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2-220.【閑話】3つの月

「ライリューンっ。 あれ?いない?」


研究室の外の窯で、色ガラスの開発をしているはずの ライリューンが居ない。


「アリー。 研究室開けてっ。

 ボクの猫が おなか減ったって 言ってる。

 エサが 無くなったみたい。」


「あっ、ライレーン。」


ライレーンが、研究室に保管してある キャットフードを 取りに来た。


「エサが無いと、にゃーにゃーうるさいんだよね。」


研究室のドアを開けてあげると、ライレーンが、飛び込んでいく。 しばらくして、キャットフードの麻袋の山を 両手に抱えて出てきた。


「あのね、ライリューンが居ないんだけど、どうしたの?」


「あぁ、今の季節は、夜に、月が3つ出てるでしょ?

 そういう季節は、ライリューンは、よく調子を崩すんだ。

 月が、2つとか1つになったら、戻るんだけどね。」


この世界の月は、3つある。 3つ月が出る季節、 2つ月が出る季節、 そして1つの季節に、 ゼロ個の季節が あるのだ。


「でも、なんで月が、3つもあるだろうねぇ?」


「えっ、アリー知らないの?マックフライの話を。」


マックフライって、あの赤毛のピエロしか 思いつかないんだけれど、その関係者かしら?




[美容師の娘]  【 2-220.『月』の『女神』は『赤い』 】




むかしむかしのことでした。


この頃は、まだ空に浮かぶ月は1つで、皆はそれを当たり前に思っておりました。


さて、いつのことでございますでしょうか。 ある所に、サヌキノミヤツクリという者がおりました。 毎日のように竹藪に入って、竹を切り取って、色々な物を作り、それを商いとしておりましたので、皆からは、竹取りの翁と呼ばれて親しまれておりました。


翁は、妻であるお婆さんストンコリドメの媼との2人暮らし。 残念ながら子をなすことは できませんでしたが、2人仲睦まじく暮らしておりました。


ある日のことです。


翁がいつものように竹藪に入ったところ、1本の竹の幹が赤く光っていました。 不思議に思って近づいてみますと、赤い光が辺り一面に広がった後、竹の幹に収束し、優しくあたりを照らします。 翁は、赤い光の部分を傷つけぬよう気を付けながら、ナタで切り付けてみました。 何ということでしょう。 切った筒の中に高さ三寸ばかりの美しい女の子が すやすやと 眠っているではありませんか。


翁は、いつも自分が手入れしている竹藪の竹の中に赤子が居たのですから、神が我が子として与えてくれたのであろうと考えて、その子を大事に両腕で抱えて家に戻りました。 お婆さんも たいそう喜んで、竹で編んだゆりかごに寝かせ、大事に大事に育てました。


このことがあってからも、翁は、やはり竹を取ってその日その日を送っていましたが、やがて奇妙なことが起こり始めました。 翁が切った竹の節と節の間に、時折、金の粒が入るようになったのです。 黄金の粒は、翁の家を次第に裕福にしました。 しかし、彼も、おばあさんも、つつましい生活を変えることなく、竹を取り、その竹を編んだものを売って暮らしておりました。


それから 13年の月日が経ちました。


美しく育った少女の、顔かたちは どんどんと麗しくなり、家の中が隅から隅まで赤く光り輝くようでした。 翁にとっても お婆さんにとっても、この子を見るのが 何よりの楽しみで幸せでした。 また、その間にも相も変わらず竹を取り、黄金も手に入れていましたので、身代は大きなものとなっておりました。 相変わらず つつましい暮らしではありましたが、娘のために屋敷を大きくし、召使を雇うようになりました。 屋敷が大きくなり、面積が大きくなったため、すべてに手が届かなくなったことと、少し年を取ったために、いろいろなことに 人の助けが必要になったのです。


