%。
となっています。
v/vは、ボリュームパーボリュームと読みます。
この、濃度差は、時間をかけて消毒すれば、
濃度が低くても、アルコールが、浸透するためと、
考えられます。
本当の所は、調べてないので、知りませんけどね。
蛇足4.アデノウイルス
プールの後の結膜炎なども、アデノウイルスです。
例えば、8型アデノウイルスは、45v/v%で
1分間作用させないと、エタノールでは、
効果がありません。
つまり、79.8v/v%~81.4v/v%では
意味が無いわけです。
低い濃度でなければ、効かない上に時間がかかるって
なかなかおもしろいですね。
蛇足5.ノロウイルス
1年を通して、食中毒患者の半分は、ノロウイルス。
そして、発生の7割は11月~2月です。
この時期の感染性胃腸炎の多くは、ノロと考えられます。
手指や食品などを介して、口から感染し、腸で増殖します。
症状は、嘔吐、下痢、腹痛、発熱など。
ノロウイルスは、感染力が強くアルコール消毒が
出来ません。
子どもや高齢者は重篤化することがあります。
ワクチンもなく、治療は、輸液などの対症療法。
予防を徹底する必要があります。
あっ、予防で、一番大事なのは、手洗いでしたね。
みんな、間違いなく、ちゃんとやってます。
今年も、あまり流行らないかもしれませんね。