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2-116.鉱石の精製

ジルコンと、チタン鉱石が、研究室に届いたのは、3日後だった。


ジルコンは、火成岩、特に花崗岩の中に 微小な結晶として広く産する。 風化変質に強い鉱物であるため、砕屑粒子として 砂岩などの堆積岩にも広く見られる。 また、ジルコンは、ウランやトリウムを成分として多く含む。 ウランは、崩壊を繰り返し、最終的に、鉛となって 安定することから、ジルコニウム鉱から取れる 鉱石の ウランと鉛の量を 正確に測定することにより、年代測定を 行うことが出来る。 ジルコンは、年代を決定する貴重な鉱石なのだ。


資源としては、海浜や河川の岸や砂丘で 砂状に濃縮した 漂砂鉱床から採ることが出来る。 ジルコンは、珪砂に混じって 磁鉄鉱や イルメナイト、ルチル、モナズ石などと共に存在している。 これは、プロセム王国の フクシマ州イシカワや、ギフ州ナカツガワにある 漂砂鉱床付近の 砂礫などから、採取することが出来る。


自然界には、純粋なチタンの単体は存在しない。 化合物として、鉱石の中に含まれるのだ。 火成岩や そこから得られた沈殿物の中に多く含まれ、世界中に広く分布している。 もちろん、プロセム王国 アニャヴラド州 ルーボコヨチの森は、その代表的 産地である。



******************************



朝、目覚めるたびに、新しく生まれ変わった 自分に出会える。


そんな、素敵な目覚めが、私は好き。


無くした 何かを、見つけられる気がするから・・・


固いソファーで眠ると、起きた時、体の節々が 痛む。


瞳を開け、何かを探すように あたりを見渡す。 暗いっ。



「うそっ。 また?」



窓に見えるのは、格子・・・。 なんか、シャッターが、下りているような気がする。


這いだしたばかりの ソファーの上に見える毛布は、 抜け殻みたい・・・。


とにかく、朝なのか、昼なのか 分からない。 分厚く重いカーテンを持ち上げる。 シャッターの隙間から差し込む 光があるので、夜でないことだけは、なんとなく 分かる。


廊下に出ようとすると、足元にあった 何かに、つまづいた。 ボトル・・・。 水の入ったボトルが 並んでいる。


そして、当たり前のように、研究室の入り口には 鍵。


ちょっと・・・ アリーぃぃぃぃ。 やっと帰れると思ったのに・・・。 出してよぉ。




[美容師の娘]  【 2-116.ジルコニウムとチタン 】




研究室のシャッターを 上げると、まずは、私の休憩室に向かった。


「うわぁ。 汚いっ。

 ボクちょっと引いちゃうな。 アリー、片付けしようよ。」


「もぉ、この前、片づけたところなのにぃ・・・。」


「猫のエサが無くなったので、研究室を開けて欲しい」と、ライレーンが言うので、私は、3日ぶりに 研究室に顔を出した。 ドアを開けて ビックリっ。 困ったことに、私の休憩室が、ゴミだらけになっている。 ライリューンの仕業に 違いない。


「ライレーン。 ちょっと手伝ってよ。

 このゴミを 片づけるだけで いいから。」


「ごめん。 アリー。 猫がお腹を減らしてるから 無理っ。」


あぁん。 ・・・逃げられた。 スタコラサッサという音が 聞こえるようだ。


ライレーンって、こういうことから、逃げるの上手いんだよねぇ。 仕方ないので、一人で 片づけることにする。


・・・ん? ゴミの中の毛布が動く・・・。 あっ、何かが出てきた。


「あぁ。 明るいっ。 窓から光が射してる。 うれしいっ。」


なんだろう? 身振り手振りが大げさすぎるっ。 ライリューン、窓に向かって 神に祈りを捧げなくていいから、お部屋の片付けをしようよね。 ほんと、これだから、ホームカンシ教の 信者は、困る・・・。


散らかっている 朝食用シリアルのゴミを拾い集めて、やっと片付けが済んだ と思った時に、荷物が届いた。 プロセム王国からの荷馬車が、到着したのだ。


運び込まれたのは、ジルコンと、チタン鉱石と、イルメナイト鉱石。 クリスタルガラスを作るためには、まず、これを精製しなければ、ならない。



じゃ、ジルコンの精製から 始めようかな?