さて、これまでは、仮に幼名として、バンブコと呼ばれた娘ですが、その頃の風習として、齢13にして、正しく名をつけられることとなっておりました。


翁とおばあさんは、悩みに悩みぬき、なよ竹のプリンセスカグヤと 名づけることといたしました。 しかし、自分の娘に姫とつけるとは、なかなかの勇気があります。 翁がつけたこの名前は、かなりハイセンスなキラキラネームでございました。 成人し、正式な名がついたということで、村の衆を呼び、祝い事を行います。 これも、その頃の風習に従い、3日の間、宴会を開いて、近所の人たちを呼んで祝いました。


このことで、カグヤの美しさが 近隣に知れ渡ります。


翁が屋敷を大きくし、召使を雇ったことは、賢明だったと言えるでしょう。 この麗しき少女の評判は高く、世間の男たちは、既婚者まで妻に貰いたい、見るだけでも見たいと、屋敷の近くに来て、覗こうとしましたが、どうしても その姿を見ることはできません。


せめて、翁に会って、気持ちを伝えようとしても、召使がそれさえ取り合ってくれない始末で、さらに、人々は気をもんで騒ぐ有様でした。 そのうちで、夜も昼も屋敷の側から離れずに、どうにかカグヤに逢って、その想いを伝えようとする5人の男が居ました。 世が世なら、ストーカーと呼ばれたでしょう。 みな、位高き身分の物で、一人は、ストンメカ皇子、一人は、ハブカー皇子、一人は、ライトミニスターのアベノミクス大臣、もう一人は、ビッグミニスターのトモノミユキ王、そして最後の一人は、道化師のマックフライ氏でした。


この人たちは思い思いに 手だてをめぐらし、姫を手に入れようとしましたが、誰も姫の心を得ることはできませんでした。 そもそも、13歳のお子様に言い寄る王子や 大臣の頭が、おかしいのですが・・・。 あっ、マックフライ氏もですね。


姫は、ただ答えを 渋っただけではありません。 彼らにある条件を突きつけました。 おそらく、13になったばかりの子供に 言い寄る大人たちというか、おっさんどもに、少しイライラ していたのでしょう。


「深い想いを見せた方でなければ、夫と定めることはできません。

 たいして難しいことでは、ありませぬ。

 私が欲しいものを、持ってきてくれればよろしいのです。」


5人には、それぞれ 別々の願い事が、与えられます。


ストンメカ皇子には、ホームカンシ教開祖シラーンと、教団の実質的な創設者でもあるカクーニョの『聖遺骨』。


ハブカー皇子には、天然のツバメの『子安ビニル木傘』を一つ。


アベノミクス大臣には、猛虎魔獣『バースの火皮衣』。


モノミユキ王には、7つの玉を集めて出現する『水竜の首』。


そしてマックフライ氏には、仙人の住むホウライ山にある 『セレン化銀』から作り出した『赤い髪染め』の要求が、出されました。


「これは、難しい。

 本当に、これを5人に伝えればよいのかね?」


心配になって、翁が カグヤに尋ねます。


「さして、難しいことでは ございませぬ。」


姫は、平気で そう言い切ります。 翁は仕方なしに、姫の要求を そのまま5人に伝えますと、みな途方に暮れて 自らの屋敷へと引き取りました。


それでも、どうにかして カグヤを自分の妻にしたいと思う5人は、色々な工夫をして、その望みを かなえようとしました。



まず最初の挑戦者は、ストンメカ皇子でした。


この皇子は、こずるい才覚のあった男でございましたから、『聖遺骨』を得るため 月日がかかったように見せるため、6か月ほどたってから、骨を用意しました。


桐に黄金をまぶした眩いばかりの箱に、馬の骨を入れた物。 そして、ガラスで作った器に、美しいガラス細工のフタをのせた容器に、犬の骨を入れた物。 この2つをカグヤの元に持ち込んだのです。


