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1-16. ウエンディは空の彼方

母ウェンディの周りに 淡い(あわい)しゃぼん玉が 舞った。

セピア色のバラが ふわりと(かお)る。

今日も、美容院には のばら を 飾ろう。


xxx xxxx xxx


母ウェンディは、美人だ。

本当にきれいだ。

彼女のまわりに、人が集まり、優しく微笑む。


囲まれる母は、美しい。

アン(ちち)の目は、赤く腫れあがっている。

たぶん 一睡も していない。


参列する人たちの 中に 漂う「のばら の 香り」は、

ウェンデ(はは)ィが どれほどの人に 頼られていたかを あらわすのだろう。


胸が 締め付けられる。

わたしの 手を握る イアン(ちち) 力に(ちから)

呼吸一つ も ない ウェンデ(はは)ィに。


心の器に 涙をため、顔には ()みを。

私は、涙を こぼさない。



    [美容師の娘] 【 1-16. 葬儀 】



帝国からの 流民(るみん)に 東の辺境の村が 襲われた。

数年前から 聞く この噂も、王都では、大きな話題に ならなかった。

所詮、(しょせん )辺境の村の話 で あったのである。


その日も ウェンデ(はは)ィは、教会に 出かけた。

革袋を 持って。

この前のように、彼女(ウェンディ)に ついて行くことは、しなかった。

凝視(ぎょうし)男が (いや)だったのだ。


夕日が 赤く空を照らしてから 暗くなるまでには、それほどの 時間はない。

知らせは、その時間に 届いた。


教会からの 使者は、回りくどい 言い方をする。

帝国からの 流民(るみん)が 王都周囲に 現れたらしい。


アン(ちち)に 手を引かれ 教会にたどり着いた私は、ウェンデ(はは)ィと 対面した。

悲しみと 戸惑いで パニックになりそうだった 私にとって、対応する人が

凝視(ぎょうし)男でなかったことは、ありがたかった。


白い死の床で、ウェンデ(はは)ィの肌は、抜けるように 白かった。

全身の血を 全て失ったような その白い肌に、

彼女(ウェンディ)の死を 思い知らされる。


左の(そで)(のぞ)けば、彼女(ウェンディ)の白い服は、きれいなままだけど、

彼女(ウェンディ)の服の 左(そで)は、少し 黒くなりかけた血で染まり、

腕や頭には、傷が見える。


彼女(ウェンディ)の所持品は、小さな 手さげの袋だけ だった。

あの 金貨の詰まった 革袋は、無くなっていた。

流民(るみん)の仕業 であろう。と説明された。


そして 手さげ袋に 入っていたのは、金色をした 金属のプレート。

この教会の プレートから 神の加護を得るには、喜捨する 金貨の枚数が

足りなかったのだろう。


父は押し黙り、私は、血の気の無い 彼女(ウェンディ)の美しい顔を、

ただ じぃっと 見続けるだけであった。



葬儀は、家族だけ(イアンと2人)で 行う予定だった。


今、彼女(ウェンディ)のまわりに、多くの 人が寄り添うのは、

話を 聞きつけた お客さん(マダムたち)が 集まってきたからだ。


みんな 彼女(ウェンディ)のことが 大好きで、美容院ボエロを 愛してくれている。

お客さん(マダムたち)は、私を 見ると きまって 頭を撫でた。


手を 頭に置いて 私に言う。

「あなたの 美容魔法は、すごい」

「あなたは、お母さんを 超える美容師に なれる」

笑顔 なんだけど、泣きそうな顔で 私の 頭を撫でる。


笑うって 決めたのに・・・

泣かないって 決めたのに・・・

心の器に ためるって 決めたのに・・・


目が 勝手に 決壊してしまった。

止まらない。


「私、ウェンデ(はは)ィみたいな 美容師になる」

たぶん、この瞬間、私は、決めたんだと思う。


そんなこと あるはずはない ん だけれども、

ウェンデ(はは)ィの 澄んだ眼が開き、かすかに 笑ったような気がした。

私の決断を 喜んでいるかのように。



涙が 止まったことに 私が気づいた時、お客さん(マダムたち)は、帰りはじめていた。

人が居なくなって、何かが 終わってしまうのは、怖くて 寂しかった。


ふと思いついて、小瓶を 取り出す。

サンショウバラ から取った 香りの液体石鹸「ウェンディ」。


泡状(あわ の) 水魔法(みずまほう)を、これに(液体石鹸)使う。

「ウェンディ液体石鹸」(せっけん)で、小さなかわいいシャボン玉を 飛ばす。

ウェンデ(はは)ィの 周りに、シャボン玉が 虹をかける。

サンショウバラの 甘くフローラルな (かお)りが、イアン(ちち)と 私を

優しく 包み込んでいる。


大丈夫。ウェンデ(はは)ィは、いつも 私の そばにいる。


xxx xxxx xxx


私は、決意を 新たにし、静かになった 美容院に 野バラを 飾る。


彼女(ウェンディ)の 体は、もう いない。

心は、ずっと 私やイアン(私たち) と 共に。


空を 見上げた。月は 雲に 隠れている。

と、その時・・・


どんッ、ガシャンっ


突然の 大きくて 恐ろしい 破壊音。

魔法が 使われた気配も した。

アン(ちち)が 居ない。

私は、走った。


裏の 空き地は、古い 学校跡(がっこうあと)だ。

そう、私が 飛翔魔法を 初めて使った 場所。


雲間(くもま)から 月がのぞき、月光は、男を 照らす。

アン(ちち) 後姿。(うしろすがた)


アン(ちち)(むか)いに 立つ男が 倒れた。

私は、イアン(ちち)の 元に 駆け寄る。


「どうしたのっ。なに?」

アン(ちち)は、何も 話さず、つらそうに 小さく 微笑(ほほえ)む ばかり。


(むこ)う側には、右腕から 先が なくなった 教会の司祭、

あの凝視(ぎょうし)男の体が 転がる。


無言の時間が続く。

月は 一度隠れ、再び 雲間(くもま)から 顔を のぞかせ 地面を 照らす。


=== ==== ===


照らされた 地面を ふと見る。

アン(ちち)の 足元に、金色をした 金属のプレートが 1枚 転がっていた。


=== ==== ===

昔は 泣けなかった「映画を見て泣けるようになる」のは、

「その人が年齢を重ねたから(老化(ろ・う・か))」だ。と思う人は、

高評価を押して次の話へ⇒


以前は、あまり 信じていませんでした。

「悲しいシーンを描くと 涙が出て、

 吐きそうなシーンを描くと 口の中が()っぱくなる」と

漫画家の人が 言っていたことを。


今回のお話を書いていて、涙・・・出ませんでした。

まぁ出ませんよね。


それでも「悲しいシーンを書くと悲しくなる」というのが、

なんとなくですが 分かったような気が しましたので、

今の私であれば、映画を見て泣くことも あるかもしれません。

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