まずは、選鉱だ。 浮遊選鉱を行う。


採掘・砕石して、細かくなった鉱物を、界面活性剤や油脂などの薬品とともに水槽に投入し、撹拌。 ぶくぶくと泡を発生させる。 泡と共に浮上する石と、沈む石で分けることで有用な鉱物を収集する手法が、浮遊選鉱だ。 一般に、岩石の表面は 水に馴染みやすく、金属は 水をはじきやすい疎水性だ。 そこで、水と油性溶液が混じった液体に、鉱石の粉末を加えて 撹拌する。 そうすると、水に馴染みやすい粒子は、水とまじわって沈み、疎水性の粒子は、油性溶液に まとわりついて浮く。 この方法は、低品位の鉱石からの回収率を上げることが出来るため、非常に便利だ。 大量の廃液が出るのは、少し問題だが、とりあえず、近くの川にでも、流しておこうっと。


ジルコン、ジルコニウム鉱を、比重の差を利用した、比重選鉱で珪砂を除いたうえで、比重や磁性、電導性を利用して、イルメナイト、ルチル、モナズ石を選別し、ジルコン精鉱とする。


次に必要なのは、水酸化ナトリウムだ。


さきほど作った、ジルコン精鉱を、水酸化ナトリウムを使って、溶融させる。 この溶融によって、シリカを分離し、除くのだ。


水酸化ナトリウムという アルカリ性のものを使って 溶かした後、次に来るのは、簡単に予想できるだろう。 酸での分解だ。


塩酸で、これを分解することで、オキシ塩化ジルコニウムを作るのだ。


出来た オキシ塩化ジルコニウムを水洗いする。 そして次の工程が、ろ過だ。 こうして、水酸化ジルコニウムが出来る。


よし、あと一息っ。 焼くっ。 研究室の外に移動し、風魔法で クルクル回転させる窯の中に、水酸化ジルコニウムを投入。 そして、火魔法を使って焼き上げるのだ。


かんせーいっ。 ZrO2・・・ キラキラと輝く、模造ダイヤモンド・・・ 二酸化ジルコニウムの出来上がりだ。 キレイだねぇ。 これ、固めて宝飾品として売っても、高く売れるかもしれない。


キラキラの石を粉砕すると、ジルコニアの粉末が出来る。


出来たー。 次は、チタンの精製だ。


チタン鉱石、濃縮したイルメナイト鉱から、さくさくっと、二酸化チタンを作ろう。


まずは、イルメナイト鉱を、濃硫酸に溶かす。 こうすることで、中に含まれる鉄を、硫酸鉄として分離させ、硫酸チタンと分けるのだ。


濃硫酸と反応し、鉄を分離させ、生成した硫酸チタンを水で加水分解すると、容器の底に、チタン水酸化物が沈殿する。


この沈殿物を、水洗し、乾燥させるのだ。



「あっ、ライリューン。

 硫酸廃液に、気を付けてね。火傷するよっ。」



水洗の工程で、どうしても、硫酸の廃液が出てしまう。 硫酸が、顔に飛んだりしたら、大変だ。 また、硫酸は濃度が薄くても、飛び散った液体を放置すると、水分が揮発して濃硫酸になるから、廃液であっても、注意して扱わなければならない。 とりあえず、近くの川にでも、流しておこう。


研究室の外に移動し、回転式の窯にチタン水酸化物を放り込む。 またも、風魔法でクルクル回転させながら、1000度以上の高温で、物質を反応させる。


ちなみに、ジルコニウムの融点は、2715度、チタンの融点は、1668度。 1000度程度の熱では、溶けることは無い。 この火魔法による加熱は、融点の90%を超える温度が、目安となる。


集合体を、融点よりも低い温度で加熱すると、固まって緻密な物体ができる。 この焼結体と呼ばれる物体が、窯の中で焼きあがっているのだ。 互いに接触している粒子は、熱力学的に非平衡な状態にあるのだが、ここから表面張力により、表面の面積を減少する方向に物質の移動が起こり、粒子間に結合が生じて 緻密な物体となるというわけ。


ということで、ジルコニウムと、チタンが、完成。 これらを、珪砂や、カリウム、カルシウム、ソーダ灰という ガラスの主成分に添加して形成すれば、クリスタルガラスが 出来るはず・・・。



「ライリューン。 ちょっといい?」


「ヤダっ。 閉じ込められるの、もう嫌っ。」



ちっ・・・。 カンが、良くなってる。



「大丈夫。 通気性のいい場所で やる作業だから。

 屋根とかは、あるけどね。」


「じゃぁ、いいよ。 何したら いいの?」



 ドンっ・・・ ドン ドンっ



ジルコニウム粉末、チタン粉末、珪砂、カリウム、カルシウム、ソーダ灰・・・。 材料の入った容器を、窯の前に置いてゆく。 あぁ重ぃっ。



「え?」


「割合が、分かんないんだっ。

 うん。 ブレンディングと一緒だね。 混ぜるだけだから。」


「いや、どのくらい混ぜるか 分からないんだよね?」


「そだよ。 今から、それを調べるの。」


今度は、回転しない普通の窯の前に、ライリューンを立たせる。 火魔法も、風魔法も、水魔法も、ライリューンは、一通りは使える。 つまり、ガラスの形成は、出来ると いうことだ。