『偽聖遺骨』です。


「なよ竹のプリンセスカグヤよ。 これが愛の証だ。

 シラーンと、カクーニョの『聖遺骨』を持ってきたっ。」


「これは、ストンメカ殿下。

 なるほど、素敵な入れ物ですね。

 シラーンなど、どこの馬の骨か、分からないですものね。

 カクーニョも、野良犬と申したいのですね。

 皮肉のこもった素晴らしい『聖遺骨』ですこと・・・。」


この頃、聖職者による汚職事件が、各地で明るみにでておりました。 カグヤは、その事件にかけて、皇子が 聖職者を皮肉って、馬や犬の骨を持ってきたと指摘したのです。 ストンメカ皇子は、顔を赤くして去ってゆきました。



2番目のハブカー皇子は、『子安ビニル木傘』を手に入れようと、情報を集めました。


聞くと、これを手に入れると安産に繋がると言うではありませんか。 なるほど、カグヤは私と結婚し、子を成すことを 夢見ているのだな。 皇子は、そうひとりごちました。


しかし、そのなかなか『子安ビニル木傘』そのものを知っている人は、見つかりません。 待つこと3か月、やっとのことで、ツバメの巣の下で、貝殻が見つかったという 報告が 皇子の元に届きました。


もしや、この貝殻が、なにか『子安ビニル木傘』と 関係あるのではないか? 彼は、そのツバメが軒先に巣を作る 屋敷をたずねます。


屋敷の主人が申すには、ツバメ巣の下には ヒナが受けとり損ねた 餌が落ちていることがあるので、それを集め、ツバメの餌は どのような物かを調べようとした所、小さな貝殻が傘のようになった 石のような ペリットを 見つけたと言うのです。 この者の研究によると、親ツバメがヒナに貝殻を与えるのは、カルシウム補給のためではないかということです。 というのも、スズメと同じ系統のカマドムシクイと言う鳥など多くの鳥は、カルシウム補給のために かたつむりを捕食することが 知られているからです。


あぁ、ツバメが、ヒナにこの貝の傘を与えて、カルシウム分を与えて 成長を促すのだな。 カグヤと 私の子供の成長を守るお守りとしては、素晴らしいものだ。 「よし、これを木傘とすれば良いのだ。」 皇子は、カグヤが 自分との結婚を 望んでいると疑っておりませんでしたから、安易にそう考えてしまいました。 しかし、彼は大切なことを忘れていました。 カグヤは、『天然』の『子安ビニル木傘』と、条件を付けていたのです。


ハブカー皇子は、その貝のペレットを アンターナッハ商会に持ち込みました。 この商会は、木材と石材を扱う古い商会で、この傘のような貝に 木の装飾をつけるなんて いとも簡単なことでした。


そうやってと出来た『子安ビニル木傘』をもって、ハブカー皇子が、カグヤの元へと 戻ってまいりました。


「カグヤよ。 これが私の愛だっ。」


見事な細工の『子安ビニル木傘』が、カグヤの目の前に出されました。 しかし、ハブカー皇子にとって 不運なことが2つありました。 その1つは、カグヤの隣に お友達のテレサが 座って居たことです。 テレサは、アンターナッハ商会の令嬢で、この加工のことを 知っていたのです。


「あぁ、この加工すごいのよ。うちの工房でしたんだけどね。

 すごーくお金と手間が、かかってるの。」


なんと、一瞬で これが天然の物でない加工品であることが、判明してしまいました。 そして、悪いことは続きます。 皇子の2つ目の不運は、その細工に描かれた模様です。 ここで、テレサが、とんでもないことを 指摘してしまいまったのです。


「カグヤ、オレンジ色のウサギが、素敵でしょう?」


なんということでしょう。


ヴェスボールという競技が 大好きな工房の職人が、木傘の柄の部分に、お気に入りの球団のマスコットを模した、オレンジ色のウサギを描いてしまっていたのです。 そう、ウサギット君です。 これは、いけません。 なぜなら、カグヤは、違う球団のファンだったのです。 職人が、カグヤの好きな球団のマスコットである ツバゴロウを描いていれば、取り繕いようがあ ったかもしれませんが、後の祭りです。


「ウサギット君の球団が好きな方とは、結婚できません。」


あれほど苦労したにも関わらず、ハブカー皇子は、あっさりと 振られてしまいました。



アベノミクス大臣が要求されたのは、猛虎魔獣『バースの火皮衣』。


しかし、困ったことに魔獣が見つかりません。 カリフォニアを探しても、ロスンゼスを探しても、向かいのホームを探しても、路地裏の窓を探しても、どこにも その姿を見つけることが出来なかったのです。 ここで、大臣が、オクラマの農場を探していれば、この魔獣をみつけられたでしょう。 しかし、残念ながら、大臣は探索を あきらめてしまいました。


彼は、これに代替するものを探すため、文献を検索し始めたのです。


そして、彼は、文献に猛虎魔獣『バースの火皮衣』とよく似た特性をもった 布を発見します。 『火浣布』と呼ばれるこの布は、火に投じると、汚れだけが燃えて 布が残るとされました。


さぁ、文献で見つけた『火浣布』を探せっ。 アベノミクス大臣は、この布を探させます。 ミイラを包む布が、これであったと聞けば、王家の墓をあさりました。 チビマルコ・ポワロの書いた『西方見聞録』に、火に焼けないサラマンダーの皮がある と聞けば、西のヘドファン伯爵家を通じて、それを 手に入れようとしました。


しかし、どうしても手に入れることが 出来ません。


とうとう、アベノミクス大臣は、うどん職人インナ・ゲーガラヒを 呼びつけ、この布を作るよう命じました。 見つからないなら、作ってしまえというわけです。


インナ・ゲーガラヒと、 アン・ジュンワガカナは、チチブブの山中を駆けずり回りました。 そして、彼らは、これを作り出すことに 成功するのです。 常識はずれの布を 作るため、彼らは、リーベック閃石と呼ばれる 角閃石族に属する鉱物を 使うことにしました。 リーベック線閃石の繊維状鉱石は、クロシライドと呼ばれる 天然の鉱物繊維です。 これを編むことで作った伝説の『火浣布』を、インナ・ゲーガラヒと アン・ジュンワガカナは、アベノミクス大臣に 献上しました。


大臣の喜んだこと喜んだこと。


自らの屋敷の天井や壁をを全てこの『火浣布』で覆い、これで我が家は、火災が起こっても 燃えることが無いと 豪語しました。 そうして、彼は、カグヤの元に向かいます。 1枚の美しい布を持って・・・。


彼が 持つ布・・・それは、豪華に装飾した『火浣布』でした。


「カグヤよ。 この美しい布こそ、お前にふさわしい。」


アベノミクス大臣は、カグヤの目の前に、この布を 差し出します。


「あら、素晴らしい布ですこと。

 でも、ハブカー皇子の例もありますから、失礼しますね。」


カグヤは、目の前にある『火浣布』に手の平を向けます。


 め・ら・ぞ・ん・ま・っ ~ 特大的超極大火炎地獄呪文


なんという熱気・・・。 カグヤは、通常の何万倍もの威力の炎を 手の平から発生させたのです。 彼女が得意とする火魔法でした。


『火浣布』は、燃えない。


たかをくくる アベノミクス大臣が見たのは、信じられない現象でした。 なんと、『火浣布』が溶け始めたのです。 そう、いくら燃えないと言っても、リーベック閃石は、[Na2][Fe2+3Fe3+2](Si4O11)2(OH)2 の組成を持つ ケイ酸塩鉱物です。 とてつもない高温にさらされると、溶けてしまいます。