「えーと・・・。 いやな予感しか しないんだけどっ。」


「大丈夫。 ライリューンならできるっ。

 最適の配合割合を見つけて、クリスタルガラスを作るだけ。

 いけるって。」


風魔法で、ひゅんと 空中へと 飛び上がる。


「じゃ、ライリューン。お願いねっ。」


「ちょっ・・アリーっ。 こんなの無理だって。

 窯の前に、材料置いていくだけで、出来るわけないじゃない。

 待ってよ。 いかないでぇぇぇぇ。」


待てと言われて 待つ泥棒は いないっ。


私は、今から カジノの横に、馬車の昇降用の建物を 建てなくちゃ ダメなの。


ふわりと 浮き上がって見上げる 空の青さが、私の 白い吐息を 受け止める。




=== ===== === ===== ===




その青い空間に、地上に残された少女の悲鳴が、響いた。


「これは、ホント無理よぉぉ。 アリー、待って。


 せめて、手伝ってぇぇぇぇぇぇ。」




=== ===== === ===== ===

朝、目覚めるたびに、新しく生まれ変わった気分になれる人は、高評価を押して次の話へ⇒


蛇足1.まずは、選鉱だ。浮遊選鉱を行う。


 とっても便利な浮遊選鉱ですが、選鉱に用いられる

 廃水中の重金属が下流で濃集し、鉱害を発生させる

 事故が発生することがあります。


 日本でも、栃木県と群馬県の渡良瀬川周辺で、足尾

 銅山で起こった鉱毒事件や、神通川下流域の富山県

 で発生した神岡鉱山の鉱毒事件が有名です。


 足尾銅山を経営していた会社は、経営合理化のため、

 リストラをする際に、「既婚の女子である」ことは

 解雇することに合理的と言う理由で、

 「やむを得ない事業上の都合」による解雇を行い、

 裁判を起こされ、勝訴するという珍しい事件を

 起こしたりもしています。


 いや、これは、事件を起こしているわけでは

 なかったですね。


蛇足2.硫酸廃液に、気を付けてね。火傷するよっ。


 1時間目の理科の授業。

 ある高校生の女の子が、ちょっとしたいたずらで

 友達の女の子の椅子に、薄い硫酸を垂らしました。


 理科の授業も終わり、お昼の休憩も済んでしばらく

 すると、悲鳴が起こります。


 なんと、友達のスカートに穴が開いただけで

 なく、その下の下着にも穴が・・・。


 お尻も、火傷してしまいます。


 大きな騒ぎとなり、高校生は、ひどく怒られ、

 周りの大人たちは、事件のもみ消しに大変だった

 と聞きます。


 アシッドアタックは、硫酸・塩酸・硝酸など酸を

 他者の顔や頭部など身体にかけて、火傷を負わせ、

 顔面や身体を損壊にいたらしめる行為で、25歳

 から34歳の女性が、被害を受けやすく、男性優位

 で女性の立場が弱い地域で起こりやすいDVとして

 起こりやすいそうです。アシッドアタックが盛んな

 国としてバングラデシュ、パキスタン、インド、

 コロンビア、カンボジアなどが有名です。


 また、原因として、友人関係や男女関係のもつれなど

 で起こる場合もあり、2021年8月24日、東京都

 港区の地下鉄白金高輪駅構内で、25歳の男が、大学

 時代のサークルの後輩に硫酸をかけ、顔などに怪我を

 させた上に、通りがかった女性の足にまで火傷をさせ

 る事件なども起こっています。


 何が怖いって、酸を簡単に手に入れられているという

 ことが怖いですね。


蛇足3.炭酸を水に溶かす。CO2


 10月24日に、中国が、エネルギー消費に占める

 非化石燃料の比率を、2030年までに、2020年の

 16%から、25%まで引き上げる目標を示したそうです。


 10月25日には、世界気象機関が、温室効果ガスである

 二酸化炭素やメタンなどの2020年の世界平均濃度が、

 観測史上、最も高い値になったと発表したそうです。


 こういう目標の導入の発表と、実際に起こっている現象を

 見ると、ガソリン車が、10年以内に、日本などから

 ほとんど無くなってしまい、大昔にあった遺物みたいな

 存在になるんなんだろうなぁって思いました。


蛇足4.ワイン


 毎年11月第3木曜日午前0時に解禁されるのが、

 ボージョレ・ヌヴォーですが、今年は、11月18日に

 販売が解禁されます。


 と、いうことで、一昨日、サントリーのボジョレーヌーボー

 2021が、関空に到着したみたいです。


 3週間も前に到着しているのに、ずっと飲めないというのは、

 面白いなって、思います。

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