せっかく大金と、時間をかけて作り上げた『火浣布』が、ただの黒から濃青色の石に なってしまうまで、そう時間は かかりませんでした。


呆然とするアベノミクス大臣・・・。


「あら? 偽物だったの ですわね。」


カグヤは、ニコニコとしながら、言い放ちました。


「こんなに、簡単に 燃えるものでしたのね。

 知っていたら、火などつけず、飾っておきましたのに・・・。

 あぁ、ざんねん。 ざんねん。」


その言葉を聞いた瞬間、アベノミクス大臣が、血を吐き 倒れました。


実は、リーベック線閃石は、石綿と呼ばれるものの一種です。 鉱石繊維物質であると同時に、浮遊粉塵でもあったのです。 アベノミクス大臣が防火のため、自らの屋敷の天井や壁に、この布を用いたことが問題でした。 かれは、この石綿の粉塵を 大量に吸入してしまったことで、肺癌を発病してしまっていました。


「あら、ご病気ですのね。 お大事にぃ。」


カグヤの声を 遠くに聞きながら、アベノミクス大臣は 救急牛車で 病院へと運ばれて行きました。



モノミユキ王に出された課題は、7つの玉を集めて出現する『水竜の首』です。


王は、しっぽの生えた少年と、西の辺境からやって来た博士の娘、変身ができるブタの妖精、砂漠でネコと暮らす盗賊などと一緒に、7つの玉を集めることとなりました。 彼らは、奮闘します。 握手をすると、人参になってしまう呪いや、牛の魔王の燃える山の火を消す必要に迫られたり、売れないお婆さんの館での格闘対戦があったりと、いろいろな試練を乗り越える必要がありましたが、なんとか7つの玉を揃えることに成功します。


さぁ、苦労に苦労を重ねて、集まった7つの玉を前に、モノミユキ王が願います。


  出でよ水竜!! 我が前に現れたまえ。


7個の玉が、光り輝きます。そして、水竜は、その姿を現しました。


「さぁ、願いを言え。

 どんな願いも一つだけ叶えてやろう・・・。」


なんと、竜が願いをかなえてやると言うではないか。


えっ? 水竜の首が欲しいとか言えないし、どうしようかな? モノミユキ王が 考え込む間に、突然、変身ができるブタの妖精が前に出ました。


「なんでも、願いをかなえてくれるの?

 じゃぁ、ジャムのパンを おくれっ。」


「ほう・・・ジャムのパンじゃな。

 願いを かなえよう。」


ブタの妖精の前に、おいしそうな ジャムパンが、ポンッと現れました。


「わーい。 ボク、イチゴジャムが大好きなんだ。」


ブタさんは、大喜びです。


「お前の願いは、かなえたぞ。では、さらばだ。」


何ということでしょう。願いをかなえた水竜は、7つの石の玉となってしまいました。 再びこの玉を使って 水竜を呼び出すには、10年間、石がエネルギーを蓄える必要があります。


「あぁ、何と言うことだ。水竜がいなくなってしまった。」


モノミユキ王は、嘆きます。


「大丈夫だよ。 もぐもぐ。」


ブタの妖精が、ジャムパンを食べながら、言います。


「イワナを 3匹食べると、水竜があらわれるからっ。」


なんということでしょう。 水竜を出現させるため、7つの玉を集めている間は、1回も言わなかったにもかかわらず、このタイミングで、水竜の出現方法を、ブタが公開したのです。


モノミユキ王は、「このブタ、売れないお婆さんの館での格闘対戦とか苦労する前に、それを言えよ。 焼き豚にするぞっ。」とは 思いましたが、それよりも、大切なのは、水竜です。 焼き豚は、後で作ることにしました。


モノミユキ王は、急いでイワナを3匹用意しました。 はらわたを取り、火にかけます。 川魚は、寄生虫に 注意しなくては ならないのです。 王が イワナを3匹食べきった瞬間、耳の奥から、ゴゴゴゴゴという音が聞こえてきました。 右腕が・・・ 左腕が・・・ 上手く動きません。 よく見ると 地上がドンドンと 遠くなっているではありませんか。 そうです。 イワナを 3匹食べると、食べた者が、竜に なってしまうのです。


モノミユキ王は、悲しくなりました。 しかし、泣こうにも、涙が出ません。 せめてもと、空に浮かび、カグヤの屋敷へと 飛んで 向かいます。


「こ・・これは水竜・・・。なんと・・・。」


翁は、ビックリしました。


「あぁ、愛しいおじいさん。 だいじょうぶですよ。」


奥から、カグヤが 現れました。


「おじいさん、これは、モノミユキ王がよこしてくれたのです。

 わたしが、水竜の首を 欲しがっていたでしょう。

 あぁ、なんて優しいお方なのでしょうかっ。

 えいっ、烈風真空斬っ。」


烈風真空斬は、風魔法。 生み出し旋風により真空を作り、それによって起こる気流をつかい、敵を攻撃する技であります。


真空によって 作り出された 回転する風の刃が、水竜の首を襲います。 スパリ と言う音とともに、竜の首は、落ちました。


「きゃはっ。 素敵な首ね。

 おじいさん、血抜きをして居間に飾りましょう。」


モノミユキ王は、誰にも知られることなく、首だけの存在となってしまいました。 しかし、ある意味、他の者よりは、幸せだったのかもしれません。 少しの時間であっても、屋敷の居間に飾られ、カグヤと同じ空間に住むことが出来るのですから。


それはともかく、首は、居間に飾られましたが、その他の竜の素材は、競売にかけられます。 伝説の竜の素材でございますから、たいそう高値で取引され、翁たちは、王国一のお金持ちとなりました。



そして、最後に残ったのが、ロナウド・マックフライ氏です。


彼に出されたのは、仙人の住むホウライ山にあるセレン化銀から作り出した『赤い髪染め』を用意するという課題でした。


がしかし、賢いマックフライ氏は、ホウライ山ではなく、ライリューン商会に向かったのです。


「ふーふーん。ロナウドは、赤い染料を手に入れちゃうんだな。」


そうです。 彼は、ライリューン商会で作られた、セレンレッドを 使うことにしたのです。 ライリューン商会に忍び込み、セレンレッドの染料を 盗み出したマックフライ氏は、それを まず自分の頭に使いました。 こうして、マックフライ氏のアフロは、真っ赤な色になったのです。


さて、この染料をもって、カグヤの元へと向かう マックフライ氏でしたが、この時、屋敷では大変な事態が、起きておりました。


「あぁ、カグヤや。

 どうしてそれほど月を見て泣いておるのじゃ。」


「今まで、何度もお伝えしようと思っていましたが・・・。

 実は、私は、この国の人間ではございません。

 月の都の者で ございます。

 ある因縁が ございまして この世界に参りました。

 しかし、そろそろ天上へと変える日が、参ったようです。」


カグヤはそう言って、泣き入りました。


「月の都の父母には、少しの間と言って出ました。

 しかし、長き年月が たち過ぎました。

 お二人と 離れるのが、悲しくて仕方ありません。」


こう言って、さめざめと泣くのです。 翁もお婆さんも、気が違ったかのように 泣きはじめました。


その時です。


空に浮かぶ月から、飛ぶ牛車が現れたではありませんか。 牛車の扉は、まるで、スーパーカーのデロリアンかのように ドアを開きました。 そうです。 ガルウイングドアのように、上開きにドアが 跳ね上がったのです。 ふわりと、カグヤの体が浮きます。 あわてて、引き留めようとする翁の手をすり抜けるカグヤの体。 滑るように カグヤが、牛車へと 吸い込まれてしまいました。


「ホロッホーっ。 ロナウドだよっ。

 セレン化銀の『赤い髪染め』を持ってきたんだなっ。」


何と いうことでしょう。


まったく空気も読まず、ロナウド・マックフライ氏が 現れたではありませんか。 手には、セレンレッドの詰まった ツボを持ち、ピョンピョンピョンと、空飛ぶ牛車の前に 立ちました。


「あれ? この飛んでる車は、なに?」


「おぉ、マックフライさん。

 カグヤが、カグヤが、月に帰ってしまいます。」


「えっ?この飛ぶ牛車で、月に連れ去られそうになってるの?

 おっけぇい。じゃぁ月に帰れないようになればいいんだね。

 ロナウドに、まかせてっ。」


翁は、藁にもすがるような思いで、マックフライ氏を見つめています。 ロナウドは、両手を筒状に丸め、突き出しました。


「受けて見るがいい。 いくぞっ!」


  マックフライ砲手筒 ~ マックフ・・・自主規制・・・


と、その瞬間でした。


 ドーーーーン  ドーーーーン  ドーーーーン


衝撃音とともに、3発の空気弾が、マックフライ氏の手筒から、打ち出されました。


1個の空気弾は、牛車を木っ端みじんに散らし、残りの2個の空気弾は、そのまま 月へと向かいました。


 ボコンッ


あぁ、これは、ひどい。 マックフライ氏の放ったマックフライ砲が、月を 破壊してしまいました。


「あぁ、カグヤやっ。

 カグヤの乗った牛車が、バラバラに吹き飛んでしまった。」


翁は、大きな声で 嘆きます。


「あれぇ? あの空飛ぶ車に、カグヤちゃん乗ってたの?

 先に 言ってくれなきゃ ダメだよ。

 ロナウド、気づかずに 打ち抜いちゃったっ。

 おじいちゃん。 ゴメンねぇ。

 そっかぁカグヤちゃん。 いなくなっちゃったのか。

 仕方ない。 これ、もう必要ないやっ。

 じゃ、ここに、セレン化銀の『赤い髪染め』置いていくね。」


月の女神の名を冠した、セレンレッドの入ったツボを 翁の前に トンと置くと、マックフライ氏は、来た時と同じように、空気を読むことなく、そそくさと、去ってゆきました。


「なんて ひどい道化師なんだ・・・。

 カグヤが 居ないこの世になど未練はないっ。」


セレンのツボを抱き、翁と、おばあさんは、スルガの国の山へと登りました。 2人は、山頂で、セレンレッドのツボを焼き、そのまま 火口へと 身を投げてしまったのです。


山は、いつしか、不死の山・・・ フジヤマと 呼ばれるようになり、山の火口からは、ツボを焼く煙が 今も立ち上っています。


そうして、破壊された月は、3つに分裂し、今も夜を 照らしているのでした。



******************************



「って、わけだよ。アリー。」


「ライレーン。 その話、いったい誰に聞いたの?」


「さっき、マックフライさんが、道端で話してたよ。

 結構、話を聞くために、人が集まってたなぁ。」


「いや、それ明らかに、嘘だからっ。

 そもそも、マックフライ砲に、そんな威力ないって。

 それだけの 威力があったら、大変だよ。

 あれを受けたカーネルさんの体に、穴が開いちゃう。」


「そんなことないって、アリー。

 ボク、マックフライ砲を 極めるよ。

 いつか、月を 破壊して見せるんだっ。」


いったい、ライレーンは、何を目標にしているのだろう・・・。 まぁ、破壊するのが、月ならいっか。 人の体に穴を開けたりしなければ、問題ないよね。


******************************



後に、風神姫と呼ばれるライレーンは、マックフライ砲を極めることになる。


ただ、悲劇の物語の一幕となるものでは、あったが・・・。


しかし、それはまた別の話。



=== ===== === ===== ===



王都の夜空には、ただ、3つの月が並び、少女の顔を照らしていた。



=== ===== === ===== ===

竹取物語を読んだことがある人は、高評価を押して次の話へ⇒


疲れた・・・蛇足は、次話に書こうと思います。まさか1万字を超える話になるとは・・・

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